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超Q探偵  作者: XI
17/204

4-3

 メイヤ君の案内で、ここいらにあっては比較的陽の当たる『フートン』に入り、くだんの『占いの館』を訪れた。メイヤ君が「天気のいい日にだけ営業しているらしい」との情報を得た理由がわかった。『占いの館』は黒色の六角形のテントある。雨風をしのぐのは難しいであろう簡易的なテントなのだ。表には男が二人立っている。えらく痩せた男とえらく太った男だ。両者ともガードマンに違いない。そんな雰囲気がある。


「マオといいます。客です」


 ガードマンの二人に、私はそう名乗った。


 身体検査をされた。今日は得物も拳銃も持っていない。所持している物といえば、名刺くらいのものだ。メイヤ君もチェックされた。「エッチです! 変なところを触らないでください!」と彼女はおかんむりだった。


 ともあれ、黒い暗幕の内へと入れてもらえた。


 中へと足を踏み入れた。何とも辛気臭い香の匂い。薄暗い部屋の中には白い煙が漂っている。紫色の丸い帽子をかぶり、これまた紫色のヴェールで口元を覆っている女性が椅子に座っていた。露出の多いドレスのような着衣も紫色である。おまけに瞳が放つ色まで蠱惑的な紫色だった。


「ほらマオさん、ちゃっちゃと座ってください」

「君が座ってもいいんだよ?」

「わたしはほら、あくまでも助手ですから」

「実は占いとか苦手だったりするのかい?」

「そ、そんなことはありませんけれど」

「意外だね。奔放なくせに不可思議なものは気味悪がったりするんだね」

「い、いいから座ってください!」


 彼女がそう言うものだから、私はやむなく占い師の女性の向かいにある木製の丸椅子に腰を落ち着けた。占い師はまだ若い。成人すら迎えていないように見受けられる。


 その占い師は私を見て、にこりと目を細めた。


「何を占えばよろしいですか?」

「その前にお話を伺っても?」

「ええ、どうぞ」

「思ったことを順々に話していきます」

「それでかまいません」

「私は探偵です。マオといいます」

「ええ」

「天気のいい日にだけ営業するという点については、このテントを見て理解しました」

「昔からそうです」

「昔から?」

「何せ、私の祖母も占い師でしたから」

「表でガードマンと会いました」

「両人ともわたしの親戚です。失業中とのことなので依頼しました」

「おばあさまは、ヒトを雇ってはいらっしゃらなかった?」

「祖母は他者に小銭を渡してテントの設営だけを手伝ってもらっていただけのようです」

「老婆が一人で商売をされる。『フートン』において、それは危険を伴うことだと考えますが?」

「それでも祖母は好んでヒトを雇おうとはしませんでした。それがポリシーだったのだと思います」

「おばあさまは孤独を好まれた?」

「そうなのでしょう。だから、一人暮らしをしていたのでしょう」

「占い師は儲かりますか?」

「上手くやれています。占い師に見てもらう。それってどのような人物であるか、見当はつきますか?」

「恐らくは金持ちなのでは?」

「その通りです。富を得ている者こそ、先行きが不安になる」

「転ばぬ先の杖を求めるというわけだ」

「その通りです」

「まだ質問をしても?」

「かまいません」

さくじつ、おばあさまが亡くなられたというのに、まるでそんなことはなかったように振る舞われるのですね」

「祖母の死は占いによって出ていましたから、特段、驚くようなことでもありません」

「ふむ」私はあごに右手をやった。「何故おばあさまが亡くなられた翌日から、仕事を継ごうとお考えに?」

「祖母から言いつかっていたからです」

「言いつけ、ですか」

「それはおかしなことですか?」

「いえ、そうでもありません」


 若い占い師は、ふふと優雅に笑った。


「それで、何を占えばよろしいのでしょうか?」

「占い師さんであれば、それすらわかるのでは?」

「形式的な質問です」

「理解しました。それより」

「それより?」

「聞きかじっただけの知識ではありますが」と言って、私は目の前の丸い玉を指差した。「占い師という職業は、本当に水晶玉を使用されるのですね」

「ああ、これですか」占い師はにこりと微笑んだ「これは雰囲気作りのようなものです」

「要するに飾りだと?」

「ええ。あったほうが『それっぽい』でしょう?」

「意外と商売っ気があるんですね」

「こういアイテムを用いたほうがお客様も安心なさいます」

「それはまあ、そうでしょうね」

「となると、私はどうやって占いをしているのか」

「その点、興味深いですね」

「勘ですよ」

「勘、ですか」

「勘が異常に働くのが占い師です。わたしはその素養を、才能を、祖母から、受け継ぎました」

「なるほど」

「わたしがおかしなことを申しているとお思いですか?」

「いえ。そうでもありませんよ。非科学的なことであろうと、その、占いですか? それが必ず当たるというのなら、信じないなどということはありません」

「貴方は柔軟な感性をお持ちのようですね」

「あるいは、単に図太いだけなのかもしれませんが」

「百発百中の勘。それを持ち得るのが占い師だということです」

「『ハズレ』はないと?」

「ええ。家系の実績から、そうだと言い切れます」

「スゴいですね」

「一般のかたからすると、そうなるのでしょう」

「本題に移ります。とある人物から依頼を受け、貴女のおばあさまが誰に殺されたのか追っています。何かわかりますか?」

「すべてわかります」

「犯人すらも?」

「勿論です。占い師の勘は万能であり、全能です。祖母が殺された場面を思い浮かべることもできますし、そうである以上、誰が犯人であるのかもわかります」

「便利な能力ですね」

「祖母を殺したのは、茶色い髪をした男です。短髪です」

「それだけだと、情報としては寂しい」

「ぎょろ目の男です」

「それだけでもまだ寂しい」

「金曜日の二十二時に街外れの娼館を訪れてください」


 占い師から告げられた娼館の名と住所を、メイヤ君がすかさずメモした。


「他に何か、お知りになりたいことは?」

「いえ、もう何も。ありがとうございました。おいくらですか?」

「占いが当たってからで結構です」

「プロなのですね」

「そうありたいと考えています」


 私は椅子から腰を上げたところで、ふと気づいた。


「お若い占い師さん」

「何でしょう?」

「おばあさまが殺されることは、占いで出ていたとおっしゃいましたね?」

「はい。申しました」

「であれば、殺されること自体を回避できたのでは?」

「祖母は、占いとは運命を司るものだと考えていました」

「ゆえに、その運命に抗うような真似はしなかったと?」

「そうです」

「貴女もそうなんですか?」

「そのように考えています」

「なるほど。わかりました」


 私とメイヤ君は、白い香が漂うテントをあとにした。


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