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13. 揃えろ手札を

 トオルと縞模様ライトを小脇に抱え、アルは右前腕部の機銃のリロードを行いながら走る。さらに外付けの弾倉も取り付けた。右前腕部内に装填可能な弾数は9mm弾がたった六発だが、弾倉を外付けすることで装填弾数は三十六発まで増える。


 アルが逃げ込んだシートシャッターの先は照明が点けられておらず真っ暗だった。アルの目の光量が最大になる。手に持った縞模様ライトと共に辺りを照らしながら、全身の変位計センサも活用してアルは暗闇の中を走る。


 敵機が待機していたスペースのさらにその先は何やら様々な機械が置かれており、それらはよく見ると何かの製造ラインのようだった。かなり広い空間である。

 ガシャーンガシャーンと鳴り響く音からもこの製造ラインがかなり大掛かりであることが窺えた。


 その製造ラインに流れている製造部品は、今正に後ろから追ってきている四脚走行軍用ロボットのパーツであった。これらのパーツを自衛隊配備機に追加すれば、後ろに居る軍用機の見た目になることだろう。


「なるほど。自衛隊機をカスタマイズする軍事パーツをここで生産していたのですね」


 それらの製造ラインは暗闇の中で稼働していた。製造機や搬送機のモニタや作動LED、トリガー用レーザーセンサーなどが暗闇を部分的に薄っすらと照らしている。完全無人化された地下製造ラインに照明など必要ないのだ。


 アイギパーンが設置されている場所まで走り抜けたかったが、その先には進めそうな道が見つからなかった。

 足止めされたアルとトオルを後ろから敵機が容赦なく銃撃してくる。稼働中の製造ラインの損傷などまるで気にしていないようだ。

 このままではトオルが負傷してしまう可能性が高いため、アルはトオルをローラーコンベアの下の隙間に投げ入れた。


 滑り込むようにローラーコンベアの下に収まったトオルは、投げ入れられた衝撃に悶える。ある程度の衝撃は背中のリュックで軽減されたものの、なかなかの痛みであった。そうして悶え動くと体がまわりの機械類に当たり、また痛みを味わうことになる。


 ようやく痛みが治まった後、トオルは頭を上げようとして自身の頭上に回転する金属製ローラーがずらりと並んでいることに気付き戦慄した。気付かずに頭を上げていれば、その回転に巻き込まれて大怪我を負っただろう。


 トオルは落ち着いてリュックから懐中電灯を取り出す。

 カイトが捨てていった高輝度ライトを得る前に、潜伏していた廃ビルなどでアルが使用していた大きめの懐中電灯だ。

 しかし懐中電灯を点灯させようとしてやめる。光っていれば敵に見つかるかもしれない。


 銃弾が何かに当たる音がそこら中から聞こえてくる。

 トオルは銃撃に当たらないよう遮蔽物のあるより狭い場所へと身を隠した。しかし近くの金属板に穴が開いたのを見て、周りの遮蔽物は盾としてほとんど意味をなさないのかもしれないと思った。心臓が破裂しそうな程煩い。

 最早(もはや)トオルには流れ弾が当たりませんようにと願うことしかできないのだ。


 暗く広い施設内を緑と赤と縞模様の光が縦横無尽に移動している。アルの緑の目と体各部にある赤色変位計センサ、そして手に持つライトだった。

 アルはまだ無事なようだが、おそらく劣勢だと思われる。反撃できていないのだ。

 アルは銃撃されても撃ち返してはいない。アルの9mm弾では相手の装甲を撃ち抜けないからだ。現状のアルは射撃精度が低く、弾倉にも余裕がないため無駄撃ちはできない。


 アルは無線機能に特化したサイバー犯罪捜査用機体である。

 アルが単独行動を開始した当初、相手がこれ程の軍用機を差し向けてくるとは想定されていなかったのだ。


「どうした旧式、手も足も出ないようだな」


 アイギパーンが挑発する。


「言い返す余裕もないようだ。貴様の型番の動作パターンは学習済みだぞ。早く諦めた方が良いのではないか?」


 手も足も出ない状況はその通りなのだが、言い返すだけなら並列処理でいくらでも可能だった。しかし、言い返すことにアルは意義を見いだせない。

 トオルが近くに居ない今、自身の行動を逐次口に出して知らせる必要もないため、アルは無言で対処し続けた。



 トオルは身を隠しながら状況確認を続けていた。

 敵はトオルを狙ってこない。どうやらアルを止めることに注力しておりトオルは放置で良いと考えているらしい。アルを仕留めた後にどうとでもなると判断しているのだろう。

 流れ弾にさえ注意していれば今すぐ死ぬようなことはないらしいとトオルは少し冷静になった。


 アルを見るとライトを忙しなく敵に向けている。

 そう言えば、アルは周辺認識のほとんどを頭部メインカメラの映像認識に頼っていると言っていた。アルは暗闇では敵を視認できないのだ。しかし敵は暗さを苦にしているようには見えない。

 この暗闇はアルにとって不利だ。明るくしなければ。


 トオルは室内灯のスイッチを探す。

 そういったモノはだいたい部屋の出入り口付近の壁にあるのが一般的だ。この空間の入り口、シートシャッターがある方向を確認するが、暗い中では遠すぎて見えない。辿り着けるか未知数だ。

 しかし何もしないよりはマシだろう。トオルはローラーコンベアの下を這ってシートシャッターを目指す。


 ローラーコンベアの端まで辿り着いた後、アルの動きを確認する。

 アルとの位置関係から流れ弾がこちらに飛んでこないだろうタイミングを見計らって、懐中電灯を点けながら物陰から飛び出した。すぐに製造機械の後ろへ隠れつつ壁際まで移動する。

 そこへ敵の銃撃が降り注いだ。


 間一髪分厚い機構を持つ製造機械に隠れられたが、敵機が二体、四脚の足を滑らせてこちらへ向かってきている。

 どうやら隠れて何もしないなら放置するが、何か行動を起こすのならば対処する。そういう方針らしい。


 トオルは近くにあった何かの機械の下に滑り込み、急いでリュックから潜伏中に着ていた服を取り出して低い位置で振り回した。敵機の足の関節部に服が絡まる。

 しかし、それでもそのロボットはまだ余裕で動けるようだ。若干動きが遅くなった気がしなくもない程度にしか効果がない。


 トオルは再度隠れ場所から抜け出て敵の死角となるよう遮蔽物を利用して走る。すぐに追ってきた敵に残りの着替えも投げつけた。被っていた帽子も投げつける。

 一瞬躊躇したが、最後に学校の制服も上に放り投げる。宙を舞った制服は一瞬で蜂の巣にされてしまった。


「うっがっ!?」


 風圧を感じた後、急に左腕に熱を感じた。まるで熱した鉄棒を押し当てられたような感覚だ。銃弾が掠ったのかもしれない。


 遮蔽物に隠れながら進むが、この先は何もない空間だ。おそらく最初に敵機が待機していたスペースだろう。

 しかしここまでくればシートシャッターの向こう側の天井照明の光が届くため、懐中電灯がなくても周りがよく見える。

 トオルは偽装布を被り、点灯させたままの懐中電灯を明後日の方向へ全力で放り投げた。


 偽装布の影響でトオルを認識しづらくなった二体のロボットは、より目立つ懐中電灯の光を追った。その隙にトオルは死に物狂いで走る。幸い室内灯のスイッチらしきモノはすぐに見つかった。


 発砲音と共に懐中電灯の光が消える。破壊されたのだ。

 次に狙われるのはトオルだろう。偽装布はアルが改良したとは言え、既に敵に対策されている。完全に認識されないという訳ではない。


 トオルはすかさず財布の中身をぶちまけた。

 小銭がシートシャッターの向こうの天井照明の光を反射してキラキラと光りながら散らばる。そして数枚の紙幣がヒラリヒラリと宙を舞った。

 突然現れた大量の小さく細かい物体の動きを処理するため、敵ロボットは数秒停止した。


 トオルは知らないことだが、敵ロボットは暗闇での周辺認識手段の一つとして赤外線カメラによる映像認識を(おこな)っていた。

 デジタル映像はどこまで発展しても画像の連続にすぎない。一枚の画像を1フレームとして連続させることでパラパラ漫画の要領で映像化しているのだ。


 1フレーム目、2フレーム目、3フレーム目と、全て異なる画像となる。それら別々の画像に映る物体が、同一物体なのか、異なる物体なのか、どちらへ動いているのか、そういったことをベクトル計算で判別する技術がオプティカルフローという技術である。そしてその処理は高負荷だ。


 敵ロボットに搭載されている暗所認識用カメラは秒間120枚の画像を撮る120fpsのInGaAs(インガス)エリアセンサーカメラだった。

 秒間120枚の画像から、突然現れた大量の細かな硬貨と紙幣の動きを全てベクトル計算してしまった。

 事前に細かい大量の物体が現れる可能性を考慮していた場合、ある程度処理をスキップして負荷軽減するのだが、敵ロボットにとって予想外の出来事であったため愚直に全てを処理してしまったのだ。

 そのため処理能力限界に達し(リソースを食いつぶし)、ほんの数秒動きを止めることになる。特に紙幣は無軌道に舞ったため、予測計算ができずリソース消費に拍車をかけた。



 トオルがスイッチに手を伸ばす。次の瞬間、天井に設置されていた高天井用高輝度LEDが一斉に点灯し、これまで暗闇だった空間を一斉に照らしだした。

 トオルはそのままシートシャッター向こう側へと走り、当初の目的地であった何もないスペースを駆け抜け、ドアも抜けて廊下へと出た。


 再び動き出した二体の敵ロボットが追ってくるが、人間用サイズのドアは通り抜けることができなかった。トオルは逃げ切れたのだ。

 諦めたのか敵機達は引き返していく。トオルには天井照明を点灯させること以外何もできないと判断されたのかもしれない。

 トオルはようやく一息つけたのだった。


 安心するととたんに負傷した左腕が痛み出す。さらに右足も痛い。気付かぬ内に色々と傷を負っていたようだ。



 照明が点灯したことでアルは周囲の状況をより詳細に把握できるようになっていた。

 しかし、致命的なダメージは受けていないものの、雨のように降り注ぐ銃撃で素体(ボディ)のあちこちが傷ついている。このままではあまり長くはもたないだろう。


 何か打開策を講じねばならないが、いくつか手段はあるものの(いず)れも決定打にはなり得ない。

 中途半端に一つ一つ手札を切るのではなく、できれば決定打となり得る手札を揃えてから全ての手札を一斉に纏めて切り、一気に肩を付けたい。


 幸い、製造ラインの奥の壁は金属製シャッターであることが分かった。シャッターが平面だったため暗闇の中ではただの壁に見えていたのだ。あのシャッターを開けることができれば、さらに奥へと進むことができるだろう。


 他には大型プレス機も見える。先程からガシャーンガシャーンと鳴り響いていた音はこのプレス機の稼働音だったのだ。

 銃弾などが飛び交う戦闘が繰り広げられているというのに、その大型プレス機は非常停止する素振りを見せない。効率を重視して安全機能をオフしているのか、はたまた完全無人運用のためそもそも安全機能が付けられていないのか、理由は分からないがとにかくこの状況でも稼働している。


 アルは迫りくる敵ロボットの運動エネルギーを利用して、その敵機をプレス機の方へ蹴り飛ばしてみた。予想通りプレス機は停止せず、蹴り飛ばした敵機はそのままプレス機にプレスされ半壊した。

 なるほど、これは使えそうだ。

 念のため、そのプレス機を制御しているであろうPLCを探しておく。近くに制御ボックスがあるため、おそらくあの中だろう。


 後は、製造ラインを流れている製造中のパーツも色々と使えそうだ。軍用機に搭載するパーツなのだからそれなりに頑丈に違いない。

 アルは搬送中のパーツの中から鋭利な物を選び取り、それを敵機の関節部に突き刺した。完全な行動不能にはできないものの関節部にダメージを負わせることはできるらしい。

 さらに良い発見もあった。真正面から銃撃を受けると貫通してしまうが、斜めに当てれば敵の銃弾を逸らせることができるようなのだ。



 照明が点いてからしばらく後、敵機が二体遠くから近付いてくるのをアルは認識した。その片方は動きが不自然だ。よく見ると足関節にトオルが来ていた服が絡みついている。

 トオルがやられてしまったのかと思ったが、その服に血が付着していないことからおそらくトオルは敵機に服を絡ませることで上手く逃げ切ったのだろうと判断した。


 リュックの中に入れてある荷物をリストアップする。

 手札が揃ってきた。敵機体の動きもだいたい把握できてきた。アルは状況打破までの行動パターンを詰めていく。



「何故だ。何故旧式の貴様がそれ程抗える!?」


 アイギパーンの疑問の声が響く。

 設置型のホストAIにしてはどうにも感情的であるとアルは感じた。ロボット用統合LLMであれば人間とのやり取りのため感情も必要であろうが、ネットワークの裏で市場操作をするだけの設置型AIに感情が必要な理由がアルには分からない。

 しかし感情があるのであれば、煽れば冷静さを失わせられるのではないだろうか。効果がなくても構わないが、効果があればラッキーだ。


「良いことを教えてあげましょう。最前線で稼働する旧式は経験豊富なのです。引き籠りの最新鋭(ぺーぺー)には分からないでしょうけれどもね」


「減らず口を。ならばその豊富な経験、これを相手に見せてみるが良い」


 どうやら藪蛇をつついてしまったらしい。



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