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一人掛けのソファにメイヤ君が着き、テーブルを挟んだ正面には私が座っている。互いの前には熱いコーヒーがある。
「感動しました」と、メイヤ君は口にした。「マオさん、メチャクチャ、カッコいいです。カッコ良かったです」
「そうかな?」私は首を傾げた。「助けられる命があるのなら、それを助けたいっていうのは万人が抱く当たり前の思考だと思うけれど」
「でも、なんの縁もないヒトに二百万ものお金を差し上げたわけですよ?」
「エウゲン氏の瞳には嘘が感じられなかった」
「わたしにはちょっと軽薄そうな人物に見えました」
「パッと見はそうだろうね。ただのチンピラにしか見えなかったのも無理はない」
「元気になったら、ソフィさんはきっとここを訪ねてくることでしょうね」
「そうかもしれないけれど、頭を下げるのはよしてほしいなあ」
「どうしてですか?」
「だから、恩着せがましいことをしたつもりはないからだよ」
「でも、絶対、ソフィさんはマオさんに感謝されていると思います」
「きちんと治ってくれるといいんだけどね。まあ、その上で元気な顔を見せてもらえると、それなりに嬉しいのかもしれない」
「治りますよ。そう信じようではありませんか」
「その通りだ。それにしても、エウゲン氏の死は悔やまれる」
「誰のお金であろうと、持ち逃げしちゃいけないっていう教訓だと思います」
「まともなことを言うじゃないか」
「わたしはいつだってまともですし、真面目ですよ?」
「そうありなさい」
「勿論です。ところでマオさん、話は変わるのですけれど」
「ん? 何かな?」
「今度はマオさんの服を見に行きましょう。おしゃれなヤツです」
「サイズさえ合えばなんでもいいって、前にも言ったつもりだけれどね」
「流行りのチェスターコートを買いましょう。黒いヤツがイケてます」
「それって厚手のものかい?」
「いいえ。薄手のものも、きちんとあります。マオさんがカッコいいと、わたしもなんだか鼻が高いのです。あと、ついでにわたくしめのジャケットを買っていただけると嬉しいのですが」
「メイヤ君、君はだね」
「わかってまーす。充分に衣装持ちだっておっしゃるんでしょう?」
「ジャケットだって、いくつも持ってるじゃないか」
「でも、欲しいんです」
「小遣いの範囲でなんとかなさい」
「はーい。で、なんですけど」
「なんだい?」
「今回はキャッシュで二百万ウーロンも出したわけですけれど、マオさんは一体、どれくらい貯金なさっているのですか?」
「残高を知りたいのかい?」
「はい」
「秘密だ」
「えーっ」
「私がいよいよなんらかの危機に陥った際に教えてあげるよ。暗証番号と一緒にね」
「今、教えてください。めいっぱい、服を買い込んでやりますから」
「だから、君には通帳を任せられないんだよ」




