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超Q探偵  作者: XI
122/204

27-6

 三日後の朝、ミン刑事が我が事務所を訪れた。例によってなんの断りもなく一人掛けのソファにどっかりと腰を下ろす。メイヤ君が私と彼にコーヒーを淹れてくれた。カップをテーブルに置くと、彼女は私の隣に腰掛ける。いつもの光景だ。


「ヴァルナの件、カタがつきそうだ」ミン刑事はそう言うと、コーヒーをすすった。「言わば、偶像崇拝だったんだな。ヴァルナを起こしたのは確かにモレルってじいさまだ。だが、やっこさんはもう二年も前に死んでいる。そのあとを引き継いだのが『まご』だったってわけだが、その曾孫はガキのくせして、とんでもないことをやらかしたみたいだな。ある意味、アジテーターとしては天才的だ。怪物だったと言ってもいい」

「その曾孫さんは私の前で、もう長くはないと言っていた。それは本当だったんですか?」

「ああ。邪魔くさいからとっとと荼毘に付してやったんだが、そしたら腎臓の近辺から真っ黒な灰が出てきた。体はよほど悪かったんだろう」

「病魔にさいなまれながらも自らの信じる道を進んだ」

「それがなんだってんだ?」

「ミン刑事、貴方は彼を怪物だと評した。そう判断することも可能なのかもしれない。だが、その怪物が神を気取り、その結果として信者を募ることができたのは事実なんですよ」

「その神とやらが他者の血を乞うた理由については理解しかねるが?」

「血を乞うていたわけではない。彼ただ、ヒトがどういう生物なのか、観察したかったんでしょう」

「どういうことだ?」

「弱い者は弱いがゆえに死を求める。一方で、強いニンゲンはせいを良しとする。そこに嘘はなく、そしてそれは絶対的だ。弱いニンゲンは数多いる。だが、強いニンゲンはそうはいない。違いますか?」

「違うも何も、おまえさんの話は、俺には到底、理解できんさ」

「怪物と神とは、紙一重だということですよ」

「それはわかる。なんとなくだがな。ところで、マオ」

「なんでしょう?」

「以前と比べて、おまえとメイヤとの距離が近い気がするんだが」

「物理的に、ですか?」

「ああ。間隔が十センチほど狭まっている」

「気のせいでは?」

「俺は刑事だよ」

「私がメイヤ君に近づいたのか、それとも彼女のほうから私に近づいてきたのか」

「そのへんは五分五分だな」

「特に何か変わったことがあったというわけではないんですがね」

「嘘つけ。何かあったんだろう?」

「ありましたですよっ」弾んだ声で言って、メイヤ君は「くふふ」と含み笑いをした。「マオさんとの関係が、一歩進んでしまったのですっ」

「一歩進んだ?」

「きゃーっ、これ以上は言わせないでくださいっ」

「キスでもしたのか?」

「きゃーっ」

「それとも、セックスか?」

「きゃーっ、きゃーっ」

「なんだか妬けちまうな、まったくよ」


 ミン刑事はコーヒーを飲み干すと事務所から立ち去ったのだった。



 その日の夜、テレビ局とラジオ局に、ヴァルナがビデオテープを寄越したらしい。各メディアとも、一斉にその内容を速報として電波にのせた。ヴァルナの残り香が最後に示そうとした足跡なのだろう。


 メイヤ君はテレビの前で真剣に映像を見守っている。私は私で、回転椅子の上で画面を見ている。ブラウン管に映し出されている老人、モレル氏は相変わらずだ。座禅を組み、両手をゆったりと広げている。


 テレビの中で、彼は言った。


「この世に産まれ落ちた時にヒトは泣く。なぜかって? 産まれてきたくなかったから泣くのだ。ヒトは永遠の存在ではない。せいは永遠ではない。地球すら永遠ではない。ヒトは産まれた時から、そうであることを知っている。なのに神はヒトにせいを強いる。せいをまっとうせよと説く。それは暴力に等しい。私はそう考える。だが、ヒトには魂というものがある。魂という存在だけは自由だ。魂には無限の可能性がある。ヒトの感情を揺さぶり、ヒトに訴えかけるだけの何かがある。そんな巨大な力を持ち、かつ不変的である魂を繋ぎとめるにあたり、ヒトの肉体というものは、あまりに脆弱なものではないだろうか」


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