22 絶望
俺の生み出した炎の領域が、神を飲み込むが、その炎から飛び出す影を見て、舌打ちをする。
スキルがないとはいえ、オリハルコンの鎧の防御力は伊達じゃないようだ。
だが――
「自慢の髪が少し焦げちまったんじゃないか?」
俺が挑発するようにそう言うと、神は苦虫を噛み潰したようにこちらを見てきた。
「貴様、一体何をした!」
「言っただろ、ここは既に邪神――いや、キーシステムの領域だ。お前にできたことをあいつができない道理はない」
「何をバカな。彼奴はただの異界の機械仕掛け。余が一部権限を与えたとはいえ、生命ですらない。神である余と同じことができるわけないだろうが」
忌々し気に呟くが、スキルが使えないのは事実だろうからな。
俺が仕掛けた仕掛けに気付かない以上、こいつはスキルが使えない。
「弓隊、撃て!」
シファの号令により、魔族達が放った矢が神へと降り注ぐ。
神は鎧の小手でその矢を受け止めるが、それでも防ぎきれない。
矢尻が神の頬を掠め、一筋の傷を作る。
「余の顔に……傷が。許さん!」
「いや、それ俺の身体なんだけどな」
「ファイヤーボール! ……ぐっ、低級魔法も使えぬのか……」
炎の球が出てこない自分の手を見つめ、視線を指へと移した。
しまった、気付かれる。
その前に神を殺そうと、俺は破邪の斧を振り下ろした。
だが、神はニヤリと笑い、指輪を外し、「サンダーストーム!」と魔法を唱えた。
直後、神の周囲に雷が無差別に降り注いだ。
「タクトさん、どうなってるんですか?」
「思ったより気付かれるのが早かった」
ミーナの問いに、俺はそう答えた。
「種はこれか。全く、余としたことが、こんな初歩的なことに気付かぬとは」
神は、自分の指にはまっていた繋がりの指輪を握りつぶした。
「悪い、さっきミーナから摺り取ったんだ」
「え?」
俺はそう言って、自分の指にはめていた繋がりの指輪をミーナに返した。
神がさっきまでつけていた赤い指輪とミーナ達がつけている青い指輪は一緒にはめると仲間になる。
そして、俺は神と仲間になることで、手動で神が持つスキルを全て外した。
キーシステムの力で神のスキルを封印したなんて真っ赤なウソだ。
「余に気付かれずに仲間の指輪をつけるとは、さてはタクト、貴様盗賊のスキルレベルを上げたな」
そこまで見抜かれているとは、俺は内心舌打ちをする。
かつて山賊のアジトで手に入れてから死にスキルだったが、この作戦を思いついてから、シファに手伝ってもらってレベルを上げまくった。素早さの高い相手に物を盗むと経験値が高いらしく、比較的楽にレベルを上げて、今では56まで上がってる。
それでも、器用さがメインで上がって、あとは速度が微増するくらい、それ以外のステータスは上がらないので、今はつけていないが。
「……余に傷をつける奇策、褒めて遣わす。永遠を生きる身で、これほど楽しい時間を過ごしたのは初めてだった」
「おいおい、勝ち誇っていいのか? 言っちゃなんだけど、俺の作戦はまだまだあるんだぜ?」
「そうか。なら作戦が発動するまえに終わらせるか」
神はそう言うと、両手を腕に上げた。
神の手の上に雷が集まっていく感じがする。
サンダーストーム……いや、あれはただのサンダーストームじゃない!
「みんな、すぐに避難しろ!」
「遅い! サンダーストーム!」
俺にとっても、そして俺の身体を使う神にとっても一度きりの切り札。
決死の一撃……魔法に対して使えばMPの消費を10倍に、そしてその威力を10倍にする。
雷は、周囲神の降り注ぎ、岩を穿ち、魔族達を焦がす。
雷魔法は全ての魔法の中で一番速く、その速度は秒速百キロメートル以上にもなる。当然、俺を含めて躱せる人間など一人もいない。
僅か数秒の間続いた轟音が止まったとき、立っているものは神だけだった。
範囲も10倍になったことで、その被害は甚大だ。
「ほぉ……タクトだけかと思ったが、何人かまだ生きておるか。といっても、まともに動けるものはいないだろうが」
神は勝ち誇るように笑い、そして俺に向かって言う。
「タクト、ここまで余を楽しませるとは大儀であった。褒めて遣わす」
「なら、このままおひねり代わりにこのまま退場してくれないか?」
「うむ、余の雷を浴びてそこまで喋れるとは。回復魔法を使われる前に殺す。そして、余を楽しませてくれた礼だが――主の愛する女もすぐにあの世に送ってやろう。まぁ、神である余ですら、あの世と呼ばれる世界があるのかどうかはわからぬがな」
神はそう言って、俺が落とした破邪の斧を拾った。
その時だった――
神の後ろに突如として兄貴が現れた。そして、神の身体を羽交い絞めにする。
「スメラギテイト……瞬間移動か」
「あぁ、ゴウから貸して貰っているんだ。この時のために。戦闘中には使えない瞬間移動も、戦闘圏外から戦闘圏内には跳べるからな」
「何をするつもりだ?」
「神よ、お前の強さはタクトの力。その力の一番の元は、スキルスロット最大のボーナス特典だ。ならば、そのボーナス特典を俺に移譲する。ゲームマスターの力を使ってな。この世界の神はお前だろうが、ゲームの中ではゲームマスターが神なんだよ!」
兄貴はそう言って力をさらに加えた。
「これでお前の力は1/4になる。ボーナス特典転移!」
兄貴が叫んだ――が、神は冷めた表情のまま語った。
「テイトよ。それを思いついたのなら、余が余になる前に試すべきだった。もっとも――」
神はにやりと笑い、「アイスニードル」と氷の魔法を唱える。
神の手から生み出された氷の槍が兄貴の腹を貫いた。
「余が主の能力をそのままにしておくわけがないであろう。主の力はとっくの昔に消去している」
「がはっ……タク……ト……シファ……すま……い」
兄貴は呟くようにそう言って、崩れ落ちた。
「これでもう終わりだな」
血を吐いて倒れる兄貴を見る。兄貴の向こうでは、シファが苦悶の表情を浮かべていて、ナビがなんとか起き上がろうとしている。ミーナ達は気を失っていて――このままここで戦いを続けたら被害が増えるだけだ。
ならば――と俺は手を伸ばす。
ナビ、みんなの治療を頼む。
神が戦いは終わったと思っているなら、使えるかもしれない。
そんな望みとともに、俺は手を伸ばし、神の足を掴んで叫んだ。
「瞬間移動!」
突如、世界が闇に染まった。
残り3話。




