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超Q探偵  作者: XI
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29.『その美女は泥棒さん』 29-1

 メイヤ君に誘われ、『ロンジンフロント』に出向くことになった。彼女いわく、以前世話を焼いてやった若者達、すなわちセイエイ氏とジンリン氏の『愛の巣』を訪ねてみようとのことだった。『ロンジンフロント』は浮世離れした娯楽の街である。煌びやかなカジノや劇場、それに豪奢なホテル等があり、『眠らない街』とも称されている。


 メイヤ君とジンリン氏は、しばしば電話で世間話をかわす間柄だ。だから彼女は彼らの住み家を知っているらしい。タクシーに乗って目的地へと向かった。


 『ロンジンフロント』という華やかな街でミュージカル俳優のトップを志すと言っていたセイエイ氏である。それに付き添うと言ったジンリン氏である。セイエイ氏がまだまだ下っ端らしいことから二人の新婚生活はつつましやかなものに違いないと考えていたのだが、実際その通りのようで、広い表通りかられ、かつ、さらに細い細い路地を何本も何本もくぐったところに、彼らの住まいはあった。物件の値は天井知らずで、一般人が住めるような街ではないというのがもっぱらの評判なのだが、どうやら『ロンジンフロント』にも質素なアパートは存在するらしい。


 メイヤ君がインターフォンを押すと、ヴーッという安っぽい音が鳴った。ドアの覗き窓から中の住人がこちらを確認してくる様子が窺える。まもなくして、鉄製のドアは開け放たれた。


 飛び出してきた女性は、早速メイヤ君に抱きついた。「お、おぉっ、熱いお出迎えですね」と、若干、戸惑った様子を見せた彼女である。


「顔を出してくれるとか、そんなの、社交辞令かと思ってたの」と女性は言い、「そんなわけないじゃありませんか」とメイヤ君は柔らかに答えた。


 二人は離れ、互いに微笑み合う。


「来ようと思えばいつもでも来られるのですけれど、ジンリンさんとセイエイさんの新婚生活にお邪魔するのもなんだかなあと思いまして」

「そんなこと、気にしなくたっていいのに」

「ジンリンさん」

「うん?」

「今、幸せですか?」


 一瞬、きょとんとした表情を見せたジンリン氏だったが、すぐに破顔した。


「幸せよ、メイヤちゃん。今、私はとっても幸せ」

「なら、良かったです」


 今度はメイヤ君のほうからジンリン氏に抱きついて見せたのだった。



 私に会釈をし、私に会釈を返されたのち、ジンリン氏は部屋の中へと案内してくれた。ソファに促される。メイヤ君はベビーベッドで寝入っている赤ん坊を覗き込んだりそのほおを突いたりしてから私の隣に座った。


 私達二人に、ジンリン氏は紅茶を振る舞ってくれた。


「赤ちゃん、順調そうですね」メイヤ君は嬉しそう。「実にかわいい男の子ではありませんか」

「すっごくたくさん、おっぱいを飲むの」ジンリン氏は苦笑じみた表情を浮かべた。「本当に、こっちが目眩を覚えるくらい飲むのよ?」

「でしたら尚のこと、ジンリンさんもお体を大切になさらないと」

「大切にしているわ。そして、大切にしてもらっているの」

「おぉ、そこにあるのはやはり愛ですね。セイエイさんってば、やるじゃありませんか」

「彼、いい意味で馬鹿だから。一度やるぞって決めたら、そう簡単に折れたりはしないのよ」

「それで、セイエイさんは今、何をなさっているのですか?」

「夜の開演に向けて稽古中。まだまだ後ろのほうでなんとか踊らせてもらえる程度の下っ端だけどね」

「だけど、いつかはトップスターになるんじゃないかなあ」

「あら、どうしてメイヤちゃんはそう思うの?」

「頑張っているヒトには必ずいいことがあるものです」

「その言葉を聞いたら、旦那はきっと涙を流して喜ぶわ」

「時々ですよ、時々。本当に時々です。私が関わった人達には、きっと明るい未来が用意されているように思うのです」

「そう言ってもらえると嬉しい。本当に嬉しい」

「どうか幸せを続けてください」

「そうさせていただくわ。あの、それで、マオさん」

「はい? ああ、というか、すみません。断ることなくいただいてしまいましたね」私はティーカップをソーサーに戻した。「申し訳ない」


 ジンリン氏は、ふふと笑った。


「そのあたりのことを気にされるあたりが、とてもマオさんらしいと思います。素敵ですね、相変わらず」

「素敵でもなんでもありませんよ。私は自身を平均値の男だと定義していますので」

「またそうやって、堅苦しいことをおっしゃって」

「堅苦しいですかね」

「私とメイヤちゃんは親友です。そんな大切な親友を任せられる男性なんて、マオさん以外には考えられません」

「買いかぶりだと思いますよ?」

「そんなことありません」

「そうです。そんなことはないのですっ」


 メイヤ君がタックルをするようにして横からバッと抱きついてきた。その様子を見て、ジンリン氏が笑った。


「まあ、みんなが幸福であるといいですよね」私はなんとなくそう口走った。「ええ。それに越したことはないと考えます」

「マオさん」

「なんでしょうか、ジンリンさん」

「本当に、メイヤちゃんのこと、お願いしますね?」

「なんだかんだ言っても、まあ、そのへんは心得ているつもりですよ」私はソファから腰を上げた。「長居をするのはいけない。そろそろ行こうか、メイヤ君」

「はいです。出立しましょーっ」


 すると、ジンリン氏が「あっ、メイヤちゃん」と呼びかけた。「わかってますってば、ジンリンさん」と応答したメイヤ君である


 彼女らは向かい合い、互いに互いの腰に両手を回すなり、驚くべきことにキスを交わした。なんというかその、彼女らは私の知らないところで、結構、アブノーマルな関係になっていたらしい。


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