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超Q探偵  作者: XI
133/204

30-2

 ミン刑事が我が事務所を訪れた。例によって断りも入れずにソファにつき、メイヤ君にコーヒーを出されると、カップに口をつけた。それから彼は眉をひそめてこちらを見てきた。


「なんだ、マオ。そのヘアスタイルは、どうしたんだ?」

「変ですか? やっぱり」

「ぱっと見はそう思ったんだが、いや、悪くないんじゃないか?」

「ミン刑事からそんな感想をいただけるとは思いもしませんでした」

「おまえはずぼらだからな。ぼさぼさした頭よりは今のほうがよっぽどいい」

「お言葉ですがミン刑事、貴方はいつだってぼさぼさ頭じゃありませんか」

「俺のことはどうだっていいんだよ。もういい加減、ロートルだからな」

「ご謙遜をなさって」

「本音だよ」


 メイヤ君は私の隣でオレンジジュースをぐいと飲むと、「ウチのご主人さまってばイケてるでしょう?」と言い、「うふふ」と笑った。「さっぱりしているのにダンディな感もあって素敵なのです。またわたしの中でマオさんのポイントが上がりましたですよ」

「確かにまあ、若返りはしたな。以前のおまえはじゅうくらいに見えたもんだ」

「見た目なんて、どうだっていいんですがね」


 ミン刑事は「そう言うな」と言い、珍しく面白げに笑ったのだった。


「それで、今日は一体どういうご用向きですか?」

「んなもん、忘れちまったよ。おまえの新しい姿を見られただけで満足だ」

「怒りますよ?」

「ああ、それはいいな、怒ってみろ」


 私は鼻から息を漏らした。


「あまりからかわないでくださいよ、ミン刑事」

「俺がここを訪れる時ってのは、決まって理由があるんだよ」

「というと?」

「胸糞が悪い時に、ここに来ることにしている。どれだけ気分が悪くても、おまえ達に会えば、多少は落ち着くってもんだ」


 メイヤ君が「わたしの顔を見たら落ち着くのはわかります。でも、マオさんの顔を見てもそうなのですか?」と口を挟んだ。


 ミン刑事はほおをゆるめて見せた。


「メイヤ、おまえの顔を見たら気分がいいってのは、ある意味当たり前なんだ。俺はおまえを娘に迎えたいって思ってるくらいだからな。だが、マオとももう長いつきあいだ。だから顔を見ると、なんだかほっとしちまうんだよ」

「ミン刑事とマオさんはパートナーなのですから、お二人が仲良くあれば、わたしもうれしいのです」

「腐れ縁っていうか、切っても切れない仲なのさ。俺はそう考えている。おまえはどうなんだ? マオ」

「懇意にしていただける警察官がいることは有意義だと考えます」

「そら、見ろ。おまえはまたそうやって回りくどい言い方をしやがるんだ」


 私はふっと口元を弛緩させると、「何があったんですか?」と問うた。するとミン刑事は、「言っちまったら口が裂けちまいそうだ」と舌打ちした。


「しかし、話していただきたい。でなければ、何も進みませんから」

「昨日、娘っ子が一人、殺されてな。強姦殺人だ。ヤッたあと、やっこさんは被害者の首を刃物で一突きにしたらしい」

「それはゆるせまんね」ぷんすか怒ったメイヤ君である。「そういった話は良く耳にしますけれど、どうして男のヒトは嫌がる女性を手込めにしようとしたりするんでしょうか」

「簡単だ。ヤりたいからだよ。例えばだ、メイヤ。おまえが薄暗い路地を歩いているようなら、必ず襲われるだろうとは考えないか?」

「それは言わずもがなです。でも、わたしは勘もいいし、気配にも敏感なのです。何よりわたしより足が速いヒトなんてまずいませんし。とはいえ、邪まな目線を向けられることなんて、最近は滅多にないです。多分、わたしと警察が仲がいいってことが、この界隈には知れ渡っているからなのだと思います」

「そういうことで間違いないぜ」とミン刑事は言った。「何があってもおまえには関わるなとヤクザ連中には言ってある。ケチな下っ端どもにもその旨は行き渡っていることだろうさ」

「ということは、ミン刑事は間接的にわたしを守ってくださっているってことですね?」

「何度も言わせるな。俺にとっておまえはかわいい娘なんだよ」

「そこまで情熱的な告白をされてしまうと、照れてしまうのです」


 私はコーヒーカップに口をつけ、それから上目をミン刑事にやった。


「レイプして殺す。それは確かに気持ちのいい話ではありません。犯人の目星は?」

「指紋は残っていない。だが、体液は付着していた。だから、DNA鑑定を進めているわけだが」

「鑑定を進めたところで、被疑者を捕まえないことには照合もできない」

「そういうことだ」

「だとするなら、常習性を孕んでいるのか孕んでいないのか、そのあたりが問題になってきますね」

「マオ、おまえはどっちがいいと思う?」

「捕縛するにあたっては、常習性を孕んでいたほうが望ましい」

「その通りだが」

「ええ。これ以上被害者が出ることは看過できない」

「そうなんだよ」


 ソファから腰を上げると、ミン刑事は下を向いて、「くそっ!」と吐き捨てた。ソファの角を蹴飛ばした。それが冷静な彼らしくない行動だったからだろう、メイヤ君がびくっと身を跳ねさせたのがわかった。


 ミン刑事がうめくように言う。


「まったく、警察ってのはなんのためにあるんだろうな。対症療法しかできないってことはわかっているんだが……」

「被疑者を捕らえるにあたり努力しましょう。協力は惜しみません」

「商売抜きでか?」

「ええ。私なりに調べてみます」

「やっぱり、ここに来て良かったよ」


 そう言うと、ミン刑事は事務所をあとにした。


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