23.麗しお姉さんはインテリ or マッド?
ミルカッチェさんにお誘い頂いたあとも会議は続いたけれど、基本的には私に関するに細かい話ばっかりだった。
称号と薬の鑑定の時が一番騒いだね。
……いやまぁインパクトありすぎただけとも言うかも。
ともあれ、会議というか顔合わせは無事に終わって各自解散。
フィズちゃんに持ってきてもらったポーションは鑑定が終わったので、彼女のお父さんに使って良いことになった。
あれで、フィズちゃんのお父さんも元気になってくれればいいんだけどね。
そんなワケで、会議の翌日、気持ちのいい朝を迎えました。
今日は夢遊病で何かを食べたりしませんでした。寝る前にちゃんと食べるって大事だね。
壊れた武具とか、ギルドの不要品とかごちそうになりました。
……体の良い不良処理係に任命された気がしたのは、気のせいってことにしておくよ。
本日はカルミッチェさんのお宅にお邪魔します。
ギルドへとカルミッチェさんが迎えに来てくれたので、私はその後ろをペタペタと歩いてついていく。
途中でちょいちょいと、何度か見た覚えのあるちびっ子たちに名前を呼ばれ手を振られたので、愛想良く振り返す。
すると、近くにいた見覚えのないガキンチョたちも一緒になってこっちの名前を呼んで手を振ってくるようになってしまった。
いやまぁ別にいいんだけど。
「ふふ、子供に人気ですね」
「がぶぶ、がぶがぶがぶぶがぶ」
バカに、されてるだけですよ――っと。
「あ、そうそう。
フィズちゃんはおうちのお手伝いが終わってから遊びに来るって言ってたわ。あの子のおうち、探索者さん向けの道具屋さんなのよ」
カルミッチェさんの作った道具などを買い取って、お店に並べたりもしているそうで。
フィズちゃんとは、何度も足を運んでいるうちに仲良くなったんだとか。
それにしてもお手伝いかー……。
また勝手に森へ薬草の採取とかしにいってないだろうなー……ちょっと不安だぞ。
「着いたわ。ここよ」
この街の職人街と呼ばれる、鍛冶師や細工師、職人仕事関連のギルドなども多く立ち並ぶ地区。
そこの中程に軒を連ねる建物の一つが、カルミッチェさんのお宅らしい。
「工房を兼ねた住居でね。
一階は工房で、二階が住居になってるのよ。
階段が狭くてベルちゃんは上にあがれないだろうから、申し訳ないけど、散らかってる工房に案内させてもらうわね」
そんなワケで、カルミッチェさんのご自宅突入!
「がぶがぶがーっぶ」
おじゃましまーっす。
外からだと分からなかったけど、中は結構広い。
奥行きがある感じかな。右手側の壁、中央付近に階段がある。
確かに、家の作りの割には階段が狭いかも。
玄関側はかなり片づいてるんだけど、階段の辺りを境にその奥は散らかっている。
でも、ゴミ屋敷とかそういうんじゃなくて、実験室というか発明室というか、そういう作業部屋的な散らかりかた。
薬草っぽいモノや、魚の鱗っぽいものに、骨っぽいものと、生き物由来の素材らしきモノも色々と置いてあるし。
本の詰まった本棚が複数。
薬品や空の瓶などが詰まった棚。
ポケット付の壁掛け布には、何に使うのかは見当もつかないけど、色んな作業道具と思わしきものが詰まってる。
道具とかはある程度の整理整頓はされてるっぽいけど、三つある机のうち二つ――その片方は本や紙などに占拠されているし、もう片方はビーカーや試験管のようなものたちに占拠されていた。
残ったもう一つの机だって、魔法陣の描かれた紙の上に、宝石のような石が乗せられてたり、すぐそばに木槌や、ドライバーのようなモノが置かれている。
まぁそれでも一番片づいてる感じだから、あそこで座り作業をしているんだろうね。
あと、魔女の大釜みたいなのも設置されてて、正直、何の作業場なのかはよく分からない。
まぁでも、錬金術だかマジックアイテムだかって感じのものを作ってる職人さんって言われたら、そうなんだろうなって納得できる感じの場所だ。
「さて、フィズちゃんが来る前に難しそうなお話だけ、先にしちゃいますか」
「がぶ?」
「貴方の能力――あのお薬を作ったチカラを見せて欲しいの」
「……がーぶ……」
ふーむ。
そう言われてもな。
キョロキョロと周囲を見渡し、紙がいっぱい乗ってる机と、手近にあったペンを指さす。
通じるかな?
「紙と、ペン? 何か書くの?」
よしよし。通じたね。
私がうなずくと、カルミッチェさんが紙とペンを貸してくれた。
とりあえず、書くのはクロンダイクにも見せた縦線と横線のあれ。
カルミッチェさんには通じるかな?
「なるほど。複数の素材を食べ、お腹で混ぜ合わせて、別のモノに作り替える能力――というコトね?」
そうそう。
「レシピとか分かる?」
分かるは分かるけど、喋れないから説明が難しいな。
んー……手持ちに何か素材あったかなー……。
あ。ありそうだな。
とりあえず、ビーカー借りよう。
そんなワケで、私はビーカーを指さした。
「食べるの?」
首を横に振ってから、ペンと紙を示す。
同じように貸してほしいだけなんだけど。
「ああ、貸して欲しいのね」
そうして貸してくれたビーカーに、私は収納ストマックから取り出した鏡面水を注ぐ。
……だばぁと口から垂らしてるから見た目ばっちぃんだよね……。
それからカルミッチェさんのメガネを指さして、それからビーカーの中身を示す。
「メガネ……はダメよ。貸せない……違う? あ、もしかして鑑定?」
そう。それ。
「鏡面水……ショット湖のお水なのね。
これがどうしたの?」
続けて私は収納ストマックからジメリナ草を取り出し、舌の上に乗ったそれを机に乗せた。
「ジメリナ草?」
そして、さっき工房を見渡して見つけた薬草を指で示す。
「ルオナ草?」
材料はそろった。
それらを三つ指さしてから、私は大きな口を開いてそこを示す。
「この三つを食べて混ぜ合わせるのね?
いいわ。ルオナ草くらいなら問題ないもの」
そうして、いつもの混ぜ混ぜ合成スタート。
お腹の中でぐるぐるした感じで、身体が一瞬膨らみ、今度は窄んで、頭から蒸気っぽいのがぷしゅーからのチ~ン!
いつものようにエクスタシーを感じつつ、べろんっと、口から小瓶を吐き出した。
……ほんと、この小瓶はどこから出てくるのか。
まぁ自分で瓶詰めする必要がないのはラクでいいね。
「こんな簡単に薬の調合を……」
驚きながら小瓶を手にとり鑑定してみせるカルミッチェさん。
「ルオナポーションPPo……。
特殊ブレンドのルオナポーションね。それも高品質の。
しおれたルオナ草でもここまでの効果のモノが作れるなんて」
しばらくルオナポーションをしげしげと見ていたカルミッチェさんが驚いたように目を瞬く。
「鑑定結果に合成レシピが見える……?
しかも、ベルちゃんの合成レシピだけでなく、錬金術用の調合レシピも……?」
それ、ちょっとヤバくね?
私が勝手に作る分にはいいけど、他の作り方のレシピが見えるって……。
広めちゃうとちょっとどころじゃなくブレイクスルーが発生しちゃいそうなんですけど……!
「このレシピが見れるのはたぶん、高いレベルの鑑定を持っている場合だけ、なのかしら?
軽く鑑定した時には見えてこなかったし……」
しばらく考え込んでいたカルミッチェさんは顔を上げて、ニッコリと笑った。
「ふふ、ベルちゃんは、しばらく私のコトを飽きさせないでくれそうね」
おーけー! ウェイトだレディ・カルミッチェ!
今の貴女の顔――めっちゃ解剖趣味のマッドサイエンティストみたいな表情してるんですけど……!
助けてフィズえも~ん!!
そんな私の心の叫びが通じたのか、バタンと工房のドアが開いてフィズちゃんが姿を見せた。
やった! フィズちゃん来た! これで勝つる……!
……なーんて、思いはするけどちょっとそんな雰囲気じゃないな。
私とカルミッチェさんは思わず顔を見合わせたあと、息を荒げながら入ってきたフィズちゃんへの元へと向かう。
「フィズちゃん、どうしたの?」
顔を上げたフィズちゃんは泣きそうで、辛そうで……。
「…………!」
何かを押し殺した様子で、彼女は私の人をダメにするお腹に飛び込んできた。




