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7、寂しさからの苛立ちー陸斗Side-


美空が家からいなくなってからは家の中の光が消えたように静かになった。

拓海は昔から家にいることも少なかったが、高校に上がってからは更に家にいる時間が減った。

今まではなんだかんだ美空が拓海に構ってたから、拓海も美空を家に一人にしまいと帰ってたのかもしれない。

その美空がいなくなれば、家に寄りつかなくなるのも当然のことだ。


まぁ、それは俺も同じで美空がいないなら家にいる意味もなかったので、適当に作った彼女の家に泊ったりして生活していたわけだけど。


俺は大学には真面目に行くものの、私生活がクソみたいな気分で胸にぽっかり穴が空いたような状態だった。

どんな女子と遊んでも、美空と過ごした日々のように明るく楽しい気持ちにならない。

高校までは女子にちやほやされたり、話をするのも多少は楽しかったのに…

今では何が楽しかったのか全然分からない。


これが寂しいって感情なのかもしれない…


俺はピクリとも動かない心を感じて、ギュッと眉間に皺を寄せた。


そして俺はその日もただなんとなく彼女の家に行く気分じゃなくて、ため息をつきながら家に戻っていた。

彼女は俺が会いに行けば声を上げて喜ぶだろう…

でも、俺は最近ではそれを面倒に感じてきていた。


高校まではモテて、何人も彼女がいることに優越感があった。

それが最近はなくなり、メールするのも、電話するのも…ただ面倒くさい。

そろそろ女遊びもやめるべきかな…なんて俺にしては珍しいことを考えながら玄関を開けると、そこにたくさんの靴が並んでいて驚いた。

リビングから楽しそうな声も聞こえてくるし、今まで静かだった家に温かい空気が流れている。


これ…、もしかして拓海が友達でも連れてきてんのか?


俺は拓海が家に人を呼ぶなんて珍しいなとしばらく玄関で固まった。

その際女の子のものらしい靴が目に入って、綺麗に並べられている靴から相当しっかりした女の子がいるんだと想像した。

拓海が靴を並べるなんて背筋が寒くなるくらいあり得ないからだ。


俺がどんなメンバーだ?と久しぶりにワクワクしながら騒がしいリビングに乱入すると、そこには俺の知らない拓海がいた。


メンバーは拓海の腐れ縁とも言えるダチの赤井(だっけ?)に、見たことのない女子二人。

一人はモテそうな派手目の容姿の気の強そうな女の子で、もう一人はいかにも純粋培養したような穢れの知らなそうな女の子。

ぽかんとした表情で俺を見つめるその純粋そうな子の雰囲気が、どことなく美空に似てる気がして、俺はその子に興味が出て話しかけた。


すると拓海が過剰な反応を見せ俺からその子をガードし出して、俺はそんな拓海を見たこともなかったのですぐピンときた。


拓海が珍しいことをしてるのも全部、この女の子のためで、拓海はこの子のことが好きなんだと。


俺は乱れてる拓海を初めて見たことで、死んでた俺の心にムクムクと生きがいとも言えるからかい心が芽生えた。

堅物だった拓海の初恋に、俺はちょっかいを出したくなったのだけど、拓海はその子の前で一丁前に男を見せてガードされてしまった。


ま、拓海は俺の遊び癖を知ってるだけに、警戒するのが速かったからだけど。


俺はその後も拓海とその子の行方を知りたくて、散々拓海に家に連れてこないのかと訊いたりしたのだけど、あいつの警戒心を解くのは無理だったようで、あれから一度も家には連れてこなかった。


でも俺は拓海をからかうことで胸にぽっかり空いた寂しさを埋めることができたので、家にいる拓海を見つけてはあの子の事を散々からかってやった。



こいつも誰かに恋できたんだな…



俺はからかいながらも少し喜んでる自分もいて複雑だった。

そして誰かの事を好きだとこんなにも顔や態度に出せる拓海が羨ましかった。


俺だって…美空と血が繋がってなけりゃ…


俺は恋に浮かれてる拓海を見る度に、少しずつ苛立つようになっていく。


気持ちを消せると思ったものの、美空と離れて4か月全く消える気配はない。

美空はこんな俺の気持ち知らないんだろうな…

俺は一度は美空の幸せを願ったものの、やっぱりどこかで自分のことも想っていてほしいという我が儘な気持ちもあって複雑だった。

自分の執着心にイヤになる。


どうして俺は美空の双子として生まれてきたんだろう…


俺は考えても仕方のないことを、無駄に考えてはストレスを溜め、拓海をからかうことでしかこの気分を晴らすことができない人間へと落ちていったのだった。



**



そうして日々をただ無難に過ごしていたある日、俺がバイトして家に帰ると、玄関で拓海がへたり込んでぼーっとしていて、俺は幽霊のような拓海にビビった。


『おっまえ!!電気もつけねぇで玄関で何やってんだよ!!』

『え?あー…、そうだよな…。』


拓海はそう答えるものの心ここに非ず状態で、また空中を見つめ出してはヘラッと笑い出すを繰り返して心底気持ち悪い。

俺は拓海の緩んだ顔に鳥肌が立って、腕を擦りながら茶化すように言った。


『その顔やめろ!恋してるお前の顔、気持ち悪い!!』

『は!?なっ…なんで、恋してるとかっ…!!!!』

『バレバレな面して誤魔化すなよ!どうせ、あの子とデートでもしてたんだろ!?』

『デッ、デートじゃねぇ!!!』


拓海は真っ赤な顔で立ち上がると、やっと我を取り戻したのか気持ち悪い顔がなくなった。


『は、花火大会に皆で行っただけだ!!デートじゃねぇ!!!!』

『……でも、そこにあの子いたんだろ?気持ちがあったら、それは誰がいようともデートだろ。それとも、二人っきりにはなれなかったのか?』


俺が腕を組んで焦る拓海に尋ねると、拓海はうっと言葉を詰まらせて『それは…なったけど…。』と呟く。

俺はそんなしおらしい拓海にまた気持ち悪さが蘇ってきて、身震いする。


うわ、弟の恋愛ってこんな気持ち悪いもんなんだな…

聞くんじゃなかった…


俺は慣れないことはするもんじゃないと感じて、拓海より先に靴を脱ぐと廊下に上がった。


『順調そうで何より。さっさと告って付き合えばいいのによー。』

『そんな簡単だったら苦労しねぇよ。』


拓海は俺の後に続いて靴を脱ぐと上がってきて、俺は拓海と恋愛話を続ける羽目になり、ついてくる拓海を意識しながら、まだ恋愛相談にのらなきゃならねぇのか?と首を傾げた。

そのとき拓海が何かを思い出したのか『あ。』と声を上げると、前を歩く俺の肩を掴んできた。


『兄貴、花火大会で姉さんに会った。』


俺は言われたことを理解するなり、素早く拓海に振り返った。

拓海はそんな俺の反応に少し目を丸くさせていたけど、続けて話し出した。


『姉さん、純さんと花火大会に来たみたいだった。なんか大学のメンバーで集まるんだって言ってた。兄貴には言ってないって言ってたから、一応伝えとこうと思ったんだけど。』

『それ何時頃だ!?』


俺は思わず声に出ていた。


『え、確か五時過ぎ…。もう花火も終わってるから、向こうに帰ったと思うけど…。』


俺は腕時計で時間を確認して、時刻が九時を回ってるのを見て愕然とした。


美空…、なんでこっちに帰るってこと…連絡してこねぇんだよ!!


俺は美空に腹が立って、ケータイを取り出すと美空に電話をかけた。

目の前では拓海が目をパチクリさせて俺を見ていたので、俺は「部屋に行く。」と拓海に言って早足で階段を駆け上がった。

そして、ブツッと電話が繋がったところで部屋に入った。


『もしもし、美空?』

『あ、陸斗?久しぶり~。どうしたの?』


俺は美空の素っ頓狂な声を聞いて、更に苛立ちが募る。


『さっき拓海からこっちの花火大会来てたって聞いたんだけど…?』

『うん。行ってたよ?それがどうかした?』


どうかしたって……


『あのさ、普通地元に帰る予定あるなら連絡するもんじゃねぇの?』

『え、そういうもの?あははっ!家に帰るわけでもないから、うっかりしてたよ~。』


美空は俺の神経を逆撫でするようにテンション高めの声で笑う。


『うっかりって…、連絡の一本でもくれたら会いに行ったんだけど。』

『え…。』


俺はこれが本音で美空に会えるチャンスを潰してしまったことに、かなり頭に血が上っていた。

だから文句が口から出て止まらない。


『美空は大学優先にするぐらいそっちが楽しくて、俺のこと思い返さなかったのかもしれないけどさ。俺は美空に会えるなら、連絡して欲しかったよ。もう4か月ぐらい会ってねぇわけだし、何の連絡もねぇとさすがに心配。そういう俺の気持ちも分かってくれよ。』


俺は苛立ちのまま吐き捨ててから、はたと自分が美空の彼氏のような事を口にしたと気づいて、ぐわっと体温が上がった。


怒りに任せて何言ってんだ俺!!


普段滅多に照れないのに、顔が熱くて汗が出てくる。

ここが自室で良かったと心の底から思ったとき、電話の向こうから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


『ふふっ!心配してくれてたんだ。じゃあ、冬には家に帰るようにするね。さすがにお正月は家で過ごしたいから。』


美空の何も感じてなさそうな言い方から、俺は深読みされなくて良かったとホッとした。


『そうしてくれよ。母さんたちだって口にしないだけで同じこと思ってるだろうし。』

『了解。』


美空はクスクス笑いながら『じゃあね。』と言うと、あっさりと電話を切ってしまって、俺はツーツーと無機質な音のするケータイを見つめて少しムカついた。


久々の電話だったのに…早過ぎだろ…


そして美空のあっさり具合に少しムカつきもしたけど、俺は少しでも声が聴けた嬉しさもあって、電話を切った後美空の高めの声を思い返して、ふっと感慨にふけった。


4か月ぶりに話した…

美空…、普通だったな…


春に別れたまま変わってない美空の話し方に胸を激しく揺さぶられ、俺は少し目尻に涙が浮かぶ。

でもそんな自分のそんな感情が複雑ですぐに涙を拭った。


こんなに恋しかったのはやっぱり俺だけか…

美空は俺になんかに会いたいって思ってくれてねぇんだな…


姉弟って関係性を思うとこれが普通なのかもしれない。

今までがおかしかったんだ。


俺たちは依存し過ぎていた。

というか、お互いのことを考え過ぎていたのかもしれない。


離れて暮らしたら、遠くの双子の兄弟=俺よりも傍にいる彼氏=純を選ぶってことだ。


俺は今まで美空とこんな長期間離れたことがなかったので、美空のいないことに過敏になっていたかもしれない…と自分をなんとか納得させる。



美空がいないからなんだ

中学のときから美空はずっと純のものだっただろ


もう美空に振り回されるな…

忘れられないなら心を殺せ…


俺には人並みの恋愛なんて必要ない


拓海にも散々言ってきただろ

女は欲望の捌け口で十分だ



俺は中、高の頃の自分を思い返して、なんとか美空への想いを心の奥で消すことができた。



美空はただの家族だ



ただそれだけだ―――――














拓海と詩織がちょろっと顔を出し始めました。

しばらく美空と絡まなくなるので、拓海との絡みで繋ぎます。

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