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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第7章 幼女と皇帝

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089 迷いながら2~みなで北へ~

 場所:イコロ村

 語り:シェイン・クーラー

 *************



――なんて死体の数だ……。これではほとんど皆殺しだな……。


――これはどこの村でも……いや、大きな街でも危険だぞ……。



 一日がかりでできる限りの墓を作った私たちは、村に起こった現実を、まざまざと見せつけられることになった。


 やはり最初の想像どおり、これは魔物の仕業だった。それもかなり巨大な魔物だ。地面から雪を取り払ってみると、巨大な丸い足跡があちこちに残されていた。


 しかも、一匹や二匹ではなく、十匹は超えているだろう。しかし、村を襲ったのはそれだけではないようだった。


 掘り起こした村人たちの死体の傷は、踏み潰されたものばかりではなかったのだ。


 斬られたり、燃やされたりと、実にいろいろな殺されかたをしている。


 そして、さらに雪を掘り起こしてみると、村人たちが懸命に戦った痕跡のある魔物の死骸も、あちこちに転がっていたのだった。


 崩れた家のなかを調べると、金品や食料が奪われた形跡もある。相当数のゴブリンたちもそのなかに混ざっていたようだ。


 しかし、こんなに大小多種多様な魔物たちが、団結して一斉に村を襲うだなんて、過去に一度も聞いたことがない。



――本当に、どうしてこんなことになったんだ……。


――この雪のなかだ。魔物の足跡は雪に埋まり、どこからきて、どこへ向かったのかもわからない。


――まだ近くに魔物が潜んでいるかもしれないな……。僕たちもどこかへ逃げるべきか?



 疲れはてた様子の後輩たち。さらに何日も雪のなかを移動することを思うと、これ以上墓作りに体力を奪われてはならないだろう。


 この場所は故郷ではあるが、いまは踏み荒らされ寒さをしのげる場所もなかった。


 このまま休みもせず、いつまでも村を掘り起こしていれば、私たちの身も危険だ。


 ここで待っていれば、逃げた村人が戻ってこないかとも思ったが、村周辺は人の気配もなければ、精霊たちの姿もない。



――だけどな。家族の安否も確認できないというのに、墓もろくに作れないままでは、みんなもなかなか動きたがらない。


――近くの村へも二日はかかる。その道が安全とも限らない。本当に移動するのが正解なのか?


――それにな、隣村へ行くといっても、川や山を越え北に行くべきか? それとも谷を抜け草原をこえて南の村へ? もしくは森を歩いて東へ戻るか……?


――そもそもみんなで行くのか? それとも少数で道の安全を確認してから……。いやいや、やっぱり……。うーん、それでも……。



 いつまでも墓をほりながら、考えごとばかりしていた私だったが、立場的にそろそろ、このあとどうするかという判断を下さなくてはならなかった。


 しかし、なかなか心は決まらない。



「ふぅむ……」


「おにぃさま。北と南なら、どちらがいいと思われますか?」


「……そうだね。どちらかと言われれば北かな。谷や草原は逃げ場がなくて危険すぎる」


「さすがおにぃさま、思慮深いですわ。ではみなで北へ」


「そうだな。北だ。みんなでオトラーへ行こう」


「お。決まったか? ならあとは任せろ。みんな行くぞ! ここに留まることはオレが許さない」



 ベランカに促され、私がようやく方針を決めると、ハーゼンが大声でみなの尻を叩きはじめた。



「え、でも、まだみんなのお墓が……」


「ひどく残念だ。オレも本当に心が痛い。だが墓作りはいったんここまでだ! まずは自分たちの身の安全を確保するぞ。それから生きてるものの安否確認だ。オトラーで逃げ延びた家族に会えるかもしれないぞ! 希望を持って進めば、どんなに苦しい道も明日につながる! ほらいくぞ! 歩けネース! 進め後輩たち!」


「ハーゼンさん、声でかい……」



 少し不満そうな後輩たちも、彼に大声で指示を出されると従わざるを得ない。


 私たちは北にあるオトラー村を目指して歩きはじめた。


 オトラーは、イコロからサーイン川を渡り、いくつか山を超えた場所にある村だった。


 クーラー領の一部であるその場所には、クーラー家のもう一つの屋敷があった。



      △



 私たちがオトラーに辿り着くと、やはり逃げ延びた村人が、いくらか避難してきていた。


 それは、だいたいが、たまたま村の外に出ていたために助かった、狩人や商売人たちだった。


 魔物の強襲に巻き込まれながらも、なんとか村を脱出できたという人はほんの数人だ。


 私たちの家族や、オルフェルたちが必死になって探していたミラナの姿もない。


 なんとか気力を振り絞って、ここまで歩いてきた私たちだったが、わずかな希望を失いまたみなの顔色が曇る。



「生き残ったのはあなた方だけですか?」


「わかんねぇ……。でも、領主様たちは、オラたちを逃がすために懸命に戦って……その……」



――そうか……。もしやここにと思ったが、やはりな……。



「あなた方だけでも、無事でよかった」



 魔物たちへの込みあげる怒りを押し殺しながら、私は領民たちにそう返事をした。


 ベランカも覚悟はできていたのか、黙って頷いている。彼らの話では、魔物との戦いはかなり壮絶なものだったらしい。


 しかし、誇り高くも心優しかった両親が、領民を残して逃げるはずもないのだ。



――お父様、お母様。あなたたちの息子になれたことを、誇りに思います。



 私たち兄妹が両親の死を受け入れるには、まだまだ時間がかかるだろう。


 しかし、イコロを襲った魔物が、こちらに攻めてこないとも限らない。


 私はなんとか気持ちを落ち着けて、村人たちからイコロに押し寄せた魔物の情報を聞き取った。


 彼らによると、巨大な魔物は気が付いたときには村の内側にいたらしい。


 いくら、魔物の襲来に強固な守りで備えていたイコロでも、それでは対処の方法がない。



「あのでっかいのは、ゾウの魔物だでな」


「おっそろしく鋭い牙が、六本も生えてたなぁ。ほんっとにでっかくて恐ろしかったなぁ」


「ネース、なにか知ってるか?」



 村人たちの話を聞いて、ハーゼンがネースの背中をたたいた。



 あれこれと考え込みながら、墓作りをしていたシェインたちですが、雪のなかでの作業には限界がありました。


 みなの身を守る方向へ舵を取るシェイン。ベランカとハーゼンにサポートされつつ、向かった先はなんと、『オトラー村』でした。


 イコロ村を襲った巨大なゾウの魔物とは……? そしてシェインはこのあとなにをするのか。


 次回、第九十話 迷いながら3~奪われた学生たち~をお楽しみに!


 挿絵(By みてみん)



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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
なるほど、シェインさんは思慮深すぎるところがありそうです。 ベランカさんとハーゼンさんが方向を示し進ませるサポートをして上手く回っている関係なんですね。 たとえ僅かでも生き残った村人がいて良かった。…
[一言] シェインが見たものはイコロ村の枯れ果てた残骸。 そこには様々な魔物の入ったあとが。 そして新たに向かうオトラー村には何が待っているのか!? 象の魔物とは!? 気になる事が沢山(☆∀☆)キラー…
[良い点] 多様な魔物たちが一様に団結して村を襲ったというのも、何かありそうです。 魔物が何を企んでいたのかも気になるところですね。 そして墓づくりをしていれば危険というのも、妥当な論理です。 しか…
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