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あいにく、三日間、ミン刑事は非番らしい。まあ、そんなことがあってもいいだろう。
警察に事件を引き継いでから事務所に戻ると、ソファに座ったメイヤ君が、「どういうことでしょうか?」と問いかけてきた。「ちょっと異常です。たかがミスコンごときに爆発物を仕掛けるだなんて」
「参加者の誰かになんらかの恨みを抱いていたんだろう」彼女の向かいで私は答えた。
「恨み、ですか?」
「ああ」
「だとしたら、標的だけを狙えば良かったのでは?」
「刺殺や銃殺という手法を使ってかい?」
「はい」
「でも、それだとすぐに足がつく」
「それはまあ、その通りだと思いますけれど……」
「君はどうしたい?」
「どうしたいって、何がですか?」
「事件を追いたいか追いたくないのか、そのへんを訊いている」
「それはもう、すぐにでも追いたいのですよ。わたしは正直、ミン刑事以外の警察官はあまりアテにはできないと考えています。ですから、ミン刑事が席を空けている間は、わたし達が速やかに初動捜査をする必要があると思うのです」
「ミン刑事のフォローをしようというわけだ」
「平たく言えば、そういうことなのです」
「穴を埋めたところでギャラをもらえるという保証はない」
「良い働きをすれば必ずもらえるはずです。ミン刑事は律儀なかたですから」
「ふむ。ところで、例えば亡くなった被害者、クイーン候補だった彼女に親族はいるのかな」
「どういうことですか?」
「いや。いないのであれば、真っ先に『剥製屋』に売り飛ばされることだろうと思ってね」
「警察はそこまで腐っているのですか?」
「それこそミン刑事は別だけれど」
「でも、事件の引き継ぎについてはマオさんがされたわけです。であれば、ご遺体の横流しなんて、そう簡単にはできないはずです。マオさんは警察に一目置かれていることでしょうから」
「その反面、私のことをうとましく考えている警察官も多くいる。彼らは私の存在など認めていないことだろう」
「質問です」
「なんだい?」
「親族の同意を得た上で、警察が遺体を『剥製屋』さんに横流しすることもあるのかなあと思いまして」
「結論から言うと、ありうる。『剥製屋』から受け取った金を関係者で山分けするんだよ」
「ヒドい話です」
「そうであることには違いない」
「で、まずはどう動きましょうか」
「爆弾を仕込んだのは、舞台を設営したバイトだろう。その仕事の性質上、履歴書のやりとりが行われたとは考えにくい。運営者側からすれば、単に人手が欲しかっただけなんだから」
「裏を返せば、必ず主催者側に犯人がいるということですよね?」
「でも、手をくだしたニンゲンを探すのはナンセンスだ。捕まえられるとも思えない」
「だったら本件についてはお手上げなのですか?」
「正直なところ、そう判断するしかないと思う」
「無情です、本当に、この街は……」
「事象を安易かつ感情的に解釈することは良くない。真っ向から現実を直視した上で答えを導き出すしかないんだよ。君の価値観は尊いものだけれど、もう少しシビアになったほうがいい」
「むぅ、努力はしますけれど……」
「とはいえだ、明日にでも『剥製屋』を訪ねてみよう」
「おぉ、なんだかんだ言っても捜査開始ですか」
「やれることはやっておこう。探れるものは探っておこう」
「そうしましょーっ」




