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超Q探偵  作者: XI
153/204

34-3

 三日後の二十一時過ぎ。


 二人目の被害者が出たと聞かされ、現場に出向いた。アパートの一階。侵入口は玄関。ベランダへと続くガラス戸にはやはり赤い手形。


「指紋からわかっていることです。一件目と二件目の犯人は同じです」とウォズ刑事。「ゆるしがたいことだと思います」

「またもや綺麗な女性ですね。スタイルも抜群ですし。何度も同じようなご遺体を目にすると、気が滅入りそうになっちゃいます」メイヤ君は被害者のそばで膝を折ると、「はあ……」と、ため息をつき、それから、「なむなむなのです」と合掌した。


「死亡推定時刻は?」

「十九時頃です」

「第一発見者は?」

「友人を名乗る女性から通報がありました」

「やはり、目撃者はいないと?」

「はい。今のところ」

「今一度、整理しましょう。以前に起きた三件の殺人事件、その資料には目を通されたんですね?」

「勿論です。過去の一件目と三件目はこの度の二件と同様、被害者が宅内で殺され、ガラス戸に血の痕が残されていた。二件目については『占い師』がテントの中で殺害された」

「ええ。『占い師』のケースにおいては、占いに使うアイテムである水晶玉に血の手形が付着していた」

「はい。過去三件の犯人は同じ人物だと割れています」

「その犯人らしき人物を、私が見たということは?」

「知っています」

「ふむ。そうですか」

「……あっ」と声を上げ、ウォズ刑事が腕時計を見た。

「どうかしましたか?」

「すみません。二十二時から署で重要な打ち合わせがあるんです」

「わかりました。行ってください」

「いつ引きあげていただいてもかまいませんので」


 そう言い残すと、ウォズ刑事は部屋から出ていった。死体のそばで膝を折っていたメイヤ君が立ち上がる。彼女は眉をひそめて見せた。


「なんでしょうか。殺人現場に立ち会うより重要な打ち合わせって。しかもこんな時間に」

「なんだろうね」

「あとでミン刑事に文句を言ってやりましょう」

「そうしなさい」

「しかし、うーん、なんと言いますか、解せないのですよ」

「何がだい?」

「一連の事件について、合点がいかないことがいくつかあるのです。順序立ててお話しますね」

「言ってみなさい」

「まず、狼さんが起こした三つの事件についてです。一人目の犠牲者は独り身の女性、二人目はテントで商売をしていた『占い師』、三人目は一人目と同じく独り身の女性でした」

「そうだね」

「となると、テントの女性はともかく、一件目と三件目の被害者である彼女たちがそれぞれ一人暮らしをしているのを、狼さんは把握していたということになりますよね?」

「その見解には一つ疑問がある」

「おっしゃってください」

「三件目は違う。侵入口は玄関だ。あとをつけられ、帰宅したところを襲われたものと推測される。街で目に留まった女性を狙っただけのことなんじゃないかな」

「一人暮らしだったのは偶然だったと?」

「そう思う」

「でも、一人目が独り身であったことを知っていたのは間違いありませんよね?」

「そうなるね。ベランダの戸が破られていたわけだから」

「でしょう?」

「言いたいことはわかったよ。狼は一件目の女性がどうして独り身であること知っていて、また不在時まで把握していたのか、その点が不思議だということだね?」

「そうなのです」

「恐らく新聞だ」

「新聞?」

「新聞を取っている家は多いと思うかい?」

「よほどのことがない限りは毎日配達してもらうと思います」

「だが、例外的に配達してもらわないニンゲンがいる」

「……あっ」

「気づいたかい?」

「はい。一人暮らしのヒトなら購読しない場合もあるのではないでしょうか?」

「そうだね。そしてその比率は、女性のほうが高いように思う」

「でしょうね。女性が朝から新聞を広げている様子なんてあまり想像がつきませんし」

「狼は配達が終わった直後にアパートに来たんだよ。それから各階を回って、郵便受けに新聞がささっていない部屋を確認した。条件に該当する部屋の数は多くはなかったんじゃないかな。その後、いったん寝床に戻った。二度寝くらいしたかもしれないね。そして朝食を食べ、優雅に紅茶でも楽しんでから、九時、あるいは十時頃に出かけた。住人が学校か仕事に出かけたであろう時間帯を選んだということだ」

「アパートを訪れて、目当ての部屋のインターフォンを鳴らしたんですね?」

「そうだ。多分、一発で『アタリ』を引いたんじゃないかな。そんなふうに考えるんだけれど」

「マオさんの推理を聞いていると、そう思えてきますですね。でも、万一、在宅中だったらどうしたのでしょうか」

「その際はそれこそ新聞の勧誘員でも気取ればいい」

「なるほど。でも、待ち伏せてもその待ち時間が暇そうですね」

「お気に入りの文庫本でも読んでいたのかもしれない」

「とはいえ、なんだか狼さんらしくないまどろっこしいやり口であるような気がします。どうしてそんな真似をしたのでしょう……」

「さあ。そこまではわからないな」

「この度の二件についても、同様の手段を用いて、一人暮らしの家を特定したのでしょうか?」

「そう考えるのが自然だろう」

「ただ、今回は二件とも、侵入口がベランダではなく、玄関なんですよね」

「そうである以上、部屋で待ち構えていたとは考えられないね」

「当然、部屋の前で待ち伏せするわけがありませんし……」

「そりゃあね」

「ということは、在宅中を狙ったということでしょうか」

「そう考えるべきだ」

「にしたって、どうやって中の住民に玄関を開けてもらったのでしょうか」

「そのへんの事情については憶測の息を出ないね」

「それにしても、ふーむ……アジテーターですか」

「それがどうかしたかい?」

「いえ。そうだとするなら、過去三件の犯人と、今回の二件の犯人には、何か接点みたいなものがあるのかなあ、って。そう考えると、やっぱり模倣犯だってことになりませんか?」

「その点は否定できないね」


 メイヤ君はというと、あごに手をやり、何やら考えている様子。難しい顔をしている。


「まだ何か言いたいことがあるのかい?」

「いえ。前にフェイ先生に聞かされた言葉を思い返していたのです」

「彼女は何か言っていたっけ?」

「過去三件の殺人犯は、素直に欲求を吐き出しているのだろうとおっしゃられていました。だけど、動機は本当にそれだけなのでしょうか」

「現状、私はフェイ先生の意見に賛成だけど、君の考えは違うのかい?」

「違うというか、ヒトの思考って、もっとこう、なんと言いますか、ぐちゃぐちゃしていると思うのですよ。だから、ただ欲求を吐き出すというシンプルな結論に至る過程が、私にはどうしても理解できないのです」

「明日、そのフェイ先生のところを訪ねてみようか」

「なんですか、やぶからぼうに」

「暇つぶしにとでも思ってね」

「そんな理由を話したら、フェイ先生はきっと怒りますよ?」

「うん。だから内緒にしてほしい。


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