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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第7章 幼女と皇帝

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94/291

094 ラギットタートル2~幻覚と二頭犬~


 場所:コルアーニャ川

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「いてぇっ!」



 ラギットタートルに囲まれた俺は、あちこちから手に持った剣で殴られていた。


 この剣はたぶん、襲った人間から奪ったものだろうが、泥水に浸かっていたせいか錆がひどい武器だ。


 切られたというよりは殴られた感じがする。


 そこはまだ救いだけど、攻撃モードのため、俺はほとんど防御ができない。攻撃が効かなければやられ放題だ。


 だけど、自分で選んだ依頼だけに、自業自得としか言いようがなかった。



「大人しく捕まれ! キャプチャーアライブ!」



 殴られながらも戦っていると、俺が弱らせた魔物を、シンソニーが愛護活動用のビーストケージに封印した。


 今回は魔獣愛護活動も兼ねている。


 相性の悪い相手だけど、生け捕りにしなくてはいけないのだから、倒せないくらいでちょうどいいのかもしれない。


 ちなみにこのケージは、前に色っぽい騎士団長に渡されたものだ。


 だれでも魔物を捕獲できる代わりに、解放しても調教魔法が効かず、普通に逃げられてしまう。



「ヤァー! んー、タァッ!」

  ――バチバチ!――



 俺から少し離れた場所で、シェインさんは次々にラギットタートルの甲羅を貫いていた。槍の穂に電撃を(まと)わせた強烈な突き攻撃『サンダートラスト』だ。


 雷の衝撃で、突かれた個体は硬直していく。それをまた、シンソニーがケージに捕獲した。



「シェインさん、かっけー!」


「油断してはいけないよ、オルフェル」



 防御できないまま殴られまくる俺とは違い、シェインさんは囲まれているのに、まったく攻撃を受けていない。


 槍が長くて相手の攻撃が届かないうえ、攻撃と防御が一体化していて隙がないのだ。


 そして、万一攻撃されかけても、ベランカさんの氷結魔法が見事にそれを防いでいた。眠りの効果が付与された『フロストスリープ』だ。



「おにぃさまに手出しは許ちませんわ!」


――あ、それ。俺やりたかったやつ。


――てかときどき舌足らずで可愛いな。でも言ったら怒られそうだ。



 凍り付き眠りについたラギットタートルも、シンソニーがどんどん捕獲していく。


 ちなみにベランカさんは、俺を守る気はないようだった。



      △



「いってーっ!」


「迷夢に囚われ血に狂え! パーシテアルアー!」



 また殴られた俺が声をあげると、ミラナが聞いたことのない呪文を唱えた。



――ん? いつもなら、デドゥンザペインが飛んでくるところだけど……。なにその怖い呪文……。



 振りかえってミラナのほうを見ると、なんと、ミラナが五人に分裂している。


 本物と見分けがつかないほどに、見事な分身だ。みんなミラナにそっくりで、すごく可愛い。


 それがなぜか優しい笑顔で、俺に微笑みかけてくる。



「わぉ! なにあれ!? 最高なんだけど!?」


「オルフェ! 気を取られちゃダメだよ! それ幻覚!」



 シンソニーの声が聞こえてハッとする俺。


 どうやら俺が囲まれているのを見かねて、ミラナは囮の幻覚魔法を発動したようだ。


 誘引作用があるらしく、俺を囲んでいたラギットタートルたちが、ミラナの幻覚に引き寄せられていく。



「プギャー!」「プハァー!」


「きゃぁぁぁ!」



 錆びた斧を手に幻覚に殴りかかるラギットタートル。ミラナの幻覚は頭から血を流し、目を見開いて、悲痛な叫び声をあげた。



「ぎゃー!? ミラナ!? やめてっ! あの幻覚、リアルすぎる!」


「リアルじゃないと囮にならないよ」



 あまりの光景に、青ざめながら叫ぶ俺。しかしすでに、どれが本物のミラナだかわからない。


 不思議なことに、ミラナがしゃべると全ての幻覚の口が動いた。



「お願いだから消して!? 俺、殴られても平気だからっ」


「えぇっ? そんなこと言われても、すぐには消えないよ」


「くそっ、亀ヤロー! ミラナから離れろー!」


「ちょっと、オルフェル!?」



――ヴォン・ヴォン・ヴォン!――



 トリガーを引きながら走り出した俺。俺の挑発で、幻覚に群がっていたラギッとタートルたちが一斉にこっちを向いた。


 いくら幻覚だからと、傷つくミラナを放ってはおけない。



「ミラナに触んじゃねー! ホリゾンタルフレイムリング!」



 猛烈な炎を放つトリガーブレードが、ミラナに群がるラギットタートルを薙ぎ払う。


 回転した俺の頭に一瞬、義勇兵だったころの記憶が蘇った。



「食いつくせ! フェロウシャスオルトロス!」



 俺の周りで円を描いていた炎がそのまま巻きあがり、巨大な炎の二頭犬になる。


 二頭犬は鋭い牙をむき出しにしながら、逃げ回るラギットタートルを追いはじめた。


 ふたつの顎であちこち噛み付いては、水の防御魔法ごとヤツらの体を食いちぎる。



「プギャーーー!」


「オルトロスつえー! 調子乗ってきたぜー!」


「グルルル!」




 にわかに調子に乗った俺は、背後から切りかかってきたラギットタートルの一撃を、トリガーブレードで受け止めた。



――やった! 防御できる!



 タイミングよく、俺の攻撃モードが終了したようだ。


 防ぎながらミラナの幻覚に目をやると、血まみれでペタンと草の上に座り込んですすり泣いている。



――なんって、ほっとけねー囮だ!



 俺はラギットタートルに反撃の一撃をくらわせてから、ミラナの幻覚を抱きあげ、安全な場所に移動させた。


 もちあげてみると、どのミラナも重さや匂いまでしっかりミラナだ。


 五体全てを安全地帯に移動させていると、俺の腕のなかにいるミラナ以外は、突然フッと消えてしまった。



「もうっ! オルフェルったら、なにしてるの?」


「あっ、これ本物だったの!?」


「囮の意味が全然ないんだけど」


「いや、これは無理だ。見てらんねー」



 俺はミラナを草のうえにおろすと、彼女が無傷なのを確認して、その柔らかな髪にグリグリと額を擦り付けた。


 安心すると同時に、彼女の香りに包まれ、「はぁ」と大きなため息が漏れる。


 それがくすぐったかったのか、ミラナが耳を押さえて身をよじった。



「オルフェル……。幻覚、私に見えたんだ……?」


「ミラナにしか見えねーよ」



      △



 気がつくと俺の放ったオルトロスは、ラギットタートルたちをすっかり蹴散らしていた。


 俺はとっさに、かなり高度な魔法を放ったようだ。


 あれは、カタ学の図書室にあった魔導書に載っていた召喚魔法だ。


 呼び出せるのは精霊や幻獣、神様に悪魔に小人にと多種多様だけど、当然強いものほど難しい。


 派手な魔法には詳しい俺だけど、まさか使えるとは思ってなかった。


 三百年前の俺が、いつのまにか練習したらしい。



「オルフェル! 苦手な属性の魔物相手にすごいよ。召喚魔法か! ずいぶん強くなったね」


「いや、そうでもないです」



 シェインさんに褒められ、俺は苦笑いを浮かべた。謙遜する俺が珍しかったのか、シェインさんが目を丸くしている。


 いつもなら調子に乗るところかもしれないけど、俺はそういう派手なのじゃなくて、シェインさんのような隙のない戦い方がしたかったのだ。


 なんとなくそっちのが、オトナっぽい気がしたから。



「シェインさんはやっぱりかっこいいです」


「素敵でしたわ。おにぃさま」



 小さいベランカさんがぴたっとくっつくと、シェインさんはしゃがみ込んでベランカさんを抱きしめた。



「ベランカのおかげだよ」


「きゃん♡」



――あ、俺スルー!? まぁいいけどっ。



 これはもう、すっかり二人の世界だ。二人にはいま、お互いしか見えていない。



「甲羅は売れるから持って帰ろう」



 俺たちはラギットタートルたちの落としものを拾い集め、死体も依頼主に指示されたとおりに集めて燃やし、片付けをしてその場を離れた。



 弱らせた魔物を捕獲していくミラナたち。殴られるオルフェルを見かねたミラナが発動した幻覚魔法に、オルフェル君は大混乱です汗


 焦った彼は三百年前に使っていた召喚魔法をふいに思い出しました。


 パーシテアルアーの説明は次回に!


 第九十五話 パーシテアルアー~闇深い魔法~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
この誘引魔法、確かにちょっと平静ではいられません。 ミラナの口振りからすると人によって見える物が違うんでしょうか。 思わず襲い掛かりたくなるような大好物の相手とか? 何はともあれ、かなりの数を捕獲で…
[良い点] フェロウシャスオルトロス! かっこいい!! オルフェくんの憧れを現実にするのは、キャラ的に無理っぽい(笑)オルフェくんにはかわいそうですが。 そして相変わらずベタベタ甘々シェインさんと…
[一言] あれ、魔獣愛護の活動なのに殺して大丈夫だったのでしょうか…? しかしオルフェル、思いが単純で一途なだけに、強くなったりするのもとても簡単ですね…!ミラナを思うだけで強くなれるのは、やはり流石…
2023/09/19 15:02 退会済み
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