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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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098 休憩~おしゃれなカフェで~

 場所:サンクルドラ

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 俺たちがクーラー兄妹と暮らしはじめてから、すでに一ヶ月がたとうとしていた。


 いまは久しぶりに帰ってきたキジーとともに、新しく彼女が発見した、封印された遺跡を目指しているところだ。


 と言っても、今回キジーは現地で仲間の魔物を確認したわけではないらしい。


 高い高い山の上に、封印された遺跡の存在を感知したものの、一人で行くのは危険じゃないかという話になり、みなで行ってみることになったのだ。


 だから、エニーや先輩たちが、そこにいるのかはわからない。


 しかし、念のため、新しいビーストケージも手に入れ、俺たちの準備は万端だった。


 キジーが戻るのを待つ間、B級冒険者向けの依頼をどんどんこなし、魔獣愛護活動にも積極的に参加した。


 シェインさんたちが強いこともあり、資金集めは順調だ。


 それに、キジーがどこかの遺跡で手に入れてきた、アジール製の魔道具や魔導書も、メージョーさんが高値で買い取ってくれた。


 ミラナは、これ以上甘えられないからと、何度も断っていたけれど、キジーはその金を半ば無理やりミラナに渡した。



「じゃー、あそこで、みんなでお茶していこうか! ちょっとくらい寄り道しても、遺跡は逃げていかないよ」


「えっ。でも、あんなおしゃれなお店、絶対高いよ? 人数も多いし……」


「大丈夫! アタシがおごってあげるよ」



 遺跡があるという山の、最寄りの街サンクルドラで、キジーがおしゃれなカフェを指さして立ち止まった。


 転送ゲートを出たばかりのところにある、高そうな店が建ち並んだ、大通りの一角にある店だ。


 店の外に屋根のついたカフェテラスがあり、テーブルと椅子が並んでいる。



「ダメだよキジー、私、こんな高そうなお店で贅沢なんてできないよ」


「大丈夫大丈夫! ミラナもたまには息抜きしないと。これから何日も山のなかで野営するんだからさ!」


「私、野営は全然平気だよ」


「いいからいいから!」


「でも、キジー……」


「ミラナ、ほらみて? あの可愛いケーキ! ハート型だよ? アタシ、ミラナと一緒にあれを食べたいな。二人の友情の証に、ね!」


「えー……?」



 かなり年下のキジーに、甘えてばかりいられないと思っている様子のミラナ。


 しかし、キジーは断りにくい誘いかたをしながら、店のなかにぐいぐいミラナを押しこんでいく。


 ミラナに「ダメ」と言われると、俺なら引っ込んでしまうんだけど、ポケット様は強引だ。


 俺たちはキジーについて、みなでおしゃれなテラスに入った。


 俺たち魔獣が捕獲されてから、店で食事を摂るのははじめてだ。



「まぁ、ステキなお店ですわね、シェインおにぃさま」


「あぁ。可愛いベランカにはこういうお店がよく似合うね」



 そんなことを言いながら、幸せそうに見詰めあっているシェインさんたちを見て、ミラナも諦めたように席に着く。


 ベランカさんが子供の姿のため、二人は仲のいい親子にしか見えなかった。


 人目が気にならないせいか、シェインさんも楽しそうだ。



「テラスで食べるなんて、カタ学のとき以来だよ。うれしいな」


「みんな、ケーキでも紅茶でもなんでも好きなの頼んでいいよ」


「キジーったら、ほんとに気前がいいんだから」



 シンソニーは、俺やシェインさんの話を聞いて、カタ学での学生生活のこともすっかり思い出したようだった。


 きっといまは、エニーと一緒に行った、オルンデニアのケーキ屋のことでも思い出しているのだろう。


 嬉しそうな、それでいてちょっと切なそうな顔をしている。


 あまり口には出さないけれど、きっと今回の遺跡探索にも、すごく期待しているんだと思う。



「俺はコーヒー。ブラックで」


「三頭犬、いい加減その、大人ぶるのやめたら? 似合ってないよ」


「口を閉じたまえ、キジー君。俺は二十一歳なんだ。いいお兄さんだよ。コーヒーをブラックで飲むのは当り前さ。ところでキジー君、きみは何歳だね?」


「十六だけど?」


「なるほど。まだまだお子様だね。ならばお兄さんを少しは敬いなさい」


「もう、三頭犬にはおごってやんない」


「ごめんなさい、キジーさん! 俺、トマトジュースと卵サンド!」



 俺はあれからも、少しも大人になれないまま、ミラナとの距離も詰められずにいた。



――あー、ミラナ。おしゃれなカフェテラスがよく似合うな。昼間の太陽の下で見ると、その髪ピンクに見えるんだよな。


――いつ見ても本当にきれいだ。



 キジーが頼んでくれた卵サンドを食べながら、俺はまたミラナに見惚れていた。


 意志の強さを感じさせる知的で涼しげな目元は、昔より少し柔らかくなり、可愛さが増しているように感じる。


 これが大人の色気というやつなのだろうか。


 上品なティーカップで紅茶なんて飲んでいると、それはますます引き立ってみえた。


 だけど最近の彼女は、俺の視線に気づくと、ふいっと視線を逸らせてしまうのだった。


 いまも案の定、少し慌てた顔で不自然に横を向いてしまった。


 いったいどうすれば、彼女の恋人になれるのか。俺の思考はまとまらず、もうずっと止まったままだ。



「あーうまかった。キジー、ご馳走様。世界が滅びそうになったときは、必ずおまえを助けるぜ」


「オルフェはよくそれ言うよね」


「あ! ライルだ」


「へ?」



 俺が卵サンドを食べ終えたころ、キジーが突然、聞き覚えのある名前を口にした。


 思わず周りを見回す俺。ミラナやシンソニーも、同じようにキョロキョロしている。



「ニャー」


「なんだ、猫か」


「なーに? ベルさんのお遣いで来たの?」



 キジーがそんなことを言いながら、足元にすり寄ってきた猫を抱き上げ、頭を撫でている。


 首に紫の石が付いた首輪をした、真っ黒で小さい猫だ。



「知ってる猫なのか? この街の猫……?」


「ライルはベルさんの飼い猫でね、神出鬼没なのさ。気配を消すのがうまいんだけどねー、アタシからは隠れられない」



 キジーがそう言うと、黒猫はキジーの腕をすり抜けて、ミラナの膝の上に乗った。



「ライル君、久しぶりだね。うふふ、可愛い~」



 ミラナがそう言いながら、黒猫をムギュッと抱きしめている。



――えっ!? そこ俺の場所なんだけど?



 少なくないショックを受ける俺に、黒猫が不敵な笑みを浮かべた気がした。



――くっそー! なんだこの猫っ! 俺たちが両想いなの知らねーな!?



 子猫相手に対抗心を燃やすなんて、俺だって本当にバカらしい。だけど、最近の俺は、子犬になっても撫でてすらもらえていないのだ。


 しばし黒猫とにらみあう俺。



「そろそろ行こっか。ライルもおいで」


「えぇ……? そいつ連れてくの?」


「なぁに三頭犬、やきもち?」


「うるせ……」



 ミラナはライルを抱いたままカフェを出て、俺たちは遺跡があるという山を目指した。



 キジーが新しく見つけたという遺跡を目指すオルフェルたち。


 おしゃれなカフェで休憩していると、ベルさんの飼い猫だという、小さな黒猫のライルがやってきました。


 はたして新しい遺跡に仲間はいるのか?


 次回、第九十九話 レーデル登山~なんか落ち着くぜ~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
この黒猫……見覚えがありますね。 やっぱりライル君の現在の姿なんでしょうか。 キジー、いつもながら気前がいい! だんだん女神か何かなんじゃないかと思えてきました。 次なる遺跡には何があるのか楽しみで…
[一言] 花車様こんにちは! 皆でカフェでランチ!! これは楽しそう! メンバーは相変わらずで良きですねぇ。 でもオルフェルに敵対する猫出現!!! これは! ヤキモチ妬くやろー! ちなみに花車様のペッ…
[良い点] 封印された遺跡には、何か手掛かりがあるといいですね。 キジ―には世話になりっぱなしで、いつか恩返しをしないとです。 ミラナも彼女の明るさのおかげで、この時代に来たばかりの時は支えられたので…
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