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超Q探偵  作者: XI
104/204

24-2

 男は「ここが行きつけなんだ」と言い、喫茶店に案内してくれた。ボロな建屋である。足しげく通う客がいるようには思えない。私がしばしば訪れる喫茶店のほうが数段クォリティが高い。おしぼりすら出してもらえなかった。黒いチョッキを着た店員の態度も良いとは言えない。「なんでも頼んでくれよ」と男に言われたので、私はアイスコーヒーを、メイヤ君はオレンジジュースをオーダーした。品物が運ばれてきて、早速ストローに口を付けた彼女が、「このジュース、絶対、水が混ざってますよ」と眉をひそめた。コーヒーも随分と薄い。やはりその程度の店なのだろう。


 ところどころにガムテープが貼られている二人掛けのソファに、私とメイヤ君は並んで座っている。


「話を聞いてくれと言われたように思いますが」私は改めてコーヒーに口を付けた。「その内容を具体的にお伺いしたいですね」

「ありがてぇ」男は、ほっとしたような表情を浮かべた。「あっ、でも、相談料って要るのか? 俺、今、あんまし持ち合わせがねーんだけど……」

「話を聞くだけなら、ただですよ」

「た、助かるよ」

「とにかく、まずはご用件を伺いたい」

「俺、ヤクザの下っ端なんだ」

「それは伺いました。その割には、偉そうに街を闊歩していたように見えましたが」

「そ、その点はまあ、見逃してくれよ」」

「気に入らない振る舞いでしたが、まあ、いいでしょう。話の先を聞かせてもらえますか?」

「その、俺……妹を助けたいんだ」

「妹さん?」

「妹、乳癌なんだよ。それでも、今、手術をすれば、助かるみてーなんだ」

「ふむ。それで?」

「手術には、めちゃんこ金がかかるんだ。メチャメチャ高額なんだよ」

「例えば、ご両親も払いきれないと?」

「両親はいねー。早々に逝っちまった」

「それは失礼しました」

「いいよ、別に。親父もおふくろも、ろくでもねぇヤツだったから」

「手術の費用はどれくらいなんです?」

「二百万ウーロンだ」

「結構なお値段ですね。しかし、貴方に支払い能力があるようには見えない」

「その通りなんだ……」男は、しょんぼりとした。「俺はしょせん、その日暮らしのチンピラだからな。まとまった金なんてあるはずがねーんだよ……」

「しかし、手術代は準備したい」

「そりゃそうだよ。そうに決まってるじゃねーか」

「では、どうやってお金を工面するんですか? 『アテ』でもあるんですか?」

「ないわけじゃねーんだよ。なんとかなる。なんとかなるはずなんだ」男は、ふと、苦笑じみた表情を見せた。「俺の妹ってな? チンピラになっちまった俺のことを、いつも心配してくれてるんだ。いつも気遣ってくれてるんだ。だったらよ、そんな妹がピンチだってんなら、やっぱ兄貴として、やれるだけのことはしてやらねーとよ」

「そうお考えになられるのは当然だと考えます」

「だろ?」

「ええ。それで?」私は薄いアイスコーヒーをあらためてすすった。「貴方は結局、私に何が言いたいんですか?」

「さあな。自分でも良くわからねー」男はなんだか照れくさそうに頭を掻いた。「ただ単に、誰かに話を聞いてもらいたかっただけなのかもしれねーし、きっとそういうことなんだろうとも思う。ありがとうよ。真剣な顔でつきあってくれて」

「私はそれほど真剣な顔をしていましたかね」

「俺にはそう見えたよ」男がメイヤ君のほうを向いた。「なあ、お嬢ちゃん」

「なんですか?」とメイヤ君は答えた。「わたしも真剣に話を聞いていましたよ?」

「うん。ありがとうな。でも、ここのオレンジジュース、死ぬほどマズいだろ?」

「確かに美味しくはありませんね」

「だけどな? ここに連れてくると、妹は決まってオレンジジュースを頼んだんだ。まだちっちゃな時から、美味しい美味しいって、飲んでたんだよ」


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