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超Q探偵  作者: XI
155/204

34-5

 夜の帰路、大通り。


 近所から女性の甲高い悲鳴が上がった。なんだろうと思ったのも束の間のこと、数十メートルほど先の右手の『フートン』から男が一人、飛び出してきた。


「なんの因果か」


 苦笑しながらそうつぶやいた私は、こちらに駆けてくる男に銃口をやり、「止まりなさい!」と警告を発した。


 私に通せんぼをされた格好の男は立ち止まった。肩ではあはあと息をしながら銃を向けてくる。男が出てきた『フートン』から続いて姿を現したのはミン刑事だった。彼は男の背に対して銃を構えつつ、にじり寄る。


「ウォズ、もう諦めろ。今、降参したら、死刑台で首をくくれることだけは保証してやる」


 そう。

 男はウォズ刑事。


 彼は背後のミン刑事に銃を向け、それからせわしなく私のほうへと改めて銃口を寄越した。その手はがたがたと震えている。


 ミン刑事は右手で銃を握ったまま、さっと左手を上げた。「全員、動くな」という合図だろう。先に発生した二件の殺人事件の被疑者とおぼしきウォズ刑事は、すでに包囲されているものと考えて間違いない。


 メイヤ君は、さっと動いて、近くの『フートン』に身をひそめた。いい判断だ。そうしてもらえると非常に助かる。


「うう、撃ってみろよぉっ!」ウォズ刑事が叫ぶ。「どいつもこいつも撃ってみろよぉっ!」

「残念ながら、そう簡単に撃ちやしませんよ」と私は返した。「貴方には訊きたいことがある」

「き、訊きたいこと?」

「貴方は誰かに影響された。違いますか?」

「……は、ははっ」と、ウォズ刑事は笑った。「あ、あのヒトのことを、おまえは言っているのか?」

「そのあたりについて、詳しく知りたいですね」

「お、俺がことをなしたのは、すべてシノミヤさんのおぼしめしがあったからだ」

「シノミヤ?」

「そうさ。シノミヤさんはヒトの魂の真実が知りたいと言ったんだ。ヒトは死を目前にした瞬間にリアルな魂の輝きを見せる。そう言ったんだ。だから、俺もっ!」

「それで、犯行を重ねるうちに魂の輝きとやらは見えましたか?」

「み、見えたさ」

「嘘ですね、それは」

「う、嘘、だと……?」

「彼が至っている境地に、貴方が達しているとは思えない」

「わ、わかりっこないだろ、そんなこと、おまえにはっ!」

「ウォズッ!」ミン刑事が声を張り上げた。「もうよせ。大体、わかった!」

「実のところ、そのシノミヤ氏が何を望んでいるのかはわかりかねます。だからといって、私が貴方をここで見逃す理由もない」

「シノミヤさんは絶対だ。絶対なんだ! 神様なんだ!」

「どこでシノミヤ氏と知り合ったんですか?」

「だから、言うわけないだろ、そんなこと!」

「答えてください」

「言うかよ!」

「わかりました。ならば、貴方はここで行き止まりです」


 ウォズ刑事がいよいよ発砲してくる気配を見せた。手が震えていることから照準を合わせることもままならないことだろうとは思ったし、彼からはまだなんらかの情報を引き出せるかもしれないと考えたのだが、下手に暴れられて見境なく発砲されてはかなわない。


 だから私は、トリガーにかけた右の人差し指を、無慈悲に引いたのだった。


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