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超Q探偵  作者: XI
170/204

37-4

 二、三日、街をぶらつくことに決め、私自身をエサに獲物が針にかかるのを期待した。


 初日に収穫があった。


 昼間の街中、後方で「きゃあっ!」という高い悲鳴。

 私はゆっくりと身を翻しつつ、ゆっくりと懐からリボルバーを抜いた。


 振り返った先にはテイ氏がいた。


 ブルーのジャケットに焦げ茶色のパンツ。チンピラ然としているところは変わっていない。「やはり来たか」という思いが強い。不思議と懐かしさすら覚えた。テイ氏は笑う。髪の長い若い女性の身柄を後ろから拘束し、彼女の右のこめかみに銃口を突きつけている。まるで五年前の再現だ。違うのは、シャオメイはもう、私の隣にはいないということ。


「テイさん、久しぶりです。お元気そうですね」

「いきなり軽口叩いてくれてんじゃねーよ、クソ野郎が。俺がブタバコにいる間にシャオメイが死んだだと? ふざけんなよ。アイツの『カラダ』も『穴』もサイコーだったってのによ」


 私はふっと笑って見せた。


「気持ちわりーな。この期に及んで何笑ってやがんだよ」

「テイさん。シャオメイは貴方を愛したことに嘘はないと言っていましたよ」

「あん?」

「彼女は望んで貴方に抱かれた。それは本当だということです」


 テイ氏は「ヒャハッ!」と笑った。「ヒャハハハハッ!」と爆笑した。


「だろうがっ! だろうがよっ! アイツは俺を愛していたんだ! おまえがぶんどってくれたってだけの話なんだよ!」

「彼女は言いました。貴方の弱さに惹かれたと。ええ。そこにはやはり、偽りなどないんでしょう」

「やっぱりおまえさえいなけりゃ良かったってことだろうが!」

「貴方の弱さに惚れたいっぽうで、私の強さにも惚れたんですよ。貴方は愛された。私も愛された。しかし、その理由はまるで違うということです。貴方と私とは、けっしてイコールではない。そして、強さを選んだのは彼女自身の意志だ。それは誰にも否定できない。否定させやしない」

「ヒャハッ! ヒャハハハハッ! どうでもいいな、そんなことは!」

「どうでもいい?」

「ああ、どうでもいい。どれだけテメーが愛されていようが、アイツが俺に犯されたってことには変わりないんだよ! アイツの胸元には小さなほくろがあっただろう? そこにキスをしてやると喜んだ。アイツは『イく』時、必ず両腕を首に強く巻きつけてきただろう? それから耳元で何度も「好き」ってささやきやがんだ。違うか? 違わねーだろ? ヒャッハッハァッ!」

「先に言いました。かつてシャオメイが貴方を愛したことは、厳然たる事実だと。そこに異論を挟むつもりなんて、はなからないんですよ」

「んだよ、面白くねーな。もっと悔しがれよ。もっと憎めよ、俺のことを!」

「女性を解放してください。なんの罪もないニンゲンに銃をあてがうなどあってはならない」

「うるせーよ。またぶち殺してやる。また無力さを思い知らせてやる。そいつがテメーにはお似合いだ」

「今度は外さない」

「なら、撃ってみろよぉっ!」


 トリガーを引いた。命中。銃身を撃つことでテイ氏の右手から拳銃を弾き飛ばした。女性の身を突き出すようにして遠ざけ、彼は慌てた様子で拳銃を拾いに向かう。私は歩みを進める、標的に銃口を向けたまま。一発、撃ってきた。肩をかすめた。だが、前進をやめはしない。やがて至近距離で互いの眉間に銃口を突きつけ合った。


 テイ氏は笑う。

 しかし、狂気に満ちた笑い声は、やがてしぼんだ。

 彼は苦笑いを浮かべたように見えた。

 どことなく、神妙な面持ちになったようにも思えた。


「……正直な? シャオメイがもう俺のもとに戻ってこないことはわかっていたんだよ」

「ほぅ」

「なあ、探偵さんよ」

「なんでしょう?」

「癌だったんだってな」

「ええ」

「死ぬ時、アイツは俺のことを、何か口にしたりはしなかったか?」

「何も言いませんでしたよ」

「そうか……」テイ氏は銃を下ろした。「それで、おまえにとって、俺はどういう存在なんだ?」

「昔、殺し損ねたニンゲンです。それだけです」

「俺はシャオメイのいない世界で生きようとは思ってねーよ」

「いいんですね?」

「ああ。もういい。俺は、もういい……」

「わかりました。では、ごきげんよう」


 眉間をぶち抜くと、テイ氏は仰向けに倒れた。

 死体を見下ろす。

 目を閉じ、安らかな顔をしている。

 だからだろうか。

 ざまあみろとは思わなかった。

 ただなんとなく、むなしさだけを覚えた。


 誰かが通報したのだろう。

 パトカーがわんわんと喚くのが聞こえてきた。


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