2 蛸足
世界は四つの大陸に分かれている。東西南北、四方に存在する。
東大陸は、王都がその全域を支配している。
北大陸は、魔法学園やドワーフ、エルフの集落がある。
西大陸は、基本、全ての都市が独立している。多くの獣人族やノームといった種族が住むのもこの西大陸だ。
そして、南大陸は、魔族の住む大陸。魔王城だけでなく、四大陸の中で一番迷宮の数も多く、そのため冒険者も多い。
東大陸のコモルの港町からは南大陸への定期便は出ていないため、北大陸西に位置するヨークベルの港町から、一度西大陸のミーシピア港国に向かった。
ミーシピア港国という名前だが、一つの都市だ。
西大陸は全ての都市が独立しており、その規模に応じて、村、町、国と呼ばれる。
ミーシピア港国はその名の通り、港の国。西大陸の玄関口とも呼ばれ、この都市から多くの都市への乗合馬車が出ている。
「オセオン、マジルカ、サンドカライ方面の馬車、もうすぐ出るよぉ!」
声のした方を見ると、馬車が止まっていた。
幌には三十種類を超えるであろう広告の絵が描かれていた。動く広告塔となっている。商売熱心な馬車だ。
その広告の中に、「マジルカ名物・竜のお守り」と書かれた絵があった。
俺は首からぶら下げた竜のお守りを握った。
ミーナから貰ったものだ。
「待ってろよ、すぐに助けてやる」
そのためには、まずは南大陸に渡らないと。
だが――
「船が出ないっ!?」
俺は、南大陸行きの船着き場にいって船員に聞いてその事実を知った。
「どういうことですか?」
「いやぁ、困ったことになっててね」
四十歳くらいの船乗りが説明するには、今、西と南の航路の間に、クラーケンが大量発生しているという。
海の怪物、クラーケンか。
「それ、私達に退治させてもらえないかな?」
サーシャが尋ねた。
「おいおい、相手は海の怪物だぜ、武装した船が数隻がかりで倒すような相手だぞ」
「魔法の腕には自信がある。しかも3人いるから、複数のクラーケンに囲まれても対処できるぞ」
「いいや、ダメだ。客船っていうのは安全が第一だからな。あんたたちがたとえランクSの冒険者でもダメだ」
帰った帰った、と俺は追い返される。
くそっ、こんなところで足止めを食ってる場合じゃないのに。
ならば、他に――商船等に乗せてもらうしかない。
「みんな、手分けして、乗せてくれる船を探し――」
「師匠! 師匠じゃないですかっ!」
振り返ると、全く知らない人がそこにいた。
※※※
「いやぁ、私もまさか師匠とあんなところで会うとは思ってなかったよ、っと、勝手に師匠と呼んでますが、よろしいですかね?」
「あ、あぁ、別にそれはいいんですが――」
一体、この男が誰なのか、俺は聞けずにいた。
名前をザルマークといい、大きな帽子をかぶった40歳くらいの男だ。
見た目は旅人という感じだが、胸には似つかわしくない虹色に輝く鼈甲のブローチがつけられていた。
あの虹色に輝く鼈甲はどこかで見たことがある気がするが、どうも思い出せない。
「おい、ザルマークよぉ、そんなガキどもで本当に大丈夫なのか?」
「信じてくださいよ、本当に凄いんですから」
「お前は俺の弟子なのに、勝手に船乗りをやめて釣り人になったような奴だからな、いまいち信用できん」
船長の60歳くらいの男が訝し気に俺たちを見てきた。
「あぁ、大丈夫だ。師匠の雷魔法の使い手だ。クラーケンが出てきても1匹くらいなら退治できるさ」
ザルマークがまるで自分のことを言うかのように自慢げに言い切った。
「ところで、一緒にいたおさげ髪のお嬢さんはどちらに?」
「あぁ……ちょっとわけあって、今は別行動してるんだ」
俺がいうと、ザルマークは俺と一緒にいたサーシャたちを見て、話題を広げるのはまずいと思ったのだろう。
「まぁ、クラーケンが本当に出るとは限りませんから、師匠たちはゆっくり船室でお休みください。南の大陸に着くのは三日後になります」
「えぇ、そうさせてもらいます」
その後、俺はザルマークと少しだけ言葉を返し、みんなとともに船室に入った。
「三日か……」
北大陸から西大陸に渡るために五日かかっている。
この移動の時間がじれったい。
あの女の移動法は、瞬間移動であろうことは予想がつけられた。本来、別の大陸に移動することのできない瞬間移動。
だが、あの女は空を飛べる。大陸の領域の境目付近の上空へ瞬間移動で飛び境界を越えて再度瞬間移動を使って移動したのだろう。
そうでなければ、一時間で南大陸まで移動することなどできるはずがない。
もちろん、あの女の使えると思われる瞬間移動が俺の瞬間移動と同質のものであるなら、の話だが。
だが、時間が必要なのもまた事実だ。
俺は指にはめたつながりの指輪。そして、もう一つ。どくろの紋章の入った指輪を見つめる。
「すまない、一人にしてくれ」
「本当にするの?」
マリアが尋ねた。
「あぁ、あいつを倒すには、この訓練は絶対に不可欠だからな」
「タクトお兄ちゃん、今度はシルフィーたちみんなで戦います。無理をしなくても」
「いや、させてくれ。無理はできるだけしないからさ」
俺はそういい、奥の部屋へと入っていく。
そして、自分に回復魔法を唱え続けた。
翌日、甲板で船員が戦闘準備に入っていた。
海の怪物、クラーケンが現れたのだ。しかも、5体もいる。
「ぐっ、なんて数だ、反転! すぐに引き返せ!」
船長が船員に支持を出すが、
「そのまま進んでくれ、マリア、シルフィー、ナビ、行くぞ」
「わかったわ」「わかりました」「了解しました」
俺達が船首へと向かう。
「私は出番なしね」
サーシャは少しつまらなさそうに呟いた。
船首から見たクラーケン、その姿はイカというよりは緑色の巨大ダコだ。
「おい、見ろ、数がどんどん増えていきやがる、ダメだ、反転を――」
「サンダーポイント!」
俺が唱えた雷魔法が、世界を貫いた。
クラーケン一体を打ち抜き、それだけでなく周りにいたクラーケンごと消滅させる。
ぐっ……同時に激しい痛みが体を走り抜ける。
【呪詛耐性レベルがあがった】
これで呪詛耐性レベルは23になった。
俺がつけている髑髏の指輪。魔茨の指輪といい、いわゆる呪われたアイテムだ。ドワーフの長老から借りている。
魔法を使うとその威力はあがるが、消費するMPが倍に増え、さらにそのMPに応じて使用者に痛みを与える。
MP消費1/2のボーナス特典があることに加え、下級魔法でこの痛みだ。上級魔法を使えば意識を保てないだろう。
「なんて威力だ――」
船員の一人がぽつりとつぶやいた。
「ゴッドブレス!」「サンダーサークル!」
シルフィーの風魔法が少し離れたクラーケンを風の圧力で潰し、ナビの雷魔法がクラーケンを焦がし、マリアは拳銃で的確にクラーケンを撃ちぬいていく。
倒されたクラーケンは、一体につき数百枚というカードに変わった。
船長から聞いていたな、クラーケンは1体倒したらタコ足が100枚は出ると。
5倍だから、1匹につき500枚のカードになるのか。
「すげぇ……おい、ザルマーク、すごいぞ、お前の師匠」
「え、あ、あぁ、私もまさかここまで凄いとは――サンダーポイントの威力もあの時とはまるで――」
「サンダーポイント」
三度目となるサンダーポイントによって、クラーケンの大半は消滅したかに思われた。
「船長、横からももう一体が、すぐそこに!」
「よっしゃ、私の出番だね。あんた達、この縄を持ってて。私の命綱だからさ」
サーシャは自分に縄を結び付け、船の端に立つと、大きく跳躍した。
サーシャを敵とみなしたクラーケンが触手を伸ばす。
が、サーシャはその触手を剣で切り裂いていき、触手をつかんで体勢を変え、クラーケンの頭の上に着地すると同時に剣をつきつけた。
「よし、引き上げて!」
サーシャが縄をくいくいと引くと同時に、彼女の足元のクラーケンがカードへと変わった。サーシャは海の中に落ちたが、命綱はしっかりと繋がっている。あっちは大丈夫そうだ。
海の怪物、クラーケンはこうして瞬殺された。
「すげぇ……、おい、お前ら、カードを集めるんだ」
「はい、船長」
船長の命令で、クラーケンが落とした数千枚のカードが次々に回収されていく。
「いやぁ、濡れた濡れた……はい、お土産」
甲板に戻ったサーシャがカードを3枚、俺に渡した。
3枚ともタコ足のカードだ。
そうか、学園のたこ焼きのタコはこうして取れたのかな。
ミーナに食べさせてもらったたこ焼きを思い出しながら、タコ足を収納する。
船は南大陸へと進み続ける。
ザルマークは、1章の釣果という話に出てきたおっさんです。
忘れた人のために。




