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超Q探偵  作者: XI
100/204

23-3

 翌日、警察のアーカイブを訪ねた。窓はなく、暗い。だから蛍光灯に火を入れる。まさに倉庫といった様相である。ただ、二つある換気扇は常時回っているようで、特に湿度は感じられない。湿気が紙の天敵だという基本くらいは押さえているようだ。


 きちんと棚におさめられているファイルもあるが、いっぽうでダンボールがいくつも積み上げられていたりもする。埃っぽさにメイヤ君が「けぷこん、けぷこん」と咳をした。


「どこから調べましょうか」

「まるで取っ掛かりがない。片っ端から当たるしかないだろう」

「ミン刑事は、いけずです」

「君は、いけずという言葉を良く使うね」

「いけずなヒトは嫌いです」

「だったら、ミン刑事を大いに呪ったらいい」

「呪っていても始まりませんから、ファイルを確認しようと思います」

「君はそっちから洗いなさい。私はこっちから調べるから」

「はーい」


 ファイルを漁る。あまり『アテ』にはできない組織。それが我々が住まう街の警察であるわけだが、過去の事件の履歴くらいは残しているらしい。アーカイブはアーカイブとして、それなりに機能しているようだ。


 三十分が過ぎ、また一時間が経過した。


「そっちはどうだい?」

「目ぼしい記事は何もありませんねぇ。というか、いい加減、埃っぽさに嫌気が差してきました。こんなところにこもっていたら、わたくしめの美しい金髪が台無しなのです」

「それは否定しない」

「マオさんってば、本当にそんなふうに思ってくださっているのですか?」

「君の髪は美しいよ。その評価に嘘はない」

「おぉ、嬉しいお言葉です。ほっぺにキスを浴びせてもいいですか?」

「それはよしてくれ」

「そうおっしゃるだろうと思いました。それにしても何も見つからないというか……えっ」

「どうしたんだい?」

「えっ、あれ、えっ……?」

「だから、どうしたんだい?」

「み、見てください」


 メイヤ君がそばまで近づいてきた。体をぶつけるようにして私に身を寄せる。彼女はブルーのファイルの一ページを開いていて、その中身を見せてきた。ページには新聞のスクラップが糊付けされている。古い切り抜きであるようだが、保存状態は悪くない。写真についても判別がつく。


 記事を見て驚いた。新聞の発行日は五十年も前。半世紀も前に刷られたものだ。そうであるにもかかわらず、先日、『ケ・セラ・セラ』でピアノを弾いていた少年が少年の姿のまま映っている。スーツ姿の男性と握手をしている様が大きく掲載されているのだ。パーティを兼ねた何かの表彰式の場ではないだろうか。


「これって、血縁者とか、そういうレベルではないですよね。まさか、そっくりさんってわけでもないでしょうし」

「画像は多少粗いけれど、彼であることに間違いはないようだ」

「だとしたら」

「ああ。五十年前に少年だった人物が、五十年後の今になっても少年のままでいるということになる」

「そっか。ミン刑事はわたし達に『これ』を見つけて欲しかったのですね」

「そうとしか考えられないね」

「ミン刑事はいつ、おかしなことだと勘付かれたのでしょうか」

「それはわからない。とにかく彼は、どこかのタイミングで妙だと気づいた」

「それにしても、事件でもない記事をスクラップしておくなんて、昔の警察官はよほど暇だったんですね」

「裏を返せば、えらく真面目だったということなのかもしれない」

「どうして少年は今でもステージに上がっているのでしょうか」

「そうしたいからじゃないかな。その他に理由があるかい?」

「うーん、ないと思います」

「だろう?」

「はい。にしたって、どうして少年は五十年もの間、その姿を維持できているのでしょうか」

「それは現状、わからない。だけど、言えることはある。少年はきっと多くの街を、あるいは他国を転々としながら、巧みに身分を隠蔽していたんじゃないかな。五十年もの間、少年の姿を保っているということがマスコミに知れると、それはそれで面倒なことになるだろうからね」

「でしたら、何もあえてステージに立つというリスクをおかす必要はないと思いますけれど」

「人前でセッションをするのが好きなんだろう。それ以外に説明のしようがない」

「少年はある意味、不幸を背負っているということですか?」

「そうなるね」

「とはいえ、ミン刑事はわたし達に案件の解決を望んでいるわけで」

「うん。だから、一定の答えは出さないとね」

「じゃあ、れっつらごーっなのです」

「いや、君は事務所で待っていなさい」

「えーっ、どうしてですかあ?」

「きな臭いからだよ」

「また探偵の勘ってヤツですか?」

「うん、そうだ」

「でも、この記事を見つけたのは、わたしなのですよ?」

「いいから、身を引きなさい。以降は私が引き受けるから」

「ぶぅぶぅ」

「任せておきなさい」

「ぶぅぶぅぶぅ」


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