14 裏側
ミーナが眠っていた部屋に向かうと、サーシャ、マリア、シルフィーが扉の外で中の様子を窺っていた。
「タクトのやつ、うまくやってるかね?」
「……タクトお兄ちゃんはどこか抜けていますからね。心配です」
「抜けてるのは記憶だけどね」
あぁ、どうやら、偽物の俺は記憶喪失を隠してミーナと接しているのか。
俺が料理を持って近づくと、
「あ、料理か……あんたも大変だね」
サーシャが扉の前からどいて、俺を通してくれた。当然、俺だとは気付いてないだろうな。
あぁ、本当に大変だよ。
「このジャージも本望だろうさ」
声が聞こえてきた。
……この声は、もしかして俺の声か?
へぇ、他人から聞こえる声ってこんな声なのか。自分の声なんてまともに聞いたことなかったから。
だが、それよりも、なんだ?
このジャージも本望?
俺はトレイを片手で持ち、扉をノックした。
そして、入ると、ボロボロになった火鼠の皮衣を持っていた俺がいた。
「骸骨将軍……あぁ、食事か、ありがとうな」
タクトは俺から料理の乗ったトレイを受け取ると、代わりにボロボロのジャージを渡してきた。
……あぁ、こいつも頑張ったよな。
シファとの戦いだけじゃなく、ミーナから溢れた邪神……キーシステムの力による魔力嵐のせいでズタボロになっていた。
「あぁ、骸骨将軍、頼みがある。これは俺が大事にしていたジャージなんだが、お前に供養してもらいたい」
「供養……?」
「傍に置いていてもミーナが苦しい顔をするだけなら、そうするのが一番だろ?」
「そんな……私は苦しくなんか」
なんて二人が言っているが、は? ふざけるなよ。
やっぱり偽物だな。これはまだまだ着れるじゃないか。
待ってろ、俺が証明してやる!
ちょうどジャージがなくて落ち着かなかったんだ。
「ってお前が着るのかよ!」
タクトがツッコミをいれてきたが、そりゃ着るよ。ジャージだもん。
ウエストがかなり緩く、ゴムだけじゃずり落ちるので、ヒモでくくっておく。
骨に直接ジャージの感触が伝わってくるな、はは、こりゃいいや。
「ははは、ミーナのおかげでジャージ信者が増えたな」
タクトが笑うと、ミーナもつられて笑った。
「とても似合っていますよ、骸骨将軍さん」
「だな、やっぱりジャージは使われてこそのジャージだな」
当たり前だ。ジャージは着てこそジャージだ。
ミーナのベッドの横に裁縫道具が置いてあったので、俺はそれを取ってとりあえず目立つ穴を縫うことにした。
「でも、不思議ですよね、私から邪神の気配が消えたなんて」
不思議なんてものじゃない。
はなから、キーシステムはミーナの身体を乗っ取るつもりはなかったそうだ。
俺の記憶を失わせ、それを神に乗っ取らせるための手段の一つだったらしい。
「それに、タクトさんの記憶が無くなってないなんて思いませんでした」
「俺がミーナのことを忘れるはずないだろ?」
「そう言ってもらえてとてもうれしいです」
「じゃあ、俺は用事があるから行くけど、しっかり食事を食べるんだぞ……あと、骸骨将軍は適当に追い出してくれ」
そういって、タクトは部屋を去って行った。
偽物だけど、ミーナのことは大事に思ってるんだな。
ミーナも、あのタクトのことを本物の俺だと思ってるから、扉をじっと見つめている。
……え?
ミーナの目から涙がこぼれた。
「気付かないわけ……ないじゃないですか」
ミーナがぽつりとつぶやく。
もしかして、あれが偽物だと気付いた?
いや、違う。
あのタクトが記憶がないことに気付いていたんだ。
だからミーナは泣いているのか。
くそっ……なんで俺は骸骨の姿をしてるんだよ。
本当ならいますぐ抱きしめてあげたいのに。
……すまない、ミーナ。せめてこれで涙をぬぐってくれ。
俺はそういう思いで、ベッドの脇においてあった清潔そうなタオルを渡した。
「え?」
ミーナは驚いてそのタオルを見つめると、笑顔で、
「ありがとうございます」
と礼を言ってくれた。
俺は敬礼をすると、裁縫道具を持って出て行った。
その後、ジャージを着て城をうろついているところを、キーシステムの元から戻ってきたナビに見つかり、かなり怒られてしまった。
目立つ行動をするなと、割と本気で怒られてしまった。




