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平凡の日常の一年を非凡の一年に変えたのは多分この日が最初だったと思う。
「先輩、遥先輩」
走ってきたのはもう一人の有名人“黒蝶”こと山ノ部華音。
2年生だしこの後部活があるので会う予定だから急ぐようなことはないのに。
「おい、待てって」
続いて俺とバッテリーを組んでいる海斗まで続く。
「華音どうしたの」
「あいつが、あいつが来てるかもしれない」
はぁはぁっと息を整えながら話す後輩。
あいつって誰だ?
「急に走ってどうしたんだよ」
一応鍛えているだけあって息は乱れていないが彼の言葉にも反応しないで口を開いた。
「ベンツ・・・こげ茶に近い黒色のベンツが校門の西側の道に止まってる。ナンバーも同じ」
その言葉を聞いて遥の顔は青ざめてしまった。
ただ事じゃない気がする。
「正志、今日の部活お休みするわ。
華音、あんたはすぐにマリちゃんに連絡して」
「分かりました」
「おいどこ行こうと思ってるんだよ」
引き止めようと腕を伸ばし彼女の腕に触れるがすぐ振り離されてしまった。
え?
「あんたには関係ない」
冷たい目、強い拒絶。
無意識に体が勝手に後ずさりしてしまう。
約2年間一緒にいたが遥がこんなことをしたのは初めてだった。
しかしその反応に一番傷ついたのは当の本人である遥だった。
「ごめん。本当に何もないから」
そう言って駆け出していった遥の後姿を見る。
何もないならどうして青ざめたの?
どうして手が震えていたの?
「華音は知ってるの?遥は青ざめていたけど・・・・“あいつ”って聞いたとたん。
本当に遥の知り合いなの?」
「・・・知っているといえば知っています。
噛み砕いてお話すれば先輩の会社の取引相手の息子さんと言うべきでしょうか。
詳しいことは先輩にお聞きください。
話してくれる保障はありませんけど」
華音自身も話したくないのか遠まわしに話すことを拒絶していた。
なんでそんな相手なんかのところへ行くのだろうか?
社長の娘としての義務。
そう言われれば何もいうことは出来ないが二人の様子からしてやばいくて危険な相手なのは確か。
放棄してしまえば良いのに。
多分そう思うのは一般庶民の俺だからそう思えるのだろう。
でもあんな遥を見たら誰だって・・・・




