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超Q探偵  作者: XI
186/204

40-4

 着いた先は、とある『フートン』にあるアパートだ。日当たりは良好。三階建てで計六室。どうやら建物ごと買い上げたのが今の所有者であるらしい。アニー氏からそう聞かされた。


 アパートの前に金髪の男が立っていた。青地に白いストライプの入ったスーツをまとっている。派手な身なりだ。品があるとは言いがたい。男はいらだっているのか、右のかかとでしきりに地面を叩いている。


 私は男と向き合った。五十過ぎといった年恰好だ。ブラウンの瞳。割れたあご。顔の彫りが深く、一般的には二枚目と言える。ルーツは欧米なのだろう。


「探偵と助手ってのは、あんた達か?」

「ええ、そうですが、どこでそれを?」

「今しがた、娘の友人だった女から画廊に連絡があってな」


 アニー氏のことを指して言っているのだろうが、『友人だった女』という呼称にはトゲを感じざるを得ない。それがよっぽど不愉快だったのか、メイヤ君は大きく舌打ちしたのだった。


「貴方の息子さんにお会いしたいのですが」

「せがれは不在だ。今はいない」

「いつお戻りですか?」

「さあな」

「わかりました。ご帰宅されるまで待つことにします」

「頭の悪い男だな。消えろと言っているんだ」

「初対面のニンゲンに向かって、頭が悪い、ですか。なるほど。娘さんに見限られるわけだ」

「口は達者なようだが、あまりしつこいようだと弁護士を呼ぶぞ」

「迷惑をこうむったと感じたなら、まず通報すべきでは? それとも、警察には連絡できない、あるいはしたくない理由でも?」

「そ、それはだな」

「息子さんはご在宅なんですね?」

「ぐっ、うぐっ……」


 一転、男は媚びるような目を向けてきた。


「な、なあ、探偵さん、見逃してくれないか? い、いや、見逃してもらえませんか?」

「まずは貴方の名前を伺いましょうか」

「ジョ、ジョン・スミスです」

「嘘ですね、それは」

「ぐ、うぐっ」

「お名前は?」

「ダ、ダグ・マクマホン、です……」

「亡くなられた娘さんは貴方から見てどのような女性でしたか?」

「気丈な娘だった、と思う。な、なあ、金なら払う。好きなだけくれてやる。だから、なあ……?」

「私を拒否されるなら、速やかに警察に引き継ぐまでです」

「うぐ、ぐぐっ……」


 いきなりメイヤ君がダグ氏のほおを右手で張り飛ばした。「馬鹿ですか、貴方は」と一喝した。「子の不出来は親の責任だといいます。でも、その限りではないとわたしは思います。とりあえず、息子さんがどういうニンゲンなのか、わたし達に見せてください」


 ビンタを食らってビックリしたのだろう。ダグ氏はぶたれたほおを押さえて目をぱちくりさせる。


「見せてくださいっ!」

「わわ、わかったよ、お嬢さん。い、いや、わかりました。でも、きっと会ってはくれないだろうというか、なんというか……」

「はあ?」

「い、いや、ウチの息子はとにかくひきこもりで……」

「じゃあ、普段の食事なんかはどうされているのですか?」

「もっぱらデリバリーを頼んでいるみたいで。こっちがどれだけ呼びかけても、チェーンロックは外してもらえないんだよ。だから、ドアのすき間からいつも金だけ渡してやっているんだ」

「そういうことなら、そのすき間だけ作ってください。マオさん」

「なんだい?」

「拳銃は持ってますよね?」

「勿論だ。うん。わかった。そうだね。チェーンロックを撃とう」

「ちょちょ、ちょっと待ってくれ。銃声はヤバい、ヤバいですよ」

「お父上」

「は、はい、なんでしょうか、探偵様っ」

「本当にすき間だけでいいんです。ご子息にドアを開けさせてください」

「わ、わかった。う、うん、わかりました」



 問題の部屋は三階の一室だった。


 ダグ氏が部屋の戸をおっかなびっくりといった感じでノックする、覗き窓からジッと視線が寄越された気配があり、そのうち、ドアが開いた。やはりすき間だけである。


「……なんだよ、親父」


 ダグ氏の息子が敵意に満ちたその声を発した瞬間、私は二人の間に割り入る格好でドアのすき間に左足をこじ入れた。すでに右手にはリボルバーがある。


「たた、探偵さん、だから銃はやめてくださいっ」とダグ氏が訴える。

「黙って」私はぴしゃりとそう言った。

「……探偵?」息子の暗くて低い声。「……探偵が、なんの用だよ」

「貴方にはもうわかっているはずです」

「……帰れっ」

「本当に撃ちますよ?」

「……弾でチェーンが切れるのかよ」

「意外といい質問をされますね。ええ。切断できないかもしれない。ですが、私がひと言伝えれば、警察が動きます。この頑丈な鉄扉でさえ、こじあげられてしまうことでしょう」

「……左足、引っ込めろよ」

「本当に警察を呼びますよ?」

「いいからっ。……足、引っ込めろ」

「わかりました」


 一度、ドアが閉まった。それから今度は大きくドアが開け放たれた。


「……入れ」


 そう聞こえた。


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