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超Q探偵  作者: XI
134/204

30-3

 夜間の見回りを開始した。広くはないこの街には、闇の深い路地が無数にある。治安は良くないわけだから、今、この瞬間にも、どこぞでなんぞの犯罪が起きていることだろう。


 事務所で待っていなさいと告げたところであとをつけてくるに決まっているので、だったら隣にいてもらったほうが安心だと考え、メイヤ君の同行を許可した。


 足早に歩を進める。


「パトロールを始めたところで、意味なんてあるのでしょうか」

「何もしないで、ただじっとしているよりはマシだろう?」

「そうですけれど」


 多種多様なモノを扱う店が並んでいる『フートン』から狭苦しい路地に入り、さらに進む。どこも暗い。それこそ強姦などという腐った真似をするやからからすれば、うってつけに違いない夜道ばかりだ。犯人は強引に女性を連れ込むのだろう。あるいは女性を無理やり袋小路に追い込むのだろう。たとえ被害者が「助けて!」と叫び声を上げたところで、人々は大して興味を示さないに違いない。どんなニンゲンであろうと面倒は被りたくない。この街において、それは顕著なまでの事実なのだから。


 絹を切り裂くような甲高い悲鳴が耳に届いた。


 私は舌を打った一方で、正直、ラッキーかもしれないと考えた。そんな私はにんにんかもしれない。だけど、ひょっとしたら事件解決の糸口が見つけられるかもしれないと思ったことは確かだ。


 左折して路地に躍り出るのと同時に、懐から銃を手にした。『現場』のほうへと銃口を向けた。二十メートルほど先だ。男が女性にのしかかっている様子が視認できた。その瞬間、頭にカッと血が上った。だから発砲した。舌打ち。外した。相変わらず私は鉄砲が下手くそだ。ズボンを上げながら、慌てた様子で左方の路地へと走って消えた男である。私は駆けて、組み伏せられていた女性のもとへと近づいた。


「いやあっ、いやあああああっ!」


 女性はひどい悲鳴を上げた。


 メイヤ君が逃げた男のあとを追おうとする。


「ダメだ、メイヤ君! ほうっておきなさい!」


 私は彼女を声で制しつつ、女性のもとで膝を折った。女性はがちがちと歯を鳴らしている。


「いやっ、いやああっ!」


 女性はまた叫び声上げた。やはりがちがちと歯を鳴らす。危険な状態だ。私は女性の口内へと左手の親指を突っ込んだ。その指に歯が食い込む。強く強く食い込む。


「だいじょうぶです。落ち着いてください。何もしません。しませんから」


 荒い息を繰り返しつつも、徐々にではあるが、恐怖にまみれていた女性の瞳に生気が宿った。私はほっと息をついたのだが、女性の口には親指を突っ込んだままでいる。


「静かにしてください。ゆっくりと深呼吸をしてください。歯を鳴らしてはいけません。舌を噛んでしまうこともありますから」


 女性は一つうなずいた。それから二度、三度とうなずくと、しりもちをついたまま、私に抱きついてきた。彼女の背をさすりつつ、耳元で今一度「安心してください」とささやいた。


「男の顔に見覚えは?」

「ありません」

「まったく心当たりのない男性なんですね?」

「はい」

「わかりました」

「ありがとう、ありがとう……」


 女性の背を抱きながら、私はメイヤ君のほうに振り返った。彼女は悔しげな表情で、ともすれば泣き出してしまいそうな顔をしていた。


「追いかけていれば、わたしは必ず捕まえました」

「馬鹿を言いなさい」

「捕まえていましたっ! この女のヒトをこんなにした男のことを、わたしは必ず捕まえていましたっ!」

「メイヤ君」

「うるさいです、マオさんっ!」


 聞き分けのない助手だ。私は立ち上がると、メイヤ君の左のほおを、一つ、ぶった。彼女は驚いた顔でこちらを見上げ、それから目を伏せた。


「私は正しいことを言っている。それはわかるね?」

「……はい」

「君は女のコなんだ。理解してくれるね?」

「……はい」

「だったら、いいんだ」


 よほど悔しいのだろう。

 メイヤ君は唇を噛み締めながら、ぽろぽろと泣いたのだった。


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