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超Q探偵  作者: XI
187/204

40-5

 彼は部屋の奥、壁際にある長いソファの中央に腰を下ろすと、上半身を前に傾斜させて、ひじを抱えた。こちらは見ない。足もとばかりを見つめている。


 ソファのすぐ前にあるテーブルには紫色を発光する卓上ランプが置かれている。黒いカーテンが閉め切られた室内で、その紫色が部屋中に貼りつけられたいくつもの写真を照らし出す。いずれも被写体は同一人物。若くて美しい金髪の女性である。ありし日のマーサ氏だ。中でも目を引くのは彼の背後にある大写しである。彼女が振り返りざまに満面の笑みを向けている。


「……驚いたか?」

「驚きやしませんよ。予測の範疇ですから。貴方、お名前は?」

「……グランだ」

「グランさん。お姉様のマーサさんを亡くされたことについて、お悔やみ申し上げます」

「……ふん」

「マオさんいいんですか? そんな甘い言葉をかけちゃって」メイヤ君がグラン氏を指差した。「このヒトが事件に関わっていることは、どうあれ間違いないのでしょう?」

「まあ、黙っていなさい」私は話を進めることにする。「グランさん、イエスかノーで答えてください。それだけで結構です」

「……言えよ、なんでも」

「貴方は『興信所』を使い、マーサさんの住まいを知っていた」

「……イエス」

「マーサさんの勤め先も休日をも把握していた」

「……イエス」

「昨日、彼女の家を訪ねようとしたのは、いわゆる気まぐれだった」

「……ノー」

「では、いよいよ真摯に告白しようとした」

「……イエス」

「マーサさん宅のインターフォンを鳴らした時、違和感を覚えた。なぜなら覗き窓からの視線が感じられなかったから」

「……イエス」

「だから戸をノックした」

「……ノーだ」

「だとすると、いきなり踏み込んだ」


「……イエス」と肯定すると、グラン氏は「……もういい」と言った。「姉貴はヤられたんだ。ヤられてから殺されたんだ。きっとそういうことなんだ」と、はっきり言った。


 私が「だから、お悔やみ申し上げると言っているんですよ」と述べると、メイヤ君が、「マオさん、どういうことなのですか?」と尋ねてきた。


「恐らく、犯人は宅配業者を装ったのではないかと推測しています」

「ああ。だからつい気を緩めちまったんだろう」

「実際、業者のニンゲンの犯行だったのかもしれませんね。以前、宅配したことがあり、その時から狙っていた」

「だったら、調べてみろよ。案外あっけなく、犯人は見つかるかもしれないぜ?」

「ここに来る途中で知り合いの刑事に連絡を入れました。その線についてはすぐにでも洗われることでしょう」

「刑事に知らせたのはそれだけか?」

「いえ。経緯を話した上で、私がここを訪れることも伝えました」

「そうか……」

「ええ」

「姉貴は、姉貴は犯されたんだ……」

「ええ」

「男によごされたんだ」

「ええ」

「姉貴がけがされたって思ったら、理性ってのが吹っ飛んだ。しかばねでもいい。そう考えた。俺は泣きながら姉貴の死体を抱いたんだ」

「ええ」


 グラン氏は頭を抱えた。


「姉貴は俺のものだ。俺だけのものなんだ。言えるか、おまえに! 俺があくだと言えるのか!」

「突き放すような言い方になりますが、事実だけを述べると、屍姦は罪ではない。現行の法律ではそう定められている」

「えっ、そうなのですか?」

「そうなんだよ、メイヤ君。実際、愛し合うきょうだいがいてもいいし、屍姦するというかたちで愛を示すことがあってもいいだろう。ですがねグランさん、マーサ氏は拒んでいたんですよ。つまるところ、彼女にとって貴方は、はた迷惑な弟にすぎなかったということだ。さて、では、そろそろ問いたい」


 私は腰を屈めて、リボルバーをテーブルの上に置いた。「ま、マオさんっ!」とメイヤ君が高い声を上げる。私は左手を広げて、その訴えを制した。


「すべては明白だ。真実は明らかだ。その上で、貴方はご自分の考えをどのように昇華されますか?」


 グラン氏がゆっくりとリボルバーを両手で持ち上げた。「案外、重いんだな」と言って、薄く笑った。銃口を自らに向け、その先を自らくわえる。


 次の瞬間にはもう、銃は放たれた。

 彼の体は力なく、どっと横倒しになった。

 私は歩み出て銃だけ回収し、身を翻したのだった。


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