30-5
二日後の朝。
回転椅子について朝刊を広げている最中、メイヤ君がデスクの右辺に乗り上げる様子を視界の端に捉えた。ぐーすか寝入っていたのだが、どうや目を覚ましたらしい。彼女のほうを一瞥する。頭にはボルサリーノ。ピンク色の下着姿である。前夜もさっさと服を脱ぐなりソファの上で眠ってしまったのだ。
新聞に目を戻すと、「おはようございます、マオさん」との挨拶があった。
「ああ、おはよう。メイヤ君、まずは服を着なさい」
「風邪なんてひきませんよぅ」
「目の毒だと言っているんだ。きちんとなさい」
「はーい」
メイヤ君が服を着て、戻ってきた。改めてデスクに腰を下ろす。
「それにしても、あーあぁ」
「なんだい?」
「いえ、先日の一件、後味が悪いままだなあと思いまして」
「双子の事件のことかい?」
「そうです。疑わしきは罰せずという理屈はわかりますけれど、どちらかが犯人であることは間違いないわけです。なのに裁きようがないだなんて……」メイヤ君はしゅんとした声を漏らした。「事実として被害者はいるというのに、ヒドいです」
「私もそう思う。しかしだ」
「しかし?」
「いや、その件についてかどうかはわからないけれど、今朝の朝刊には興味深い記事が掲載されていてね」
私は折り畳んだ新聞をメイヤ君に手渡した。紙面を見るなり彼女は目を大きくして、「えっ!」と驚いたふうな声を発した。
「えっ、えっ? ちょっと待ってください」
「何を待てばいいんだい?」
「だってこれ、双子の死体があがったとか」
「ああ。自宅で殺されていたようだ。二人とも頭を鉄砲で撃ち抜かれて」
「この双子って、ひょっとして……」
「そうだね。くだんの双子なのかもしれないね」
「あっ、その、思い出しました」
「何をだい?」
「マオさんって、ミン刑事に双子の住所を尋ねていらっしゃいましたよね?」
「そうだったかな?」
「そうでしたよ。まさか、そんな、マオさんが……? いつ、殺したんですか? わたしが夜、寝ている最中にですか?」
「何を言っているのかな、君は。良くわからないな」
私はひらひらの前髪を指で弄びながら、小さく肩をすくめて見せたのだった。




