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超Q探偵  作者: XI
188/204

40-6

 警察署を訪れた。窃盗やらケンカやら、どうでもいいちんけな事件の受けつけでごった返している一階。呼び出してもらうと、例によってミン刑事はぼさぼさの頭をがしがしと掻きながら、年季の入った木製の螺旋階段をおりてきた。彼は私の前に立つなり、「よぅ、ご苦労さん」と言った。


「で、弟君はどうなった?」

「自殺されました」

「首尾は上々ってわけだ」

「貴方ならそうおっしゃるだろうと思いました。あとは裏を取るだけです」

「ああ。街の宅配業者を片っ端から洗わなきゃならん」

「自首してもらえると助かりますね」

「だな。にしても、今回も良く働いてくれたよ。感心するぜ。探偵サン?」

「お褒めの言葉は素直に受け取っておくことにしますよ」

「そうしろ」


 メイヤ君が横から「ミン刑事っ」と口を挟んだ。彼女は「実に後味の悪い案件でした」とほおを膨らませ、両手で『ちょーだい』のポーズ。「報酬をください。はずんでください」だなんて言う。


「そう急かすなよ、メイヤ。言われた通り、今回はちょっと多めに振り込んでやるから」

「お断りです。キャッシュでください」

「今はあまり持ち合わせがないんだが」

なんウーロンあるのですか? 一万ですか? 二万ですか?」

「わかった。わかったよ」


 ミン刑事は長財布からさつを取り出すと、ぺろっと指を舐めてから、一枚二枚と数え始めた。そのさいちゅうに束ごとぶんどったメイヤ君である。


「お、おい、メイヤ」

「食費にします。服と下着を買います。その他、雑費にあてさせていただきます」

「十万ウーロン以上あるぜ、そいつは」

「最低だなって思いました。失望したりもしました。ヤったとかどうとか、男のヒトにとって、女のヒトっていうのは、その程度の存在でしかないのですね」

「そうは言ってねーだろうが」

「でも、ミン刑事もマオさんも、被害者女性の人権を考えるより、被疑者をあげることを優先されたではありませんか。違いますか?」

「それはまあ、難しい部分もあってだな」


 メイヤ君が「もういいですっ」と言って身を翻す。私は彼女の肩をつかまえ、「待ちなさい」と言った。


「離してください、マオさん。わたしは本当に怒っているのですから!」

「こちらを向きなさい」

「イ・ヤ・で・す!」


 私は「メイヤ君っ」と少々大きな声を出し、無理やりに彼女をこちらに振り返らせた。その力の強さに驚いたらしい。メイヤ君は身を引き、怯んだような目をした。


「私のことはどれだけ侮辱したっていい。だけれどね、ミン刑事には謝りなさい。いちいち言葉にしなくたってわかるだろう? マーサ氏が亡くなって、グラン氏が亡くなって、その結果として事件の全容が明確になってきて、その上で一番心を痛めているのは、実はミン刑事なんだよ?」


 親が子を叱りつけるような言い方になってしまった。メイヤ君は下を向き、唇を噛んで、両の拳をぎゅっと握り締める。


「馬鹿だな、マオ、おまえはよ」ふっと笑みを浮かべたミン刑事である。「なあ、メイヤ」

「……はい」

「おまえの感じ方は何も間違っちゃいない。マオはともかくとして、俺はひとでなしだ。ヒトが死のうが死ぬまいが、気になっていた事件が片付いた日の夜にゃ美味いビールが飲めるからな。そんな俺のことはいくらでも好きなだけさげすめ。だが、ご主人様のことだけは疑うな」

「男の友情ってヤツですか……?」

「まあ、そう聞こえなくもないわな」

「……気持ちが悪いのです」


 ミン刑事がメイヤ君の頭のてっぺんをくしゃっと撫でた。


「でもな? 友情がない人生なんて、つまらないぜ?」

「そう、なのですか……?」

「ああ。それは間違いない」

「……わかりました、です」

「行け、マオ。メイヤの涙なんて、俺に見せるな」



 署から出た、帰路をゆく。


 私の隣で、メイヤ君は鼻をすすっている。


「……ごめんなさい、でした」

「うん?」

「駄々っ子のようなことをほざいてしまって、ごめんなさい、でした……」

「いいんだよ。事実、君はまだまだ少女なんだから」

「子供扱いは嫌なのです」

「そうだね。ごめんね」

「わたしって、どうしてここまでダメダメなのでしょうか……」

「どこもダメダメじゃないよ」

「でもっ」

「ミン刑事も言っていただろう? 君の感じ方は間違っちゃいないって」

「……でもっ」

「ヒトはネガティヴになりがちだ。だから、前を向いて生きることを常に意識しなくちゃいけない。そのへん、君は上手くやっていると思う」

「慰めですか?」

「本音だよ」

「マオさん」

「なんだい?」

「わたし、いつか絶対に、マオさんに認めていただけるような、イイ女になりますから」

「私はかわいげがある君のほうが好きなんだけれどね」

「いつまでもガキではいたくないのです」

「いつかは大人になるといい」

「おなかが、すきました……」

「君らしいセリフで安心した。何が食べたい?」

「……麻婆豆腐」

「いいよ。そうしよう」


 私がそう言うと、メイヤ君はいよいよ涙をぽろぽろとこぼし始めたのだった。


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