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4 住処

 マリアによって魔王城謁見の間に集められた。

 メンバーは俺、ミーナ、サーシャ、シルフィー、シファ、ナビ、兄貴、ゴウだ。

 ナビが玉座に座り、骸骨将軍が大きなセンスで彼女を扇いでいる。別に暑いと思わないんだが。

 全員が集まったのを確認したマリアは、「大変なことが起きているわ」と前置きを入れて話を始めた。

 それは本当に大変なことだった。


「邪神がすでに復活している!?」

「ええ、あくまでもミラー先生によると、だけど」

「信用していいのか?」


 話題に上がった張本人はこの場にはいない。

 ナビの命令により、花壇の手入れをしているらしい。


「ミーナちゃんから邪神の気配が消えたのはそのためか」


 兄さんが顎に手をあてて考えるように言う。

 ミーナの記憶が戻ってから、彼女から邪神の気配がなくなったのは俺も聞いていた。

 その時は原因はわからなかったが、とっくにミーナを諦めて別の方法で復活していたというのか。


「でも、どうやって?」

「手段はわからないけど、場所は聞いたわ。全てのはじまり、始祖の地」

「始祖の地?」


 聞き覚えのない――知識としても頭に残っていない言葉に俺はおうむ返しで尋ねる。


「始祖の地は全ての大陸から一番離れた場所にあり、全ての大陸の中心にある場所です」

「南極で言うところの到着不能極みたいね。海と陸という意味では逆なんでしょうけど」


 兄貴とゴウが頷くが、俺を含め三人以外はその意味はわからない。

 南極というのは俺のいた世界にある土地の名前なのだろう。


「それで、私達はどうするか? ってことになるのよ。つまりは邪神を倒しに行くのか、それとも行かないのか? 邪神が私達に害を成さないという可能性もあるのよ?」


 マリアはそう締めくくった。


「俺は……始祖の島に行きたい。邪神がいいやつだったとしたら、ミーナをあんなに苦しめるようなことはしない」

「……タクトくんならそう言うと思ったわ……まぁ、いい神様じゃないから邪神なんだけどね」


 マリアが諦めたように言う。悪いな、わがまま言って。

 でも、どうしても俺は邪神を倒さなくてはいけない、そんな気がするんだ。


「船で行けるのか?」

「東大陸の船では無理ね。その周りは海流が激しくて、西大陸に向かうときはその海流を避けて移動したもの」

「飛んでいくのも難しいのぉ。あのあたりは気流が安定せん」


 空を飛ぶことのできるシファも困ったように言う。


「瞬間移動はどうなんだ?」

「瞬間移動は無理だよ。瞬間移動は大陸内でしか移動できない。だが、始祖の島だけは四つの大陸から独立しているんだ。世界中を移動したとき、僕は行こうとしたんだが、断念した場所だよ」


 まさに八方塞がり。

 海からも空からも行けない、瞬間移動も使えない。

 だとすれば、行く術が存在しないじゃないか。

 何か方法がないか?

 皆がそう考えていた時、答えを出したのは意外にもナビであった。


「大丈夫です、始祖の地に入るための別の島があります。そこから地下を通って行けばいいかと」

「待て、なんでナビがそんなことを知っているんだ?」

「ナビはナビゲーションシステムとして設計されたとお伝えしたはずです」


 ナビが半眼で睨み付ける。いや、無表情なんだけどな、睨み付けられた気がしただけにすぎないけど。

 やっぱり睨み付けられた気がする。


「ああ、そういえばそうだったっけ」


 そうだったのか?

 お伝えされたといっても、俺、記憶喪失だからなぁ。

 ナビのことをナビと名付けたのは俺らしいが、ナビゲーションシステムだからナビって安直すぎないか?


「ふむ、そういうことなら、北の海岸に船を用意しよう。妾達にかかれば三日もあれば船を用意できるわ」

「お願いします」


 ふぅ、これでなんとかなりそうだな。 

 それじゃあ、俺たちは今後の戦いに向けて準備をしよう。

 皆が解散しようとした、その時だった。


「あのっ!」


 声をあげたのはミーナだった。


「邪神と……戦わないとダメなんでしょうか?」

「ミーナ、何言ってるんだ、邪神のせいでミーナがどれだけ苦しんだのか」

「それはもういいんです。済んだことです。それより、今は私達は平和に過ごしたらダメでしょうか?」


 とてもつらそうな表情でミーナが叫ぶ。


「ミーナはそれでいいのかい?」


 そう尋ねたのはサーシャだった。

 俺は記憶を失っているため、おそらくこの場で一番ミーナの苦しみを知っているのは彼女だろう。

 そのサーシャに、ミーナは、


「うん、私は戦いたくない。邪神なんて、私達の手におえる相手とは思えない。テイトさん言いましたよね、邪神は世界を面白くするために動いているって。世界を滅ぼそうとしているんじゃないんですよね。なら、無理に戦わなくてもいいんじゃないんですか?」

「……ミーナちゃん、すまない。僕はそれでもあいつに会わないといけない。あいつを生み出した存在として、あいつとは決着をつけないといけない」

「じゃあ、テイトさんだけで行ったらいいじゃないですか。タクトさんを巻き込まなくても」

「ミーナっ! 何を言ってるんだよ、一体どうしたって言うんだよ、そんなのいつものミーナらしく――」

「いつもと違うのはタクトさんです!」


 彼女は言い切った。


「タクトさんが戦う理由は、いつでも誰かを守るためでした。エルフの集落でも、魔法学園でも、魔領ここでも!

 今のタクトさんは私の知っているタクトさんじゃありません! 私の知ってるタクトさんは、私の知ってるタクトさんは……」


 彼女は目に涙を浮かべると、走り去った。


「ミーナっ!」


 俺はミーナを追いかけようとするが、その手をマリアに止められる。


「タクトくん、あなたの気持ちはわかる。でも今は追いかけたらダメ。私達に任せて」


 そう言い、マリアはサーシャ、シルフィーとともにミーナを追いかけた。

 俺はタクトじゃない……か。


 辛いな……なぁ、タクト。

 俺は……お前にはなれないのか?


「タクト……すまない、ミーナちゃんの言う通り、これは俺と奴との問題だ。お前を巻き込むつもりはない」

「いや、いいんだ。本音でいえば、ミーナたちにはここに残ってほしいんだ。付き合わないでいてほしい。これは俺の記憶を取り戻すため、俺のわがままでもあるんだから」

「記憶……記憶か」


 テイトは少し辛そうな表情になった。今でも俺の記憶継承をミーナに移したことを悔やんでいるのだろう。

 兄貴が悔やむことじゃないのに……とは言えないよな。

 ミーナの記憶を奪ったのは紛れもない兄貴なんだから。

 でも、俺はあまり気にしてないのにな。

 とりあえず、話題を変えようと思い、あたりを見回した。


「ところで、ナビ、骸骨将軍はどこに行ったんだ?」


 ナビの横で扇を仰いでいたはずの骸骨将軍がいなくなっていた。床に扇が落ちていた。

 まぁ、暑くもない部屋で意味もなく扇ぐのは、魔物でも辛いのかな。


「…………あとで怒っておきます」

「あ……あぁ、ほどほどにな」


 なぜだろう、今日一番ナビが怒っている気がした。

 骸骨将軍、すまない、話題変更のためとはいえお前は尊い犠牲になったようだ。 




   ※※※



「ミーナ……」


 お姉ちゃんが私の名前を、申し訳なさそうに呼びました。

 このトーンは、お姉ちゃんが私に秘密を打ち明けるときのものです。


「お姉ちゃん、私、わかってるよ。タクトさん……記憶がないの」

「お前、気付いてっ……あ、なし、いまのなし」


 私が鎌をかけたと思ったのか、お姉ちゃんは必死に否定した。


「ううん、本当に気付いてる。最初に話したときから。あ、このタクトさんは私の知ってるタクトさんじゃないってすぐにわかったの」

「……そう……なのか? なら、なんであんなことを……あれじゃあタクトも……」

「……わからない、本当にわからないの……なんで、私がこんなことを言ったのか。なんで私は……」


 私な泣きそうになった。

 タクトさんは私のために自分の記憶を犠牲にしたというのに、なんで私はあんなひどいことを言えるのか。

 なんでこんな気持ちになるのか。


「シルフィー達も一緒ですよ。今のタクトお兄ちゃんと一緒にいるのが辛いです」

「それは……」


 シルフィーの言葉に、お姉ちゃんが口籠った。お姉ちゃんもシルフィーと同じ気持ちなんだと思う。

 私も同じ気持ちだから。


「……みんなにも話しておかないといけないわね。ミラー先生に聞いたのは、邪神の居場所だけじゃないの」


 マリアさんは、とても辛そうに、話を始めました。





 それから、私達は三日間。悩むことになりました。

 邪神を倒しに行くのか、行かないのか。

 本当に、本当に悩むことになりました。


 そして、決意をしました。


 ただ、私は思います。

 私達が邪神を倒そうとすることを、タクトさんは望んでいないと。

 でも、これは私達のわがままです。 

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