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超Q探偵  作者: XI
165/204

36-4

 あくる日。


 ミン刑事はいまだ非番中だ。クイーン候補が殺害された事件については、彼が出勤してから話をしようと考えている次第である。私の話に真摯に耳を傾けてくれる警察関係者。そういった人物はミン刑事しか思い浮かばないからだ。上手いこと賄賂を得て上手いこと甘い汁を吸う。警察という組織は少なからずそういうニンゲンで構成されている。やはり腐り切っているのだという思いを新たにするわけだが、その点について残念に思いつつも、さほど憤りや怒りは覚えたりはしない。ただそういうものなのだと当たり前に捉えて対処するだけだ。


 メイヤ君と少し早めの夕食に出た。警察署の近くの焼肉屋だ。早速彼女は肉ばかりを網にのせる。野菜の盛り合わせも頼んだのでそれを食べなさいと注意したのだが、彼女は肉ばかりを食べることをやめない。肉食系で獰猛なのだ。まあ、「美味しいですねーっ」と笑顔を向けられると、こちらも諦観の吐息をついてしまうのだが。


 私も肉に箸を伸ばす。その時だった。突如として高い銃声が二つ。それからすぐにドーンと低い爆発音が鳴った。少々距離のあるところから聞こえた。方角としては警察署のほうからである。メイヤ君が肉をほおばったまま走り出す。私も会計を済ませると、急いで彼女のあとを追った。


 署の前には警察連中の姿。発砲音、あるいは爆発音を耳にして外に飛び出してきたのだろう。歩哨を勤めていたと思われる二人の男が向こうで仰向けに倒れているのが見えた。歩みを進め、「爆発ですか?」と近くの私服警官らしき人物に尋ねたのだが、彼は「見りゃわかるだろ、馬鹿野郎」と乱暴な口調で返してきた。


 爆発音が鳴り響いたのだ。火薬臭く、煙も立ち上っている。爆弾は確かに署の前で炸裂したのだろう。そして、ヒトの肉片が辺りに散り散りになっていることから考えると、その事情についてもある程度の予測がつく。


 一人の制服警官が引っくり返っている歩哨をあらためる。警官は首を横に振った。どうやら二人とも事切れているらしい。


「一体、どういう話だってんだ?」乱暴な口調を寄越してくれた私服警官が隣で言った。「どうしてまた、爆破なんかしたってんだ?」

「単なる爆破ではありません。自爆でしょう」

「そんなことは見たらわかる。どうしてそうしたのかって話だ」

「推測を述べます」

「言ってみろよ。馬鹿野郎」

「馬鹿馬鹿と連呼されると発言したくなくなるというものですが?」

「わかったよ、悪かった。その推測とやらを述べてみろ。アンタは探偵さんか何かなんだろう?」

「ええ、そうです」

「見解を言ってくれ」

「先だって、とある公園でミスコンが開催されたことはご存知ですか?」

「知っている。舞台の下で爆発が起きて、それでクイーン候補とやらが死んだって事件だろう?」

「推理します」

「言ってみろってんだよ」

「犯人は恐らく男です。そして例えば、男はクイーン候補に想いを寄せていた。だから舞台の下に爆弾を仕掛けた」

「理解できなくもないな。だが、やり口については疑問が残る。わざわざ爆弾を使った理由がわからない」

「犯人にとっては、それが最もスマートなやり方だったからですよ」

「色恋沙汰が原因である場合、犯人は後先考えずに犯行に及ぶものだと考えるが?」

「そうではないケースもあるということです。犯人はクイーン候補を殺した上で逃げおおせようとした。だが、一つだけ問題が生じた」

「そいつはなんだ?」

「犯人は爆弾によってクイーン候補を木っ端微塵に吹き飛ばしてやるつもりだった。犯人はそうなる様子を現場の付近で見守っていたのかもしれない。しかし、狙い通りにことは運ばなかった。女性は吹き飛ばされて地に打ちつけられただけだった。この時点で思惑と結果が乖離している。犯人はとりあえず急いで場を立ち去ったことでしょう」

「その後の成り行きについては?」

「犯人はクイーン候補の遺体がどう処理されたのか尋ねたのだと考えられます。警察関係者に金を握らせてね」

「ウチのニンゲンに金を寄越して、何を訊いたってんだ?」

「犯人はある程度、『裏の世界』のことを知っていた。だから疑念を抱いたんです。死しても原形を留めているクイーン候補の遺体を、警察は『剥製屋』に売り飛ばしたのではないか、とね。犯人はその線を疑ったからこそ、おたくら警察に賄賂を渡してまで、実態を知ろうとしたんです」

「で、実際、その考えは正解だった。犯人からすれば、それがゆるせなかったということか?」

「そうとしか考えられませんね。だから復讐するために警察署を訪れた。本来なら署内に爆弾を放り込むつもりだったんでしょうが、歩哨のニンゲンは不審者だと判断したんでしょう。だから発砲した。しかし、犯人はそうなるかもしれないと予測していた。だから最後の手段として自爆した。爆弾は腹にでも巻きつけていたんでしょうね」

「犯人はそのクイーン候補とやらを殺した上で逃げおおせるのが、第一の目的だったと聞いたつもりだが?」

「『剥製屋』に流されたことが、とにかくゆるせなかったんですよ。それで彼の導火線に火がついた。だが、くどいようですが、警察というこの街では一番の武装組織を相手に回して無傷で復讐できるとは考えなかった」

「死なばもろともってことか」

「そうなりますね。歩哨の警官二人に感謝したほうがいい。彼らは有能だった。不審者の前に立ちはだかり、かつ発砲することで、あるいは貴方の命を救ったのかもしれないのだから」

「なるほどな。そこまでは頭が回らなかったよ」

「ミン刑事ならそうは言いませんよ? あなたがたはもう少し、彼から学んだほうがいい」



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