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超Q探偵  作者: XI
106/204

24-4

 我が助手に一つ鉢植えを買ってこさせ、それを手に私はくだんの病院を訪れた。無論、メイヤ君も一緒である。ナースステーションで訊いたところ、目当ての人物は三階の個室にいるという。


 階段を上がり、部屋の戸は私がノックした。「どうぞ」という柔らかなニュアンスの声が聞こえた。引き戸を開けて中へと入り、まず鉢植えを出窓の前にそっと置いた。


 ベッドの上で起き上がっている女性はショートヘアにピンク色の病衣姿。利発そうな目をしている。きっと活発な女性なのだろう。しかし、少々そげたほおが、否が応にも病人であることを知らしめる。


 私は部屋の隅に置いてあった丸椅子を持ち出し、それをベッドの脇に置いた。椅子の上に腰掛けた。


「ヒトを見舞うにあたり、鉢植えを贈るのはどうかとも思ったのですけれどね。根づくに根づく。なんとも縁起が悪いので」

「そんなこと気になさらないで。いただけるだけで嬉しいわ」

「なら、良いのですが」

「貴方は誰? ひょっとして兄のお知り合い?」

「そう近しい間柄ではありませんがね。貴女には私がどんな人間に見えますか?」

「優しそうに見えます」

「優しい、か。そんな感情、とうの昔に失くしてしまったように思うのですがね」

「謙遜なさるんですね」

「そのつもりはありません」

「何を生業にされているんですか?」

「私は探偵です」

「探偵さん?」

「ええ」

「探偵さんが、私になんの御用?」

「エウゲン氏の代理で来ました」

「兄の、代理……?」

「代理です」

「代理、ですか……」

「ええ」

「……あの、探偵さん」

「なんでしょう?」

「ほおに、触らせていただいても、いいかしら……?」

「かまいませんよ」


 女性が身をこちらに向け、右手を伸ばし、私の左のほおに、そっと触れた。それからゆっくりと手を引いた。彼女はうつろな目をすると、それから向こうの窓のほうを見たのだった。


「兄は……エウゲンは死んでしまったのね……?」

「はい」

「私の手術の費用を得ようとして、ヤクザの金庫にでも手を付けた。そういうことなんでしょう?」

「察しがいいですね」

「兄は、どうして私に、そこまでしてくれようとしたのかしら……」

「それは無論、きょうだいだからですよ。貴女のことを助けたかったからです」

「そうなんでしょうね。わかりました。もう、帰っていただけますか……?」

「そうはいきません。何もただ見舞いに訪れたわけではないんですから」


 私は懐から抜き出した茶封筒を、ベッドの上に置いた。


「これは……?」

「きっちり二百万ウーロンあります。手術の費用に充ててください」

「そんな……受け取れません」

「ソフィさん。そのお金はすでに貴女のものですよ」

「でも、こんな大金、やはりいただけません」

「お金で命が買えるのなら安いものです。私の恋人の命は、金では買えなかった」

「ご病気、だったんですか……?」

「ええ、まあ」私は笑みをこしらえた。「エウゲン氏に相談を持ち掛けられた際に、私がお金を支払う約束をすれば良かったんですがね。であれば、彼は死なずに済んだ。そのことについて、私は少し後悔している」

「兄の死について貴方が気に病むことはないはずです」

「例えそうなのだとしても、私は本当に、悔いているんですよ」


 ソフィ氏は私のほうに向き直るなり、ぽろぽろと涙をこぼした。


「生きたいと思っています。それは事実です……」

「でしたら、どうか病気を克服して、幸せを掴んでください」


 私は立ち上がり、丸椅子を部屋の隅に置いた。立ち去ろうとする。


「あのっ」と、後ろからソフィ氏の声がした。「兄のことを、私のことを想ってくれて、ありがとう」

「いいんですよ」私は振り返り、口元を緩めた。「きっとお金というものは、こういう時に使うものなんです」

「ありがとう。本当にありがとう……」

「ですから、礼には及びませんよ」


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