表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超Q探偵  作者: XI
148/204

33-4

 メイヤ君と店内へと足を踏み入れた。ねずみ色のコンクリートの床に置かれたすのこの上に、米袋が整然と詰まれている。店の主人である女性に奥の部屋に促された。ピカピカの板の間である。「どうぞ」と勧められ、私とメイヤ君はそれぞれ座布団の上に腰を落ち着けた。


 ほうじ茶を出してもらえた。口にすると胸がほんのり温かくなる。


 四角いちゃぶ台。私とメイヤ君の向かいに女性が座った。その直後に「奥さーん」と表から声がかかり、彼女は「はーい」と返事をしつつ、窓口へと向かった。煙草の注文だろうか。


 戻ってくると、改めて、女性は私の前に腰を下ろした。


「本当に、フェイ先生にもお話しできなかったことなんですけれど……」

「しかし、私にはお話しください。力になりますから」

「夫を亡くしたんです。二年ほど前に……」

「その旨はフェイ先生から伺いました。交通事故だったそうですね?」

「はい……」

「で?」

「あの、実は……」

「ええ」

「その、一緒にならないかと言ってくださる男性がいるんです」

「それだけ聞くと、おめでたい話であるように思えますが」

「私には七つになる息子がいるんです。息子は『彼』にとても懐いています。ですけど……」

「再婚できない理由があるんですか?」

「亡くなった夫のご両親は、お二人とも、とてもいいかたなんです」


 そう言うと、女性はぽろぽろと涙をこぼし、両手で顔を覆ってしまった。しくしくというが聞こえてきそうである。


「お義父様もお義母様も、独り身になってしまった私のことを心配して、いつも良くしてくださるんです。煙草も買ってくださいます。お米も買ってくださいます。そんなお二人のことをないがしろにして新しい男性と一緒になる。それってあまりにも不義理なことではありませんか?」

「なるほど。そういった事情がおありでしたか。ならば、悩まれて当然だ」

「どうしたらいいのか、正直、私にはわからないんです。本当に、どうしたらいいのか、わからなくって……」

「ということであれば、そのお義父様とお義母様のところへ、行ってみるしかありませんね」

「……えっ?」

「どうか私を連れていってやってください」


 女性は憤ったような顔を向けてきた。それはそうだ。私の言ったこと、またしようとしていることは出しゃばりなことでしかない。おせっかいでしかない。だけど、とにかく彼女の力になりたいのだ。図々しく、またいい加減で、だからこそ軽薄に見えてしまうであろう私にだって、優しさの断片くらいはあるのである。


「ですから、貴方に何ができるっていうんですか」

「私は探偵です。それ以上でも以下でもない。加えてお会いしたばかりです。私のことを信用できないのはわかります。が、それでも信じていただきたい。貴女に不幸をもたらすような真似は、絶対にしません。そう約束します」


 女性は涙に濡れた顔で、鼻をすすりながら、こちらを見る。


「貴女のお名前を、お聞かせ願いたい」

「……ジェンと申します」

「ではジェンさん、泣くのはやめて、胸を張ってください」

「胸を張る? どうしてですか……?」

「泣いているばかりでは何も進まないからです。肩を落とさず背を正してください。うつむくことなく顔を上げてください。元気良く行きましょう」

「そんなの、無理です……」

「貴女は何も悪いことはしていない。だったら前を向くべきです」


 私がそんなことを言ってしまったものだから、ジェン氏はまたぽろぽろと涙を流してしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ