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超Q探偵  作者: XI
150/204

33-6

 案件の解決後の昼食。行きつけの店でいつもとは違い、梅粥の上ににボイルした海老をのせてもらった。贅沢をしてみたのである。海老が一つのっけられただけで粥は随分と賑わいを増す。


 事務所に戻り、私もメイヤ君も昼寝をし、それから夕刻、十七時を過ぎた頃になって、フェイ先生のもとを訪れた。待合室には客がいた。男性が二名、女性が一名の計三名。診察を受けたニンゲンが一人、また一人と、スッキリとした顔でクリニックをあとにする。他者に笑顔をもたらすことができるわけだ。精神科医、それにセラピストといったたぐいの職は、やはり尊いものなのかもしれない。


 待ち合いの丸椅子にはメイヤ君が座っていたのだが、「次」と診察室から低い声がするや否や、彼女は「は、はいっ!」と言って立ち上がり、背筋をビシッと正して見せた。まだまだよほどフェイ先生のことが怖いと見える。


 メイヤ君にぐいぐいと背中を押され、ブルーのカーテンを開けて診療室へと入った。私の背の陰から恐る恐るといった感じで顔を覗かせた彼女である。フェイ先生は回転椅子の上でこちらを見ている。右手には万年筆。それを指の上で器用にくるくると回している。


「ジェンからさっき、連絡を受けた。どうやら上手く立ち回ったようだな」

「私は何もしていませんよ。ええ、本当に何もしていない」

「だが、もう吹っ切れたと、やっこさんは喜んでいた」

「そうであれば何よりです」

「おまえはヒトとヒトとの間を取り持つことについて非常に優れている。基本的に一切、当たり障りがないからな。本件については、そういったおまえの性質が機能し、発揮された。そういうことなんだろう」


 フェイ先生は万年筆をデスクに置くと、一服つけた。ふーっと煙を吐き出し、くわえ煙草でこちらを見上げてくる。口元を緩めただけのささやかな笑みだったのだが、それでも充分、魅力的と言えた。


 デスクの一番上の引き出しを開けると、フェイ先生はその中から札束を取り出した。「報酬だ」と言い、「くれてやる」と手渡してくる。私は遠慮なく受け取り、コートの内ポケットにそれをしまった。


「ところで、湿気の多いこの街でコートなんて着ていて暑くないのか?」

「寒くもあって温かくもない。そんな街にあって、私は結構、寒がりなんですよ」

「刑事連中もそうなのかね」

「彼らの場合はファッションでしょう。貫禄を示すための」


 まだ長い煙草を金物の灰皿にぐしぐしと押し付けるなり、ふいにフェイ先生が立ち上がった。顔に顔を寄せてくる。


「マオ、おまえは最近、老けたな」

「ヘアスタイルを変えたせいか、若返ったというのが、もっぱらの評判なのですが」

「いいや、老けたよ」


 コートの首元を引き寄せられ、いきなりかつ強引に唇を奪われた。思ってもしなかったことだからだろう。「わーっ、わーっ!」と大声を上げ、メイヤ君は取り乱した様子だった。。十秒ほどのキス。唇同士が離れると、「じゃあな、マオ。とっとと出ていけ」と言われた。「そうさせていただきます」と答えた私である。


 まったく、フェイ先生にはかなわない。


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