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私は焼酎のお湯割りをすすり、ミン刑事はジョッキを空けた。
「テイ氏がヒトを殺めた事件からまだ五年です。なのにもう刑期を終えたというんですか?」
「だから、そう言っている。裁判記録は閲覧していないのか?」
「わざわざそんなことはしませんよ。死刑以外はありえないと考えていましたから」
「テイの実家は『郊外の丘』にある。やっこさんは大した資産家の息子だよ。それすら知らないのか?」
「知りませんね。聞いたことすらない」
「野郎についたのは、親父が雇った札付きのヤメ検弁護士だった。その親父殿は裁判官にもいくらか握らせたんだろう。だから、臭いメシを食うのはたったの五年間で済んだ」
私は小さく鼻で笑った。
「それで? そんなことを今さら私に知らせてどうしようっていうんですか?」
「警告だよ。おまえに対するテイの復讐は、まだ終わっちゃいないことだろうからな」
「私を殺しに来ると?」
「あるいはな」
「だったら受けて立ちますよ。私にはもう、失うものなどありませんからね。相打ちでもかまわないくらいだ」
ミン刑事がすーっと右手を伸ばしてきた。何をするのかと思っていると、その手でいきなりほおを軽く張られた。煙草をくわえた彼は一つ煙を吐くと、「阿保抜かせ」と言った。
「失うものなんてない? おまえには義務がある。メイヤのために生き抜くっていう義務がな」
張られたほおをさすってから、私は改めてお湯割りを口にした。
「まあ、そうですね。ミン刑事、貴方のおっしゃることはもっともなのかもしれない」
「だろうが」
「ええ。となると、彼は彼なりに私の身辺を調べた上で、メイヤ君を狙ってくる可能性がある。私に苦い思いをさせようと考えているのであれば、彼は手段を選ばないでしょう」
「冷静なおまえさんに戻ってくれたようで助かるぜ。そこで相談だ」
「相談?」
「メイヤのことは俺に預けたらどうだ? 『こと』が片付くまで、ウチで面倒を見てやる」
「ありがたい申し出ですが、いいんですか?」
「かまわんさ。のっぴきならない理由があるってんなら、メイヤだってわかってくれるだろう」
「確かにのっぴきならない理由ではあります。その点の説明についてもお任せしても?」
「ああ。俺から話しておく」
「手間をかけて申し訳ない」
「いいから上手いこと処理して戻ってこい。死体袋を用意しておいてやる」




