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21 将軍

 意識を取り戻したとき、横にミーナが倒れていることに気付いた。MPを使い果たして気を失ったのだろう。

 俺の方が先に意識を取り戻したのは、MP回復速度の差か。

 そして、前にはナビがいる。MPの残量がないのか、全く動いていない。

 俺はうつ伏せに倒れたまま周囲を見回した。

 ドラゴンゾンビの姿は見当たらない。


「今度こそ倒したよな」

「117秒前、魔竜の消滅を確認しています」


 突如聞こえたナビの声に俺はドキッとした。全く動いていないのに急に声をかけるなよ。 


「ナビ、動けたのか」

「答えは否です。MPの残量は0%のため、予備魔力に切り替わっています。会話はできますが、動くことはできません」

「そうか、とにかく無事でよかった」


 俺は安堵し、空を見上げた。

 決死の一撃による消費MPは10倍、もしも足りない場合は全てのMPを吸い尽くして、その消費量に応じた威力の攻撃をする。

 魔道具でも使えるかどうかは賭けであったが、そこはできると思っていた。

 銃スキルのレベルが上がったら銃の威力が上がるみたいに、武器の威力というものは使い手によって大きく左右される。そのため、魔道具も例外ではないと思っていた。


「これで一安心だな」


 吐息を漏らして呟く。


「その答えも否です。現状は非常に危ない状態です」

「何を言っているんだ? ドラゴンゾンビが消滅したってお前が――」


 そう言ったとき、俺は気付いた。

 先ほどまではドラゴンゾンビの巨大な力のせいで気付くことができなかったが、今は索敵スキルが反応した。

 発表会の建物の中からその気配がした。

 そのまま何も出てこないでくれ、せめて立ち上がれるくらいまでMPが回復できたら、歩いてMPが回復ができる。

 だが、その願いも虚しく、建物の中から、剣を持った茶色い骨人形が現れた。


「なんでだ、結界が消滅したのなら……あいつらも動けないんじゃなかったのか?」

「普通の人形はそうです。ですが――」


 ナビが言う前に、その骨人形が口を開いた。


『わしだからの。全く、まさか最後に自分に殺されるとは思いもよらなんだ』


 その口調、そして、自分に殺されたという言葉から、そいつの正体はすぐにわかった。


「お前、ミラーか!」

『ミラー教授だったもの、と言ってほしいの。流石にこの雑兵とも変わらぬ姿がワシだとは思いたくない』


 ミラーは顎骨をカタカタ鳴らして笑った。


『まぁ、今のワシじゃとこれが限界じゃ』


 ミラーが剣を手にして俺に近づいてきた。


「そこまでして俺を殺したいのか?」

『坊主を殺したいのではない。ただ、わしが、わしの研究が間違っていなかったことを証明する。それだけじゃ』

「そんな姿になっても、お前の研究が正しかったと思うのか?」

『あぁ、誰もが知ったはずだ。ホムンクルスの軍事的利用法を。世界が変わる可能性を』

「人に変わって骨が戦う戦争か……はは、くだらないな」

『くだらないだと? もう人間は戦わなくていいんだぞ。それが後のどれだけの人を救うことになるか』

「その利用のために病院で罪もない生徒がMPを吸い取られたんだろ? 何が人を救うだ」


 手を地面につき、起き上がろうとしたが体が言うことを聞かない。

 だが、手と口が動く程度の力があるのなら、


「ナビ、後は頼む」

「マスター、何を言っているのですか?」


 俺は右手を前にだし、カードを一枚取り出した。


「具現化!」


 そう叫ぶと、カードが姿を変えた。今日何度も俺を助けてくれた巨大な鷲、ロックコンドルが現れた。


「頼む、ナビとミーナを連れて学園の正門まで逃げてくれ」


 俺がそういうと、ロックコンドルは「くえぇぇぇ」と鳴いてナビとミーナを鷲掴みにした。


「マスター、ナビは自律人形なので失われる命はありません。すぐにロックコンドルへの命令の変更を要求します」

「ナビ、すまん」


 俺がそう言うと、ロックコンドルは二人を掴んで大空へと舞って行った。


『一緒に逃げないのか?』


 ミラーが去りゆくロックコンドルを見ながら俺に尋ねた。


「試したこともあるが、三人だとあいつは空を飛べないんだ」


 力持ちのイメージのあるロックコンドルだけれども、鳥はもともと軽いから飛べる生物だ。二人の人間を運べるだけでも驚きのことだ。


『なるほどのぉ……自分を犠牲にして仲間を救う、勇者とでも呼べばよいかの?』

「はは、一番縁遠いよ。俺はただの卑怯者さ」


 そう言って、俺はカードを一枚取り出して、具現化した。

 動く骨剣。

 ミラーの持っていた剣を今度は俺が投げつけた。


『ふん、これだけか!』


 ミラーはその剣を受け止めると、己の体に取り込んでいく。


『これはわしが作ったものじゃ。このくらいできるわ』

「はぁ、やっぱりダメか」

『……卑怯者か……もしも坊主が根っからの卑怯者なら、もっと楽に生きられたと思うがの』

「意外と楽なんだぜ? 正しいと信じているもののために戦うっていうのもよ。少なくともあんたみたいな生き方は俺には苦痛だな」


 俺は笑いながら、それでも何か打開するチャンスがないかとあたりを見回す。

 すると、ミラーとそっくりの骨が後ろから走ってきていた。


「おい、ミラー、あんたのお仲間が後ろからやってきたみたいだぞ」

『なんじゃと?』


 ミラーが振り向いた瞬間、一体の骸骨兵が跳躍し、俺とミラーの間に割って入ると彼の持っていた剣を払った。


『バカな、骸骨兵が地上に出てきて、しかも坊主を守ったじゃと!?』


 剣を失ったミラーはその場に倒れ、自分に刃を向ける存在を見据えた。


「ただの骸骨兵じゃないぞ。何しろ、数百体の骨人形と20体の骸骨兵のバトルロイヤルの生き残りだからな。しかもボーナス特典で強さ2倍なんだぜ、そいつ」


 さらに、魔物使いのスキルのおかげで実際の強さは3倍近くになっていてもおかしくない。ミラーの家の前で置いてきた骸骨兵が、まさか生き残っていて、ここまで獲物を求めてやってくるとは、本当にチートだ。

 離れた場所で戦っていたため、魔物使いスキルが上がっていなかったのですっかり忘れていた。激戦だったのは間違いないだろう。


「ご苦労だったな、骸骨兵。俺がお前に勲章を授けたいよ。お前は今日から骸骨将軍だ」


 俺がそう言うと、骸骨兵は理解しているのかしていないのかわからないが頷いて、最初に与えられた命令を果たすべく、剣を振り上げた。


 こうして、リューラ魔法学園全体を巻き込んだ大騒動は一体の骸骨兵、いや、骸骨将軍の活躍によって終わりを迎えた。


   ※※※


 翌日、俺達を代表して、戦いの終わりを祝う式典に参加した英雄がいた。

 檀上に立った彼のあばら骨には将軍の階級を示す金色の勲章がつけられていたという。

 そして、俺たちは、とにかくその日は疲れていたので休ませてもらった。

長かった戦いも終わり、あと少しで3章も終わりです。

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