27.『なぜヒトは神を信じるのかわかりますか?』 27-1
外回りに出ていたメイヤ君が正午過ぎに帰ってきた。玄関の鉄扉を大きく開けて、四本の脚が付いた木製の台を持ち込んだのである。続いて中年男性が赤いテレビを持って入ってきた。メイヤ君は玄関から見て左手の奥の隅に台を置き、男性はその上にテレビをのせた。私は生まれてこの方、ずっとこの街の住人だ。それなりに顔は広い。だからその男性が何者なのか、すぐにわかった。『電気屋』の主人である。
「お疲れさまでしたぁ」メイヤ君が『電気屋』の主人に労いの言葉をかけた。「あとはアンテナを調整するだけで見れるんですね?」
「そのはずだよ。ウチには不良品なんて置いていないからね」ランニングシャツ姿の主人が言う。「もし見れなかったら返品してくれてかまわないよ。新しいのと取り換えるから」
「どういうことだい、メイヤ君」と私は問いかけた。「テレビなんか買ってきたのかい?」
「はい。買ってきちゃいました」メイヤ君はなんだか嬉しそう。「欲しいなあって、前々から思っていたのです」
「テレビなんて高いだろう?」
「メイヤちゃんならいいよって、半額にしてもらえたのです」
「そうなんですか、ご主人」
「メイヤちゃんにはいつも律儀に顔を出してもらってるしね。そんなメイヤちゃんが俺は好きで、だから値切られたら嫌とは言えないよ」
「ウチの助手は無遠慮なんですよ。謝罪したい」
「いいよ。メイヤちゃんじゃなくても、マオさんになら安く売っていた。アンタはいいヒトだって、街中の評判だからね」
「まあ、真面目であろうと心掛けてはいますが」
「とにかく気にしないでくれ」
主人は肩にかけているタオルで額の汗を拭うと、事務所から出ていった。
メイヤ君が電源を入れた。ブラウン管の画面にザーザーとノイズが走る。彼女はテレビの上部にのっているアンテナの向きを調整する。そのうち映った。
「ウチにもついに新たなメディアが導入されましたですよ。やったーって感じです」メイヤ君はばんざいをした。
「どうして買ってきたんだい?」私は回転椅子の上から画面を見やる。
「新聞よりリアルタイム性の高い情報を得られるかもしれないと考えたからです」
「それは一理あるかもしれない。でも、テレビで流されるのは大きなニュースだ。すなわち、細々とした探偵業を営んでいる私には縁遠い事件ばかりだろうということだ」
「だけど、何かの役には立つと思うのです」
「うーん、そうかなあ……」
「きっとそうだと思います」
「じゃあ早速ニュースを見よう」
「この番組が終わってからにしてください」
両膝を折り畳み、画面に見入っているメイヤ君がキャハハと笑った。彼女が見ているのは、ドジな猫が狡猾なネズミに弄ばれる異国のアニメである。我が助手は自らが楽しむためにテレビを買ってきたのかもしれない。




