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超Q探偵  作者: XI
172/204

38.『彼女にとっての尊いモデル』 38-1

 夕焼け空。


 街の大通りをゆく。メイヤ君にじゃんけんで負けてしまい、だからちょっといい店へと夕食をとりに向かっているさいちゅうである。


 その道中、ふいに右手の車道から声をかけられた。「マオ先生っ」と、はずんだ声で呼びかけられたのである。そちらを振り向くと、黒塗りの車の後部座席に少女の姿。開いた窓からにっこりと笑みを浮かべ、こちらを見ている。見覚えのある顔だ。まだまだあどけない。


 車は少し行った先の路肩で停止した。少女が降車する。茶色いブレザーに同色の膝下丈のスカート。お嬢様という表現がしっくりくる。


「こんにちは。ご無沙汰しています」少女は私の前まで来ると深くお辞儀をし、顔を上げるとにこっと笑った。「うしろ姿を見てそうじゃないかと思ったんですけれど。良かったです。ひょっとしたら、もう二度とお会いできないのかもしれないと考えていましたから」

「名刺を渡したんだ。訪ねようと思えば、いつでもそうできただろう?」

「ですけど、お仕事を邪魔してはいけないと思って」

「私はけっして忙しいニンゲンではないから、いつでも来るといい」

「本当にいいんですか?」

「ああ。昔話にでも花を咲かせよう。ところで、今日はなんの用事でこの街に来たんだい?」

「『画材屋』に絵の具を買いにきたんです」

「なるほど。そうか。そうだったね。君は絵を描くのが好きだったね」

「今でも大好きです」

「そうであるなら、これからも楽しみながら創作活動に励むといい。さあ、もう行きなさい。路肩とはいえ、停車していると少なからず交通の妨げになってしまう」

「はい。では、また必ず」

「うん、会おう」


 少女は来た道を引き返すと、こちらに向かって右手を振ってから、車に乗り込んだのだった。


 メイヤ君が「あのコは誰なのですか?」と問うてきたので、私は彼女のほうに目をやった。難しい顔をしている。怒っているようにも見える。


「あのコ、マオさんのことを先生って呼んでいましたよね。なんの先生なのですか。まだ十五、六に見えましたけれど、実はセックスの先生だったりするのですか?」

「あのねぇ、メイヤ君。そんなわけないだろう?」

「そんなお言葉、信じられません。マオさんは不潔です。最低です。二度と私に触れないでください」

「わかった。不潔だとか最低だとかいう評価には抗議したいところだけれど、触れないでほしいということについては、そうしよう」

「う、嘘です。嘘ですよぅ。触れちゃダメだなんて嘘ですよぅ」

「男性が女性の体に気安く触れるのはどうかと思う」

「マオさんが相手なら別なのです。で、さっきのコのお名前は、なんていうのですか?」

「『ファン 花琳ファリン』君という」

「ファリンさんとはどういうご関係だったんですか?」

「だから、彼女は教え子だったんだよ」

「ですから、なんの教え子だったのか、お聞かせ願いたいのです」

「まずは夕食をとって家路につこう。事務所で話してあげるから」


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