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超Q探偵  作者: XI
182/204

39-4

 楽屋の裏口から真っ暗な路地に出た先で、ミン刑事と出くわした。こちらに背を向け煙草を吸っている。メイヤ君に「無事、解決です」と言われた彼は、「おう、ご苦労」と答えたのだった。


「しょうもない事件でしたですよ」

「まったくだな。これじゃあ被害者も浮かばれん」

「彼らの演奏は聴いてらしたのですか?」

「ちらっとだけな。テクはあった。が、ヒドい『リカード・ボサノヴァ』だった。酒の肴にもなりゃしねー」

「この世界は貴重な才能を失ってしまいましたですね」

「そりゃまた、えらくスケールのでけぇ話だな」

「それくらい良かったのですよ。ウォーラーさんのピアノは」


 私は夜空を見上げた。

 月も愛想もない、しらけた夜だ。


 メイヤ君が右隣に並んだ。


「ホント、ヒトって、簡単に死んじゃいますよね」

「うん。まったくだ」

「マオさんってば、あのキツネ目さんを撃ってくださったら良かったのに」

「本気でそう思うのかい?」

「冗談です。あんなの、撃ってもしょうがありません」

「例えば刑期を終えて、シャバに出てくるようなことがあれば、彼はまた、ピアノを弾くのかなあ」

「かもしれません。でも、それって不公平ですよね。ウォーラーさんは、もう二度と弾けないわけですし」


 私の左隣にミン刑事が立った。


「メイヤ、世の中ってヤツは、不公平なことばかりだよ」

「重々承知しているつもりです。だけど」

「だけど、なんだ?」

「いえ。そんな世の中を少しでも正したいというのが、ミン刑事のお立場ではないのかと思いまして」

「そこまで自惚れちゃいない。ただ、被疑者と被害者には言いたいことが一つだけある」

「それは?」

「俺に仕事を寄越してくれてありがとう、ってな」

「ミン刑事っ」

「ジョークだよ。やっこさんにゃ身内がいないようだ。だからこっちで火葬する。天国でもピアノが弾けるように、指も一緒に葬ってやるさ」


 ミン刑事は煙草をぽとんと下に落とすと、去っていった。


「ちょっとキザですよね、ミン刑事って」

「一々、感情的にはなっていられないってことだ。彼の生き様は、刑事を勤めていくにあたってのいい事例だよ」

「さて、今夜はこれからどうしましょうか」

「飲み直そう」

「ということなら、飲みまくるですよ?」

「いいよ」

「えっ、良いのですか?」

「思う存分、飲みなさい。私がおぶって帰ってあげるから」

「そんなふうに言ってくれるマオさんは珍しいのです」

「ウォーラー氏の弔いだ。明るく見送ってやることにしよう」

「わかりました。それじゃあ、れっつらごーなのですっ!」


 次の日、メイヤ君がヒドい二日酔いにさいなまれたことは言うまでもない。


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