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ミン刑事が我が事務所を訪れた。ソファにどっかりと座る。いそいそとコーヒーカップをテーブルに並べたメイヤ君が、私の隣についた。
「彼は今にも撃ちかねない様子だった、だから身の安全を図るために撃った……。とでも言えば満足していただけますか?」
「抜かせ。ほんの数秒のギャップだよ。おまえさんが撃たなけりゃ、三秒後には俺が頭をぶち抜いてやっていた」
「ウォズ刑事が彼とどこで出会ったのかという点については訊き出したかったところですが」
「まあ、それはそうだわな。シノミヤ、か……」
「はいっ」メイヤ君が右手を上げた。「確認です。シノミヤさんっていうのが、過去三件の被疑者なのですよね?」
「被疑者というか、犯人だと思う」」
「確信があるのですか?」
「色々とあってね」
「その色々とやらを聞かせていただきたいのです」
「メイヤ」
「なんですか、ミン刑事」
「これは大人の、いや、男の世界の話なんだよ」
「それってちょっとしたセクハラですよぅ、ぶぅぶぅ」
「そう口を尖らすな。それにしても、白い狼か……」
「ええ、そうです」私は思うところを口にする。「以前にも述べた通り、真っ白な肌をしていました。真っ白な髪をポニーテールに結っていました。瞳だけが紅茶色でしたね。長身です。私と同様に細身でもあった。しかし、腕力はありそうでした。爪の先まで神経が行き届いている。そんな洗練された立ち居振る舞いだった」
「で、その男は、シノミヤ、なんていうんだ?」
「シノミヤ・アキラというそうです」
「名前と特徴から改めて洗ってみるしかないな」
「お手数ですが、お願いします」
「そんなことを気にかけてもらおうだなんて思っちゃいない」
「現状は、『オモチャ』を見つけて遊んでいるように見受けられますね」
「どういうことだ?」
「彼の魅力に惹かれた人物はウォズ刑事以外にもいるのではないかということです。実際に調べてみればいずれはわかることでしょうが、同様の事象が近隣の街でも起きているかもしれない」
「だとするなら、やはりあちこちに探りを入れてみる必要があるな」ミン刑事が腰を上げた。「にしても、思うに、どうやらおまえとそのシノミヤさんとやらは、因縁浅からぬ仲であるように思うが?」
「私はそう望みませんが、それって刑事の勘ですか?」
「まあ、そういうこった」
じゃあなと言って、ミン刑事は身を翻し、立ち去った。
「ねぇ、マオさん」
ふいにそう呼びかけられ、私は隣を振り向いた。メイヤ君が私のほうを見上げている。
「マオさんってば、ウォズ刑事の顔面を、あっけなく撃っちゃったじゃないですか?」
「それがどうかしたかい?」
「いえ、その、えっと、あの」
「うん?」
「こんなこと、言っちゃいけないのかもしれないのですけれど、ヒトを平然と撃てるマオさんのことを、わたしはとても頼もしく思ってしまったのです」
「ありがとうとも、ごめんねとも言えないね」
「死なばもろともってヤツです」
「どういうことかな?」
「マオさんが地獄に落ちるのだとするなら、わたしはその時、きちんとおともをしますから」
「それは嬉しいけれど」
「嬉しいけれど、なんですか?」
「いや、なんでもないよ」




