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超Q探偵  作者: XI
147/204

33-3

 フェイ先生の医院をあとにしたその足で、比較的日が差す『フートン』にある、くだんの『煙草屋』を訪れた。腕時計に目をやると時刻は午前九時半を過ぎたところ。店はもう開いていて、看板娘の位置には三十路を過ぎたくらいであろう女性が座っていた。


「どれが入り用ですか?」


 笑みを向けてくれた女性である。フェイ先生の言葉から察するに、この女性が患者なのだろう。けれど、何かを気に病んでいるようには、とても見えない。明るそうで、朗らかそうな人物だ。


「フェイ先生の使いで参りました」

「フェイ先生の?」

「ええ。彼女から、貴女は何かお困りであるようだと聞かされました」

「貴方は、どなたなんですか?」

「マオといいます。探偵をやっています」

「探偵さん? そう、ですか…」


 女性の目から急に明るさがせた。うつろな顔をして、うつむく。


「フェイ先生には、何も申し上げたつもりはないんですけれど…」

「職業上、彼女はヒトの感情の機微にひときわ聡いんですよ。貴女のことが心配で、だから私に依頼を寄越した」

「…あの」

「はい」

「依頼を受けたからといって、探偵さんに何ができるっていうんですか?」


 いきなり女性は涙をこぼし始めた。下唇を噛んでいる。苦しげな表情だ。あるいは悔しげに見えなくもない。


「私は私の思いを、気持ちを、誰にもお伝えするつもりはありません」

「それはどうしてですか?」

「探偵さんにお話しをする必要がありますか?」

「必要があるのかないのかと問われれば、ないと答えるしかないですね」

「でしたら、お帰りになってください」

「しかし」

「しかしも何もありません。帰ってください」


 とりつく島もないというのはこのことだ。けんもほろろ。女性は殻に閉じこもってしまっている。そこにはどんな理由があるのだろう。下世話な興味がわく。それってあまりいい傾向とは言えないのかもしれないが、何せ私は探偵なのである。だから、ことの真実を突き止めるにあたってはいささか貪欲だったりする。誰かがが困っている際には最大限、努力をしたいとも実は思っている。なんとも胡散臭い人物なのだ、私は。気分屋でもある。昨日考えていたことが今日になったらくつがえっていたりもする。だけど、それがニンゲンというものではないだろうか。そうあってこそのニンゲンではないだろうか。


 私は女性に向かって、頭を下げた。「まずは話をお聞かせください。お願いします」と告げた。


「どうかお帰りになってください。先ほども申し上げました。貴方にお話しをさせていただいたところで、一体、何が変わるって言うんですか」

「何も変わらないかもしれない。それでも、話していただきたい」

「やめてください。頭をお下げになるのは」

「本当に、なんでもいいんですよ。なんでもいいから、お話しになってください。話していただけなければ帰りません」

「どうしてそこまでかたくななんですか…?」

「とにかくご助力できればと思いましてね」

「私、私は…」

「話を聞かせてやってください」


 女性は何度も鼻をすすると、「…わかりました」と折れてくれた。


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