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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第7章 幼女と皇帝

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086 犬化?~目玉焼き3個な~

 場所:貸し部屋ラ・シアン

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



 寒さに震えていた私の足元に、子犬なオルフェルが寄ってきた。


 彼の頭のうえではシンソニーがピーピーと寝息を立てている。


 温かいらしく、ずいぶん気持ちがよさそうだ。なんだか少し羨ましい。



「ミラナ、おはよ。なんかちょっと顔色悪いぜ? 寒いの?」


「えっ!? 全然へいき。朝ごはん食べよっか」


「きゃう! じゃぁー人間に戻してくれっ! ドッグフードはもう飽きたぜ」


「うん、いいよ。何が食べたいの?」


「きゃん! 目玉焼き三個な! あとパンとソーセージとトマトジュースな! それから、ベーコンとオムレツとゆで卵も三個な! きゃうんきゃうん!」



 オルフェルが私を見あげながら、短い後ろ足でぴょこぴょこ跳ねている。


 小さな舌が口からはみ出して、「はっはっ」と、少し興奮気味な、細かい息遣いだ。



――かっ、可愛い。たまらなく可愛い! 抱きあげたい! 撫でまわしたい! もふもふしたい!


――だって、ふかふかだもん! ポカポカだもん!



 子犬なオルフェルに、キュンキュンが止まらない私。


 前ならすぐ抱き上げてたところだけど、気持ちが知られてしまった以上、子犬だからとあまり言いわけもできない。



「ダメ。ちょっと卵食べすぎだよ」


「きゃう!? じゃぁ、ゆで卵は二個にしとく! その代わり目玉焼きは四個な!」


「ダーメッ。変わってないよ」


「そんなこと言わずに、お願いっ、ミラナさんー? 今日からまたギルドの依頼やんだろ? 卵食べたら俺、すっげー調子出るぜ! きゃんきゃん、きゃうあう! きゃうん! きゃうん!」



――やだ。途中からなに言ってるか全然わかんない。朝からほんとに可愛すぎ。


――うふふ……。オルフェル、相変らず卵好きだね。私も卵好きだよ。一緒だね!


――あー、なでなでしたい! がまん、がまん。



 とりあえず会話にならないので、オルフェルを人間に戻すことにした。



「やったー! 見上げすぎて首が疲れたぜ!」


「あっ、ちょっと!?」



 人間にしたとたん、オルフェルの顔がすごい勢いで近づいてきた。彼の鼻の頭が、私のこめかみに触れる。


 そのまま彼の額が、ぐりっと私の頭に押しつけられ、身体をきゅっと引き寄せられた。


 そこで、われに返ったのか、ピタッとオルフェルの動きが止まる。



「オルフェル……。いきなりなにしてるの?」


「わかんね……。喜んだらちょっと衝動に負けた……。やっぱ、ダメ?」


「ダメッ」


「顔赤いけど、大丈夫?」


「もうっ。頭くっつけないで」


「へーい」



 しょぼんとしながら離れた彼の頭のうえで、シンソニーがかたまって気配を消そうとしている。


 どうしてあの夜、ほっぺをなめられたのかと思っていたけど、どうもオルフェルは人間のときも少し犬化しているようだ。


 犬でいる時間が長すぎるからだろうか。私に鼻や頭を擦り付けてくるのも、あんまり自覚がないらしい。



――しばらくオルフェルは、できるだけ人間にしとこう。可愛いけど、これ以上犬化すると困るわ。



 そう思いながら、私はエプロンをつけキッチンに立った。オルフェルが期待に満ちた顔で私を見ている。


 彼は私をお料理上手だと思っているようだけど、私は勉強以外はだいたい苦手で、本当のところ料理も例外ではなかった。


 ただ、私の大好きな卵料理を、オルフェルも好きなのが嬉しすぎて、卵料理だけはお母さんに教えてもらい散々練習していたのだった。



――オムレツは結構、きれいに作れるようになるまで時間がかかったよ。クイシスにからかわれながら、頑張ったんだよね。


――オルフェルに食べてもらえる日が来てよかった♪


――それにしても、オルフェルの視線が熱い……。



 あれは私への愛なのか、それとも卵への愛なのか。じーっとこっちを見ているオルフェル。


 そんなに見詰められると、手元がくるって作れるものも作れなくなってしまいそうだ。


 なんだか自分の顔が赤くなってしまっている気がする。


 なにか、やることを与えて、彼の気を紛らわせたほうがよさそうだ。



「オルフェル……。手伝ってくれる?」


「おぅ! なんでも手伝うぜ!」



 そう言って彼が私に近づいてきたとき、ふらっと私の足元がよろけた。


 オルフェルが私の腰を持ち、しっかりと受け止めてくれる。



「おっと……? ミラナ、熱あるんじゃねーか? やっぱりちょっと顔赤いぜ」



 オルフェルはそのまま私を抱きあげて移動し、ダイニングの椅子に座らせた。



「もっかい寝る?」



 大きな赤い瞳が心配そうに私の顔を覗き込む。なんて私好みの整った顔なんだろう。


 このままお休みにして一日中眺めていたいくらいだ。そう言われてみれば、やっぱり体調も悪い気がする。


 だけど、本当にのんびりはしていられない。


 解放したばかりのシェインさんたちを、あまり連れ回すわけにもいかず、ここ数日はギルドの仕事を控えていたのだ。


 だけど、早くお金をためて、次のビーストケージの費用を貯めてしまいたい。



「ううん。今日はお仕事がんばらなきゃ。ここのところ、ずっとゆったりしてたから……」


「ゆったりしてたのは俺らだけだろ。ミラナはなんか、ずっと忙しそうだったぜ」



――確かに。よく考えたら、ずっとバタバタしてたかも。



 ぼんやりする頭で、自分の行動を思い返す。


 ここ数日の私は、シェインさんやベランカさんの飼育方法を調べるため、ナダン師匠に渡された魔物使いのための魔導書を読み込んでいた。


 それから、普段なかなか作れない撒き餌を作り、ついでだからと普段は買って済ませている魔力回復ポーションまで作った。


 さらには、サビノ村の人に分けてもらった毒消し草で解毒薬を作り、手間のかかる回復薬作りにも手を出して、少しでも効力を高めようと夜遅くまで試行錯誤を繰り返した。


 その間も待ち時間があると、買ってあった最近の魔導書を読み、新しい魔法も頭に詰め込んだ。


 オルフェルがずっと臭そうにしているのもおかまいなしで、ちょっとはりきりすぎたかもしれない。



――だって、薬は作ったほうが安くて効果が高いし、新しい魔導書も、わかりやすくて面白かったから。



 最近の魔導書を読むと、やっぱり自分は、三百年の時間を超えたのだと実感する。


 掲載されている魔法が昔とは全然違うのだ。


 上位の魔法が開発されているものもあるけれど、基本的には昔より術者の安全に配慮した魔法が増えたようだった。


 過激なもの、副反応が強いもの、倫理に反するものなどはだいたいが禁呪とされ、その使用法は一般の魔導師たちから忘れ去られている。


 あの、王妃を魔物化させたデモンクーズも、しっかりと禁呪に指定されていた。


 私がよく使っているデドゥンザペインですら、危険な魔法に指定されていて、戦闘系の魔導書には使い方が載っていない。


 時代が変われば、やはり魔法の倫理観も変わるようだ。


 そんなことを考えていると、オルフェルがそっと私の頬に手を振れてきた。


 なんだか前より距離が近い。気持ちがバレてしまったせいで、彼の遠慮が減ってしまった。


 だけど温かくて、つい上から握ってしまいたくなる。



「いいからちょっと休めよ。そうだ、シンソニーを人間に戻してくれ。卵はシンソニーに焼いてもらうぜ!」


「ピピ! いいよー。僕がやるから、ミラナは休んでて」


「そう……? ありがとう。じゃぁ、ふらふらするから、やっぱりちょっとだけ休もうかな……。シンソニー……解放レベル……2」



――あ……目が回る……。



「おっ、おい! ミラナ?」



 オルフェルの慌てる声を聴きながら、私は意識を手放した。



 やたらと卵を食べたがるオルフェル君。なにもかもが違うミラナとオルフェルですが、好きな食べものが奇跡的に一致していたようです笑


 距離をつめてくるオルフェルと、我慢したいミラナの戦いが始まりました。


 くたびれたのか目を回してしまったミラナのその後は……?


 次回はオルフェルの語りになります。


 第八十七話 魅惑の卵~俺、触ってねーよ?~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
もうより戻せば良いじゃない!! そんなラブラブな回でしたね。オルフェルくんの熱視線が卵に向けられていると考えるミラナは、本当に面倒な性格!笑 あと空気読んで気配を消すシンソニーも良い子。 オルフェル…
ミラナ働き過ぎ! 従魔が二体増えた負担も大きそうですし、ここはゆっくり休ませてあげてほしいですね。 それにしても、内心ではこれだけオルフェル大好きなのに、素直になってくれないミラナのもどかしさよ。 …
[一言] オルフェル達を飼い慣らす為にはお金もかかるし色々勉強もして。 とミラナは頑張りすぎましたね! ここはオルフェルとシンソニーに任せてたまにはゆっくり休んでほしいですね"ค(*'ࠔ' *) 卵料…
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