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【完結】リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした。トラブル?強敵?がぶがぶペロっと平らげてやんよ!~  作者: 北乃ゆうひ


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3.混ぜ混ぜミックス


「ありがとう、魔獣さん」


 泣き終えて落ち着いたのか、女の子は私から身体を離すと、こちらを見上げながらそう言った。


 うわぁ、こうやって間近に立つと本当にちっちゃいなぁ……私の半分くらいの身長しかない。

 ……もしかしたら今の私が大きいだけ説があるけど、それは無視するものとする。


「でも、何で助けてくれたの?」


 ぐしぐしと涙を拭きつつ、訊ねてくる女の子に私は真面目に答えた。


「がぶががぶががっがぶが」


 君が可愛いかったから、と。

 いや、正直これで伝わるとは思わないけど。

 っていうかむしろ伝わってた場合、事案な気がしないでもない。


「んー……何言ってるのかよく分からない」


 ですよねー。

 伝わらなくて良かった。


 それはそれとして、よ。


「がぶ、がぶがばがぶ?」


 狼が出てくるような森の中に、どうして女の子が一人でいるのだろうか。


「えっと、今のは何となく分かった。

 どうして一人で森の中にいるのか聞いてる?」

「がぶっ」


 通じたようなのでうなずく。

 すると彼女は、キョロキョロと周囲を見回す。

 それから近くに落ちていた、手作りっぽい草編みの手提げを拾うと、中から草を一束取りだした。


「これッ!」


 ドヤっとした感じで私の口の前にそれを差し出してくる。


 え? 食べていいの? いただきまーす!


 何か目の前に出された草に対して、本能的に口を開いてしまった。

 どうにも、食欲にあらがいづらくなってるねぇ……。


「うひゃあ!」


 私は彼女の手ごとぺろりと口の中に含んで、彼女の手だけは傷つけないようにしながら、草だけ頂くことにする。


 彼女は突然舐められたことに驚き、それからくすぐったそうに身を捩る。


 傍目から見たら、幼女の手をペロペロしてる変態モンスターに見えなくもないけど、周囲に目なんて無いから気にしたら負け。


 ともあれ、彼女の持っていた草に関しては……。


 んー……草の味。

 あ、でもなんだか身体に良さそう。何だろうこの感じ。

 舌に乗せたモノの価値がまるで分かりそうな……



【ルオナ草】

 比較的明るい森の中で良く見かける野草。小さく愛らしい黄色い花を付ける。傷用ポーションの材料になる薬草でもある。



 まじで脳裏に過ぎったよ。私の舌、鑑定能力みたいな機能があるっぽいね。

 そうかぁ……薬の材料になる薬草かぁ……。

 もしかしたら、おうちのお手伝いなのかなぁ……偉いねぇ……。


 ごっくん。


 ………………あ。

 しまった。舐めるだけ舐めて返すつもりが、つい勢いで飲み込んじゃった。


 そして私がルオナ草を飲み込んだ時、私の口から手が解放された女の子が自分の手を見て悲鳴を上げた。


「あーッ!!」


 おかしいな。(よだれ)にも気をつけてたから、ばっちくはないと思うんだけど。

 ……いやまぁそんな理由の悲鳴じゃないのは分かってますよ?

 現実逃避したかっただけです。


「……大事な、お薬の材料だったのに……」

「がぶっ、がぶぶ、がぶぶぶがぶ……!」


 しょんぼりと、涙目になる女の子に、私は内心大慌て。

 いやゴメン。まじで飲み込むつもりはなかったんだよ……ッ!


 とか言っても、飲み込んじゃった以上はどうにもならない。

 だったら、一緒に探すしかないじゃない!

 大丈夫! この私がぺろりと解決してあげるさ! いっぱいいっぱい見つけてあげるからね!


 とはいえ、何か都合の良い解決方法とか即座に欲しいところだけど……


 その時、脳裏に変なメッセージが過ぎった。


《収納ストマックにある【ルオナ草】と【ジメリナ草】と【鏡面水(きょうめんすい)】を混ぜ合わせますか?》


 ……混ぜ合わせる?

 ようするに、そんな能力を私が持ってるってこと?


 いや収納ストマックってのもよく分からないんだけど……。


 気になることが多いけど、ちょっと考えるべきことの的を絞ろう。

 目の前にあることを全て受け入れるとして、今必要で、考えるべきことはなんだろ?


 たぶん混ぜ合わせるって行為についてだろうか?

 いや、その前にジメリナ草と鏡面水って何だろう? ってとこかな?

 収納ストマックとやらにあるモノに鑑定能力は作用するばいいんだけど……。


 なんて思ってると、脳内に再びメッセージが出てきた。



【ジメリナ草】

 主に洞窟の中などのジメジメした場所に生える草。白い鈴を思わせる花が連なって咲く。主に解毒用ポーションの材料となるのだが、そのまま口に入れるとお腹を壊しかねないので、解毒剤として使う場合は精製することが推奨される。


【鏡面水】

 トニック湖が湛える美しい水。

 キラキラと陽光を反射するだけでなく、鏡のように像すらも反射する為、この名前が付いた。一度煮沸すれば飲料水にもなる。

 そのままでは特別な効果はないのだが、特定の素材と混ぜ合わせると、特殊な反応を起こすことがある。



 あー……。

 ジメリナ草ってたぶん洞窟の中で適当に口へ放り込んだモノの一つか。


 鏡面水っていうのは、たぶんさっきの湖の水だよね。

 湖の水なんて飲んだのはアソコだけだしさ。

 なるほど。あの湖はトニック湖っていうのか。


 混ぜ合わせるとどうなるの?

 なんて、脳内で疑問を投げかけど、謎のメッセージさんは反応しない。


 うーむ、これはどうするべきか。

 私が悩んでいると、立ち直ったのか、女の子は目をゴシゴシこすってこちらを見上げてきた。


「もしかして、お腹すいてたの?」


 そして、最初に言った言葉がこれだ。

 怒るわけでもなく、嘆くべきでもなく、私に気を使ってくれている。


 ええ()や……。

 うちは、なんでこないな娘を泣かせてしもうたんや……。


 とりあえず、悩んでても仕方ない。


「がぶぅ……」


 申し訳ない顔をして首を横に振っておく。

 飲み込んでしまったのは事実なので、謝罪の意味を込めてだ。


「あ、いいんだよ。私もいきなりあなたの前に差し出しちゃったから。貰えるモノだって思っちゃったんだよね?」


 うあ~~~~~ん!

 マジで良い子だよこの子!!


 お姉さんが、お姉さんが悪かった。許してくれ!

 くぅ~~~~こういう時に言葉が通じないのがもどかしいッ!!


 よし、決めた!

 とりあえず混ぜよう!

 その結果次第で、対応を変えよう。


 今のッ! 私にはッ! 彼女に土下座したり靴を舐めたりする覚悟があるッ!


 そんなワケで、混ぜますッ!


 私がそう意識した途端、お腹の中で何かが動いて混ざっていく感じがした。そして身体がゆっくり膨らんでいく。

 これは曰く言い難い感覚だね。気持ち悪いとかそういうのは無いけど、気持ち良いかと言われると微妙。


 そして全てが混ぜ合わさった瞬間、ぼしゅん! という音を立てて僅かな間だけ身体がしぼみ、頭から煙が噴出した。


「え? え? なに? 魔獣さん? どうしたのッ!?」


 女の子が心配そうに訊ねてくるけど、それどころじゃなかった。


 うっひょー! なんかよく分からないけど、今の瞬間だけ最高に楽しい気分になった! 最高にハイって奴だッ!! なんだこれ~~ッ!?


 身体が元に戻る瞬間に、古い電子レンジやオーブンのチ~ンって音が聞こえた気がする。同時に、漠然と何か完成したという心地になった。


 何が出来たんだろう?

 そう疑問に思うと、出てきましたよメッセージさん!



【ルオナポーションPPo】

 プラスポイズン。傷用の下級ポーションであるルオナポーションに、ジメリナ草の解毒作用が付与されたもの。

 傷の回復(小)+解毒(小)の作用を持つ。



 おお! 解毒作用のある傷用下級ポーションが出来た!

 それは良いんだけど、プラスポイズンって名称、解毒っていうか毒がプラスされてるっぽくない? いや、良いんだけど。分かりやすいっちゃ分かりやすいし。


 とりあえず、これをこの子にプレゼント出来ないかな?


 などと思っていると、お腹の中からせり上がってくるものがある。

 とはいえ別に気持ち悪くないし、汚いモノなんかじゃないよ。


 そう。ルオナポーションPPoだ。

 しかもなぜか瓶に入っている。どこから出てきたんだこの瓶?

 まぁいいや。


 私は口を開き「んべぇ」っとばかりに大きく長い舌を出す。

 舌の上に乗っているのは、瓶入りのポーションだ。淡く透き通った黄色い液体の中に、スズランに似た小さな花が一つ浮いている。


「え? これポーション? くれるの?」


 恐る恐るといった様子で訊ねてくる女の子に、私はうなずく。

 ……おっと、舌を出しながらうなずくって難しいな。


 それを彼女が手に取ったのを確認してから、私は舌をしまった。


「がぶがぶっ、がぶぅがばぅ」


 あなたのルオナ草を食べちゃったお詫びだよ――そう言ったつもりなんだけど、通じたかな?


 女の子はしばらく私とポーションの間に視線をさまよわせてから、ふわっと笑った。


「ありがとう。魔獣さん!」


 うおおおお、美少女の笑顔……尊い……。

 なんていうか前世でささくれ立ってた心が癒されるようだわ……。


 嬉しそうにぎゅっと瓶を抱きしめながら、頬に当てる姿とかマジカワですわよ!!


「でも、ちょっとベトベトヌルヌルしてるね、これ」


 おっと、そいつはすまねぇ……。

 それは私の、お(よだれ)さんだ。


 でも、ほっぺたから離しながら苦笑する姿も可愛い。



 ……今後、この混ぜるチカラを使うとき、涎が付かないようにできないかな?



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