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超Q探偵  作者: XI
190/204

41-2

 翌日、昼過ぎ。


 新しい死体があがったとの旨を、ミン刑事から電話で受けた。現場はまたアパートの一室とのことだった。


 事務所から十分程度歩いて目的地に到着した。新品と言っても差し支えがないくらい綺麗な建屋だ。一階の部屋に足を踏み入れると、廊下の先にミン刑事の姿が見えた。彼は広いリビングでうつぶせに倒れている赤茶けた髪の女性を見下ろしていた。死体である。首のあたりを中心に血だまりが広がっている。わざわざ仰向けにせずとも、喉元をかっきられたことが窺い知れた。


 狼のものに違いない。ベランダに続くガラス戸には赤い右手の痕跡。やはり被害者から溢れ出る血液に手をひたした上で触れたのだろう。付着している手形は多少ならず乾燥しているように見受けられる。殺害からそれなりに時間が経過しているということだ。


「犯人はターゲットのあとをつけたものと推測される」とミン刑事。「対象が玄関の戸を開けたところで素早く動いて喉元にナイフをあてがい、中へと押し入り、このリビングで殺害した」


 私は小さく、二度、三度と小さくうなずいてからしゃがみ込み、死体のそばに置かれている茶色い紙袋に注目した。中を覗いてみると、りんごやオレンジが入っていた。


「ナイフを突きつけられた際に、被害者はビックリしてその紙袋を落っことしちまったんだろう。玄関には中身が散らばったことだろうさ」

「その中身を、犯人はわざわざ拾って紙袋に戻した」

「異常者の考えることはわからん。とにかく気味が悪い。鳥肌もんだよ」

「第一発見者は?」

「夫だ。遠方に出張に出ていて今日戻ってきたらしい。えらく取り乱してくれたんでな。とりあえず退出してもらった」

「近隣において目撃情報は?」

「やはりない」

「ふむ」

「この現場を見て、何か気づいたことはないか?」

「ありませんね。ヒトの首を切り裂いて殺し、その人物の喉元から流れ出る血液に右手をけた上でガラス戸に触る。それは一貫した行動であり、いたってシンプルだ。であるからこそ、何か他に手掛かりを見つけ出すことは難しい」


 ミン刑事は鼻から息を漏らした。彼は「昨日の発言の通りだ。俺は狼さんが怖い。だからといって、無視できるような事件でもないわけでな」と述べ、「ホント、厄介な手合いに出くわしちまったもんだよ」と言いつつ頭を掻いた。


「昨日の今日だ。スパンが短いのが犯人の特徴と言えますね」

「それだけ飢えてるってことじゃないのか?」

「そうなのかもしれない。フツウに思考するなら、ほとぼりがさめた頃にやったほうが安全であるわけですから」

「警察の動きなんて気にしない。まさに跳梁跋扈だな」

「警戒には、より力を入れている?」

「無論だ。パトロールにいている人員は普段の二倍だ。ウチのキャパからすると、それが限界なんだが」

「近隣の警察からの応援は?」

「隣町、『リンリー』の同僚に要請を出しちゃいるが、ヒトを貸しちゃもらえんだろうな。どこの警察も人出不足は深刻だ。横のつながりを密にしていこうということは確認し合ったと先に言ったが、実際にできることといえば、情報をシェアするくらいのもんだ」

「それはしかたありませんね。理解できる話でもあります」

「下っ端に任せてばかりいるんじゃなくて、俺も警らに加わるべきなのかもしれん」

「その手はナシでしょう。貴方が本来の役割を離れた場合、同時並行的になんらかの凶悪事件が発生すると、対処しきれなくなる可能性がある」

「だな。当座は狼さんの動向を探ることに注力したいもんだ」

「そういうこと、ですね」

「男にせよ女にせよ、想い人を亡くしちまったゆえに流す涙ってのは、見ていて実につらい。胸糞が悪くなると言ってもいい。だから狼を憎みたくもなる。顔に出さないというだけであって、実はおまえさんもそうなんじゃないのか?」


 私は何も答えず、ただ小さく肩をすくめたのだった。


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