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翌日午前、事務所にて。
回転椅子に座って朝刊を広げている最中に、デスクの上の黒電話がジリリリリとうなりを上げた。いつもならメイヤ君が飛びつくところであるが、生憎、彼女は外回りで不在である。
私は受話器を取り、「マオ探偵事務所です」とマニュアル通りの対応をした。コールしてきたのはミン刑事だった。
「メイヤはどうした?」
「この時間帯はいつも外回りの営業中ですよ」
「そうか。そうだったな。まあ、おまえでもいい」
という言い方はあんまりだと思うのだが、そこに他意はないのだろう。
「ちょっと出てこい。メイヤが戻ってきてからでいい」
「なんのご相談ですか?」
「昨日の今日だろうが」
そのひと言で、なんの案件についての連絡であるかは見当がついた。
「何か、お困りなんですか?」
「お困りってわけでもないが、小遣いをくれてやると言っている」
「なるほど。それで、どちらからご連絡を?」
「おまえにならわかるだろう?」
「被疑者の家の電話を使っているのですね?」
「そういうこった」
「わかりました。伺いますよ」
「俺は別件で外さなきゃならん。だから、この場は部下に預けることにする。吉報だけを待っている。住所を言う。メモれ」
「メモは必要ありません」
「ま、だろうな」
ミン刑事に告げられた住所を、私は速やかに記憶した。
「メイヤは何時頃に戻ってくる?」
「十八時といったところでしょうか」
「わかった。なら、十八時半にここに来い。先方にもそう伝えておく」
「了解しました。それで、アタリっぽいですか?」
「俺はその可能性以外、考えられないと思っている」
「わかりました。裏を取ってご覧に入れますよ」
「ああ、そうしてくれ。じゃあな」




