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【完結】リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした。トラブル?強敵?がぶがぶペロっと平らげてやんよ!~  作者: 北乃ゆうひ


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31.どうしようもない男のどうでもよいヒストリー


 うぇーい……。

 あれから何とかギルドに戻って、(うまや)の定位置で泥のような眠りから目覚めたばかりのベルで~す……。


 テンション低いって?

 そりゃそうよ。今、私……むっちゃダルいんだもん。


 よっこらせ……と掛け声でも出さないと立ち上がれないレベル。


 何とか起きあがってみてわかったのは、昨晩はどうやら夢遊病のように起きてご飯食べたりとかもなかったようだ。

 そのくらいぐっすり――いやぐったりと眠っていたんだろう。


 とにもかくにも空腹感がすごいので、何か口にしたいところ。

 とりあえず厩から出て、ギルドにでも行こうかな。

 スーズさん当たりに声を掛ければ、廃棄装備とか用意してくれるはず。


「がっぶが~ん!」


 おっはよ~ん! 


 丘鯨のガガドドや、馬たちに挨拶をしながら外を目指す。

 ここへ来てまだ浅いけど、朝起きたら挨拶をして、出かけるなら行ってきます、帰ってきたらただいまと口にいしているうちに、ガガドドたちもだいぶ馴れてくれたみたい。

 ……そうだといいなという願望込みだけど。


 そうして厩から外にでると、見慣れない天幕が張ってあった。

 露天商が広げてそうな感じの簡易的なそれの下には、色んなモノが色々と置かれている。


 なにこれ?

 疑問に思いながらもそこへ近づいてみると、何やらメモが張ってあった。だが読めん。


 私が首を傾げていると、スーズさんが声を掛けてきた。


「この天幕に置いてあるモノはベルのモノです。好きなだけ食べてください――って書いてあるのよ。

 色んな人が色々もってくるからビックリしちゃったわ。ここ数日でずいぶんと人気者になったのね」


 うーむ。

 そこまで意識してたワケじゃないけど、これを見ると確かに……と思わなくもない。


「呪いが解けて、大事なモノが手元に戻ってきますようにっていう願いも込みみたいだけど」


 まぁそうだよね。

 色々と置いていってくれたモノの中に、解決手段のあるアイテムが混ざってればいいんだけど。


「がぶがぶがう」


 いただきます――と両手をあわせると、私は天幕の前に腰を下ろして適当に手を伸ばす。


 右手で手で触れたモノを適当に引き寄せると、白い木の枝だった。

 ごくんと飲み込んで鑑定するとホワイトウッドと出てくる。

 なるほど、これが聖なる灰になる木の枝か。


 次いで左手で触れたモノを適当に引き寄せると、ひしゃげた盾だった。これはたぶん探索者ギルドの廃棄品だろうね。

 これもありがたく、ごっくんします。


「ねぇ、ベル。食べながらでいいから聞いて欲しいんだけど」

「がぶ?」


 顔を一度スーズさんの方に向けて、軽く首を傾げる。

 我ながら今のはなかなかのあざとい仕草だった気がするぞ。

 まぁスーズさんからの反応はまったくないんだけど。


「昨日の無駄口野郎の話」

「がぶう」


 聞こう――と告げて、顔をキリっとさせる。

 まぁそのあとすぐに食べるのを再開するんで、シリアスフェイスに何の意味もないんだけど。


 ぱくぱく。ごくごく。


「探索者の登録抹消。その上で、犯罪魔想術師(ブレシアス)として処理されることになったわ。警邏の騎士たちに引き渡しもした」


 ふーん。

 この世界について詳しくないから、それが妥当な処置かどうかは分からないけど、まぁギルマスやクロンダイクがそれを()しとするならどうでもいいや。


 もぐもぐ。ごきゅごきゅ。


「あいつ……能力や才能は一級品だったと思うんだけどねぇ。

 呪いを扱う珍しい魔想術(ブレス)を使ったそうだし、でも……」


 嘆息するスーズさん。

 何か思うことがあるのかもしれない。


「人格が最悪すぎるのでもうギルドに来ないのかと思うと清々するわ」


 美女の爽やかすぎる笑顔で、ご飯が美味しい。

 よっぽどあいつに鬱憤が溜まってたのかな?


 なんてことを考えながら、右手に掴んでた青白く輝くインゴッドをぱくっともぐもぐしていると――


「あのね、聞いて欲しいのよ。あいつのコト。

 最終的にはベルとも無関係じゃなくなると思うし」


 ――スーズさんはそんなことを言ってきた。

 私と無関係じゃなくなる? なんだそれ?

 そう言われちゃうと気になるので、私は食べながら耳を傾ける。


「無駄口のサブンって、今やダイヤモンド・セカンドまで階級を上げた飛翔する不死鳥(フェニックス・ライズ)って探索者チーム所属だったんだけどさ、追放されたらしいのよね。態度と素行が悪くて」


 うーむ。探索者のランクがよく分からない。

 まぁでもダイヤモンド・セカンドっていうのがわりとすごい階級らしいっていうのは何となくわかったぞ。


 あと、あいつの素行が悪くて追放されたというのは、何か分かる。

 昨日あいつ自身も言ってたことだけど、何かこう……失敗は全部他人、成功は全部自分のおかげみたいな奴っぽかったしなぁ。


「チーム結成当初はそれなりだったらしいんだけど、だんだんと自分がいたから攻略できたとか、自分がいたから生き残れたんだとか、増長しはじめたらしくてねぇ……。

 実際、増長できる程度の実力や才能はあったと思うんだけど、でもチームってそれだけだと難しいでしょう?」


 問われて、私はうなずく。

 突出した自分の能力だけを示したいならソロなんだよなぁ……。

 それが出来なくてチームを組む以上は、自分が自分が――だけじゃダメなのは当たり前。

 でも、スーズさんの様子だと、サブンはそういう奴だったんだろう。


 なんてことを考えながら次に手で取ったものは丸いパンだった。

 見た目はブールっぽいやつ。


 ふーん。ふつうのパンがあるじゃない。

 結構堅いパンみたいだけど、味わおうと思いながら飲み込むとちゃんと口の中に風味が広がる。

 うんうん。フランスパンっぽい味。小麦が違うからか、知っているフランスパンと比べると、だいぶ甘みがある。嫌いじゃない味だ。


「そして彼の増長がチームメイト一人に瀕死の重傷を負せるキッカケとなり、追い出された。

 ただでさえ厄介なタイプだったんだけど、それがキッカケで余計に拗れたようでねぇ……。

 別のチームに拾ってもらっても、同じように増長して追い出されてを繰り返しながら、この街へ流れついたみたいなのよ」

「がぶぅがぶがぶがぶぅが」


 自業自得じゃねぇか。

 追放体験を繰り返して反省しなかったっていうなら、それはもう救えない。


「何言っているのかは分からないけど、呆れたっていうのは通じたわ」


 スーズさんも呆れたように苦笑しながら、話を続ける。


「それでも彼は懲りずに、自分がいればもっとチームのランクを上げられる。自分は天才だ。自分を追い出す奴らは見る目がないって言い続けた」


 どうしようもないよね、そうなると。

 打つ手なし。放置安定。構えば構うだけデメリットが増えるお邪魔キャラだ。


 やれやれ――と思いながら伸ばした左手が掴んだはまたもインゴッド。

 今度は純白に輝くすごい神聖な感じのするインゴッドだ。

 金属系をまとめて用意してくれた人でもいるのかな。ありがたく頂こう。


 ひょいっとごっくん。

 そういえばこれ、ピーニャちゃんの銃と似たような色合いしてるな。


「そして彼がいなくなってから、飛翔する不死鳥(フェニックス・ライズ)は躍進をはじめた。

 ゴールド・セカンド辺りでくすぶってた彼らは、サブンがいなくなって間もなくゴールド・ファーストにあがり、あっという間にプラチナランクへと昇格。

 さらにプラチナになってからもサードからファーストまで駆け上がり、ダイヤモンドランクへ手が掛かる。

 躍進する新人として、色んなギルドで注目されている若手の新鋭気鋭チームとなったの」


 あー……ガチで足手まといだったんだな、サブンの奴。

 追放した結果、スムーズな仕事が可能になったから飛翔する不死鳥(フェニックス・ライズ)は躍進できたんだろう。

 一気にランクを上げられるだけの腕を持ちながら、一定のランクでくすぶっていたのは、そこで足踏みさせる何かしらの要因があったからに他ならない。


 それがスランプとか能力による壁とかなら、時間が解決を待つしかないけど、追放から間もなく活躍するならそれは高確率で追放された奴が原因だったということだ。


 あむあむ。こっくん。


 ただこれ、サブンからすると拗れる案件だ。

 天才で才能溢れる自分が足手まといであったという事実を突きつけられるわけだしね。


「打ちひしがれながらも、初級者と上級者の両極端な探索者が多いこのクリングの街へとやってきた彼は――」

「がぶ?」


 もったい付けるように言葉を止めるスーズさん。

 そこで何とも言えない笑みを浮かべて、続きを告げる。


「この街の探索者たちから嫌われた。

 駆け出しからすれば恩を押しつけてチームに加わろうとしてくるうざい男。

 上級者からすれば、才能にあぐらをかき研鑽をやめた結果ただの足手まといと化したわがまま中級者。

 この街に流れついた直後はともかく、何度かそういう態度で人に接し、そしてチームを追放されるというのを繰り返していれば、噂はすぐに広まるものよ」


 結果として、上級者たちはサブンから初級者を守る為の講習会とかをギルドと協力して開いたりしているそうだ。

 一応、探索者の育成に貢献してるじゃん、サブン。


「ちなみに彼は同業者以外にも、ふつうのお店の人にもそういう態度なのよ。天才の自分が値引きしろといってるんだからしろ――みたいな」

「がぶがぶ?」

「アホなの? とかバカなの? って感じかしら今の?

 まぁでも否定はしないわね。そうして街の人たちからも嫌われていった。

 無駄に嫌われるような言動を繰り返すから、無駄口って言われるようにもなっていったみたいね」


 それらを踏まえて昨日のあいつの言動や態度を思い返してみましょう。

 はい。反省はありませんね。むしろ、自分を嫌う者たちを見下している節さえある。


「――で、どうしょうもなく落ちぶれた時に、何も知らない女性がたまたま手を差し伸べてくれた。

 あー……正確には違うわね。そいつがサブンだって気づかずにうっかり手を差し伸べちゃった女性がいたのよ」


 スーズさんの中でのサブンの扱いが分かる言い回し。

 まぁでも、救われる機会を全てフイにしているサブンの評価なんてそんなものだろう。


「そして、サブンに手を差し伸べた天使というのが、コリン・ベースさん。フィズちゃんのお母様ね」

「…………」


 ガツガツ、モグモグしていた私の手と口の動きが止まる。


「あのすばらしい女性は自分にこそ相応しい。すでに結婚しているようだったから、旦那が邪魔。あんなチンケな店の旦那は彼女に相応しくないというのが、彼の言い分」

「…………」


 クッソ身勝手な言い分だな、おい。


「旦那が弱れば自分を頼ってくれるだろうって思ってたらしいわよ?」

「がぅ?」


 は? 何言ってるんだかイミフなんだけど?


「そうよねぇ……意味分からないわよね。

 でもね、そうして自分を頼ってきた彼女の前で精一杯の手を打ったフリをして旦那さんを殺し、傷心の彼女に優しくすれば靡いてくれると本気で思ってたっぽいの。

 子供は邪魔だけど、それを受け入れるくらいの度量はあるとかそういう態度だったわね。

 案外、ジンさんの次はフィズちゃんを狙ったんじゃないかしら」

「…………」


 フィズちゃんが、邪魔だとォ……?


「そんなワケで、ベース会頭のベッドを呪った犯人はサブン。昨日捕まえたあとでそう自供したそうよ。

 でも彼は、自分は呪うだけで解呪はできないと言ってたから、ベルに呪いの解除方法を探してもらうというのは変わらないみたい」

「がぶがぶ」


 やれやれ――と肩を竦めるけど、まぁ街の人たちの分も背負っちゃったしね。ちゃんと解決してやりますよっと。


 そう考えた時、ふと先に食べた純白のインゴットとピーニャちゃんの銃の色合いが似ている気がしたことを思い出す。


 その思いつきのまま純白のインゴッド――聖白想銀(ホワイト・リュトン)とピーニャちゃんの銃をフリー合成で組み合わせようとすると、何か上手くいきそうな気がした。


 でも足りてないという感じもある。

 だから私はそこに、聖水を混ぜてみると――あ、これイケそう。


 そうして合成した結果、いつものエクスタシーとともに、それが完成した。


【ピースメーカーK9セカンドカスタム・『ライチェス・ヴァルキリー"K'(ケイダッシュ)"』ベルスペシャル】


 何か余計な名称が追加され、性能が向上しちゃってはいるけれど、呪いは完全に解けている。

 完全に条件が分かったわけじゃないけど漠然と理解できたぞ。


 呪われているアイテムに使用されている素材に近いモノと、解呪の特性を持ったものを組み合わせればいいんだ。


 ピーニャちゃんの銃で実験しちゃったのは申し訳ない気はするけど、成功したので許してほしい。


 私はそれを乗せた舌をんべ~とスーズさんの方へと伸ばす。


「これ、ピーニャの?」

「がぶ」

「彼女に渡せばいいのね?」

「がぶがぶ」


 そうそう。渡しといて欲しいな。

 解呪に成功した銃をスーズさんに渡した時――ギルドの受付の方が急に騒がしくなってきた。


「何かあったのかしら?」


 私とスーズさんが顔を見合わせていると、大きな声が聞こえてくる。



「魔獣だッ! 見たことのねぇ黒い魔獣がいきなり街中に現れやがったッ!! 手が空いている奴は退治を手伝えッ!」


 目の前にあるご飯の山を一気に飲み込んで立ち上がる。

 ゆっくり味わっていたかったけど、そんな暇なさそうだしね。


「手伝ってくれるのね?」

「がぶッ!」


 おうッ!

 スーズさんの問いに私は力強くうなずくと、二人でギルドの受付へと急ぐのだった。



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