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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第7章 幼女と皇帝

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087 魅惑の卵~俺、触ってねーよ?~

 場所:貸し部屋ラ・シアン

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「ミラナ!? ミラナ! 大丈夫か? ミラナ!」



 ミラナが突然気を失ってしまい、俺、オルフェル・セルティンガーは、必死に彼女の肩を揺らしていた。



「みぃーらなぁぁぁー!」


「オルフェ、そんなゆすっちゃダメだよ。大丈夫。眠っちゃっただけみたいだから、落ち着いて?」



 叫ぶ俺の足元から、シンソニーの呆れた声が聞こえてくる。



「あ、そうなの? やっぱりミラナ、疲れてたんだな……って、え!? シンソニー!? なにそれ!?」


「ピッ!?」



 小鳥姿のシンソニーを探した俺は、足元に小さな子供サイズの鳥人間を見た。


 頭はいつもの緑の小鳥が、そのまま大きくなったような感じだ。


 翼もあって、かなり鳥っぽいけど、体と足が人間のそれだった。


 いつも人間姿のシンソニーが着ている、魔導士用の戦闘服を着ている。


 若葉の刺繍が施された爽やかなデザインの白い服だけど、鳥人間が着ていると別ものに見えた。



「えっ、なに!? なに!? なんなの? その姿……」


「そんな騒がないでよ。ミラナが笛吹かずに寝ちゃったから、中途半端に解放レベルがあがっただけだよ」


「えっ……? てことは、呪文三回で1レベルだから、解放レベル1.3……? えっ!? 俺たち、そんな感じなの? こわっ」



 またうっかり怖がってしまい、鳥頭のシンソニーがむくれた顔をする。



「わるい。でも、なんかよく見たら、幼児みたいに腹が出てるし可愛いな」


「もう、オルフェ? 僕、怒るよ?」


「俺は好きだぜ?」


「やめてったら」



 緑の翼で顔を隠しながら、シンソニーがそっぽを向いてしまった。


 それを見た俺は、昔同級生たちが「可愛い可愛い」としつこく言って、彼を泣かせてしまったことを思い出した。


 たとえ鳥になっていても、シンソニーに『可愛い』は禁句のようだ。



「ごめん、シンソニー。機嫌直して? もう言わねーから」


「……うん。いいよ。そんなことより、ミラナをなんとかしよ? こんなとこで寝かせてちゃかわいそうだよ」


「そうだな!」



 俺はミラナの布団を敷きなおし、また彼女を抱きあげて運んだ。


 きっと、この部屋の寒さのせいで、昨日よく眠れなかったのだろう。


 ミラナを布団に寝かせようとすると、彼女の腕が俺の首に絡みついてきた。



「うーん、あったかぁい……」


――え? ミラナさん……!?



 布団の上で抱きつかれ、三百年前のミラナを思い出す。




『大好きだよ。オルフェル』


『俺も好き……。すげー好き』


『ねぇ、ここにキスして?』



 俺に身を寄せながら、瞳を閉じてキスを待つミラナ。可愛く甘えてくる彼女に、俺が理性を保てるわけもなく。



――あのとき俺、ミラナとどこまで……? あんな狭いテントで、当たり前みたいに一緒に寝てたけど?



 熱くなった鼻を押さえながら顔をあげると、鳥人間なシンソニーと目があった。


 さらにその奥に、氷の眼差しでこっちを見ているペンギンと、丸まって骨つき肉を舐めている子ライオンがいる。



「おっ、俺、どこも触ってねーよ?」



 思わず両手をあげて言いわけするも、ミラナがますますしがみついてくる。



「うわっ……」



 よろけて両肘を布団につくと、すっかり覆いかぶさってしまった。


 いつも降りている彼女の前髪が横に流れて、キレイな額が顔を出している。


 髪の生え際の細い産毛の一本一本まで、どうしようもなく艶めいてみえた。



――あ……。俺、ミラナが寂しがるときは、いつもここにキスしてた。



 触れたい衝動を封じ込めるように、俺はゴクンと唾を飲み込んだ。ただでさえ体温の高い俺の体がカッカと熱くなっていく。



「そのままあっためてあげたら? 両思いなんだよね?」


「シンソニー君やめて!? こんな状況で俺無理っ」


「だってミラナ、幸せそうだよ」


「あんまり勝手なことしたらあとで封印されるぜ」



 俺は首に回されたミラナの腕をそっとはずし、彼女にありったけの毛布を被せた。


 両思いだとわかって以来、俺の生殺し感は半端じゃない。



――ふぅ、参るぜ。なんだよ俺より前から好きだったって。そんなの、調子に乗るなっていうほうが無理だろ。


――あぁっ。抱きしめたい!



 先日あの湖の畔で、俺は彼女の頬にキスをした。


 多少調子に乗っていたとはいえ、あのとき俺は震えていた。いまの俺にとって、あれは正真正銘、生まれてはじめてのキスだったのだ。


 あまりの緊張で、あんまり記憶がないくらいだ。


 だけど彼女の反応は、驚くほどに薄かった。彼女は怪訝そうな顔で、首を傾げただけだった。



――もしかして、ミラナ。俺とのキスなんてもう、なんとも思ってねーとか?


――何回もしたって言ってたし……。そりゃ、許可が降りたら俺、とまらねーよな。


――うはん。ミラナが俺より♡大人♡になってる! 過去の俺のせいで!



 彼女はどうやら、俺の知らない俺を知っている。


 なにもしないうちから手の内を知られているようで、なんだかひどく気恥ずかしかった。



      △



「……とりあえず腹減ったな。自分で卵焼くか……。シンソニーもその体じゃ無理だよな?」


「ピィ……。手が翼だから難しいね。だけどオルフェ、料理できるの?」


「わかんね。あんまりやったことねーし。教えてくんね?」


「ピピ……。ごめん、なんか慣れない体のせいか疲れちゃった。僕も二度寝していい?」


「え? 大丈夫?」


「うん……。でもオルフェの頭に乗れないから、寒いよ……。ピッ」



 シンソニーはそんなことを言いながら、部屋の隅に三角座りをして翼で膝を抱えてしまった。


 あらためて考えると、飛ぶこともできず、手も使えない微妙すぎる姿だ。さすがのシンソニーも、少し気が滅入ってしまったらしい。


 手助けしてもらうのは諦めて、俺はひとりでキッチンに立った。



「料理と言えばフライパンだよな? 油をしいて卵を投入っと」



 いつも俺のために卵を焼いてくれる、ミラナの姿を思い出しつつ、俺は卵を焼きはじめた。



――エプロン姿が可愛いんだよな。やっぱり、ヒラヒラしてっから。



 魔道具のコンロはよくわからないボタンがいくつもついている。


 下手に触ると爆発するかもしれない。


 俺はコンロは触らず、炎の魔力で直接フライパンを温めた。この方が火加減も微調整できる。



「とりあえず五個だ。おっ! すっげー、焼けてきたぜ! できるじゃねーか、俺! これを、皿に……」



 ミラナはどうやって、焼けた卵を皿に移していたのか。


 いつも料理中のミラナを眺めていた俺だけど、よく考えたらあんまり手元は見てなかった。


 鼻歌を歌うミラナの横顔が可愛かったことと、エプロンのヒラヒラが可愛いかったことしか思い出せない。



「舞いあがれ! フライングフライドエッグ!」



 とりあえずフライパンを縦に振って、五つの目玉焼きを頭上に放り投げる。


 それを皿で、次々にキャッチすると、目玉焼きが綺麗に皿のうえに重なった。


 もちろん、『フライングフライドエッグ』は魔法ではない。叫んでみただけだ。



「お、大成功! いやっほーい、調子乗ってきたぜー! そーだ、ミラナの分も焼くぜ! ミラナも卵好きだからな!」



 うまく行ったことに気をよくした俺は、次から次へと卵を割って、じゃんじゃん焼いては積みあげた。



「うまそーな目玉焼きタワーだ! 夢のようだぜ!」



 作った大量の目玉焼きを満足しながら眺めていると、いつの間にか目の前にミラナが立っていた。



「オルフェル……?」


「ひゃいっ」



 ミラナの冷ややかな声に、ビクッと肩をすくめた俺。



「やだっ。卵何個焼いたの!?」


「……二十個?」


「バカッ! 食べきれないのに!」


「た、食べるぜ! 余裕だぜ。てか、ミラナ、もう元気になったの?」


「うん」


「じゃぁ、ミラナも食べて。好きだろ? 卵」


「え……。うん……ありがとう」



 俺たちは並んで、二人でもしゃもしゃと目玉焼きを食べた。



「焦がさないでちゃんと焼けてるね」


「だろ! 火加減は得意だからな! でもやっぱり、ミラナが作ってくれた方がうまいな。ミラナの手料理は幸せの味がするから。俺のはなんか、味がしねー」


「……うん。だって、これ味付けしてないでしょ? これをふりかけるとおいしいよ」



 ミラナはそう言うと、目玉焼きになにやらミラナ特製のスパイスを振りかけた。


 かなり闇の魔力を感じるスパイスだ。



「……うん。やっぱこの味だな」


「でしょ?」



 ミラナはにこっと笑うと、積まれた目玉焼きタワーにも闇のスパイスを振りかけた。



「でも目玉焼きばっかりはさすがに飽きるな」


「残しちゃダメだよ?」


「あぁ、もちろんっ。ちゃんと全部食べるぜ! ミラナ……。いつも料理、ありがとうなっ」


「うふふ。どういたしまして」



――うん、調子乗って焼きすぎたな!



 俺はそれから二日をかけて、自分で焼いた目玉焼きをひたすら食べることになったのだった。



 ミラナが突然倒れたことで、シンソニーはなんと鳥人間に。


 ミラナを布団に運んだオルフェルは、ミラナが自分のせいで♡大人♡になってしまったと思ったようですが、真相は不明です。


 そして調子に乗って卵を焼きすぎるオルフェル君。全体的にネタ回でした。


 次回からシェインさんの語りで、ちょっと重めの過去編になります。


 第八十八話 迷いながら1~がうがうーぎゃぉん~をお楽しみに!


 挿絵(By みてみん)

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鳥人シンソニー……。 そういうモードではなく中途半端な解放状態なんですね。 かわいいだけで特に何ができるわけでもないというのが絶妙なマスコット感でした。 卵20個、いくら好きでも飽きて当然です! ち…
[良い点] ほんわか回、いいですね。重い話の間に欲しくなります。 ミラナとオルフェくんのいちゃいちゃ? 人数増えたから尚の事外野の目が(笑) それにしても大所帯になると本当いろいろと大変そう。シェ…
[一言] 花車様こんばんは! 疲れたミラナの魔法はやはり微妙な状態! 変わった変化をしたシンソニーはちょっと、面白くて見てみたくなりました笑 そして大量の目玉焼き! これはしばらく大変そうです笑 楽…
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