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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第7章 幼女と皇帝

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084 検問~セイグリッドなんちゃら~

 場所:見知らぬ森

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************




「闇のモヤのある地域の人たちは、もともと闇属性が嫌いだ。モヤの原因を闇属性魔導師だと決めつけているからね」


「闇属性でなくたって、闇に堕ちるときは堕ちるのにね……」


「ほんとにね」



 ドーソンは指で地図上の街や村をぐるぐると指さしている。そのなかには、彼の故郷であるカルパンも含まれていた。



「とにかく、僕たちはこの闇のモヤと、アリストロの戦闘が激しい地域を避け、北東からこう、南へ向かって進んできた」



 ドーソンの指が、今度は地図のうえをツーッと動く。私たちはいま、イニシスの東にいるようだ。



「だいぶん魔物が減ってきたよね」


「そうだね。どうやらアリストロは、湧いてくる魔物と戦いながら、周辺地域への侵略を進めてるみたいだから。すごい勢いだよね。もうそろそろ、カルパンも降伏しただろうな」



 故郷が侵略されたというのに、ドーソンはどこか他人事のような口ぶりだった。


 あの日、()()のためにカルパンの食料を奪った彼はもう、故郷を懐かしむことすらできないのかもしれない。



――だけど本当は、ドーソンも泣き虫なんだよね。根が優しすぎるから、気持ちを押し殺してるのかな。



 家族のためにいつも気を張っているドーソン。だけどリーダーになるまでは、彼だって人一倍泣いていた。


 故郷の妹や弟たちの話をしながら号泣する彼の姿を、私はいままでに何度も見てきたのだった。



「で、僕たちはいまはこの辺りにいる。この街なら入れるかもしれないよ。だけど、安全とは言えないから、今回は僕一人で行くよ」



 冷静な声で話しつづけるドーソン。彼の手がとある街を指さしている。


 だけど私は、全てを彼ひとりに背負わせるわけにはいかなかった。



「ダメだよ。ひとりでなんて、行かせられないよ」



 ドーソンをなんとか説得して、私たちは二人で街を目指した。



      △



 恐る恐る近くの街に近づいてみると、街の入り口には複雑な国章が刺繍された、王国軍の青い旗が掲げられていた。


 何十人という人が、街に入るため並んでいる。


 どうやら街に入る人々をひとりひとり検問しているようだ。



――わ、騎士団!? これはアリストロの起こしてる内戦より怖いわ!



 街に出入りする人々を調べているのは、王国軍の制服を着た兵隊だった。



――もう、王様もいないのに、だれが王国軍を動かしてるんだろう。


――活動してるなら、さっさと北東の闇のモヤを浄化してあげればいいのに。



 そんなことを考えながら、私たちは木の影に隠れて、検問の様子を見ていた。


 調べられているのは、髪の色と目の色のようだ。単純な領地の奪いあいをしているアリストロ軍とは違い、彼らは徹底的に、闇魔導師を排除しようとしているようだった。



――これは、街に入るのは厳しい? でも私たち、目も髪も黒くないから、大丈夫かな……?


――でも、腕の魔力封印の刻印を調べられたら……。



 私たちの腕には、聖騎士に捕らえられたときにつけられた、魔力封印の魔法陣が、いまもしっかりと刻まれていた。


 これを調べられてしまうと、いくら髪色や目が黒くなくても、逃亡中の闇魔導師だと気付かれてしまう。


 森へ引き返そうかと迷いながらも見ていると、小さな子供を連れた女性が、兵士に呼び止められた。



「おいっ! 女子供だからと、髪と目を隠してはとおせないぞ」


「あっ、待ってください……。うちの子は……」



 なにか言おうとする母親の話も聞かず、兵士が無理やり子供のローブを脱がせた。


 相変わらず、王国軍の兵士や騎士たちは態度が横柄だ。


 だけど子供の黒い髪があらわになると、周りにいた人たちが、ザワザワと親子から距離を取った。



「わ。闇魔導師か?」


「こわいわ……」


「あっ、あの。違うんです。うちの子は髪が黒いだけで、属性どころか、魔力すらありません! どうか街に入れてください。私たちの村は、紛争が激しくて、とても暮らせないんです!」


「ダメだダメだ! 紛らわしいやつは迷惑だ!」


「そうだそうだ、不吉だからほかへ行け」



 必死に頭をさげている母親のまわりで、街の人たちが口々に話していると、兵士たちが子供と母親を別々に取りおさえた。


 子供が「うわーん」と声をあげて泣きはじめる。



「リカルドになにをするんですか!?」



 母親がもがき叫んでいると、街の城門の奥から、青い騎士服の男が現れた。


 金色の髪をなびかせ、髪型や立ち姿は、どことなくエンベルト・マクヴィックを思わせる。


 だけど彼は、エンベルトではなかった。エンベルトよりだいぶん足が短い。


 そして、兵士に捕らえられた黒髪の子供に、悪魔でも見つけたかのような冷ややかな目線を向けている。



「ふん。確かに魔力は感じないな。魔力封じの刻印もないようだ。しかし、こんな髪色をしていては、遅かれ早かれ闇の精霊に取り憑かれるのはわかりきっている。街に入れられないからと野放しにもできん」


「え……?」


「しかし、収容所に入れても脱走されてしまうからな……」


「しゅ、収容所……!?」


「ふふふ。仕方がない。この聖騎士軍第三中隊隊長、ミカニエル・マルケッソが、清き力で浄化してやる! ありがたく思え!」


「えっ!?」「おぉ……!?」



 慌てる母親。人々はミカニエルがなにをするのかと、固唾(かたず)を飲んで見守っている。


 そんななか彼は、片手で自分の手首をつかむ、謎の決めポーズで呪文を唱えはじめた。


 声色を変え、どうやらエンベルトの真似をしているつもりのようだ。


 彼に憧れて騎士になったんだろうけど、なんだか見ていて悲しくなる。



「あまたの微精霊たちよ。わが神聖なる右手に宿り、呪われしおのこを白く清めよ! セイクリッドディコロライズ!」


「ぎゃぁぁぁ! いたぁぁぁい!」


「リカルドーー!」



 子供と母親が悲鳴をあげ、子供の髪が真っ白になる。髪だけでなく、服や目や肌までも白っぽくなってしまった。


 泣く元気もなくなり、ぐったりしてしまった子供を見て、騒ぎたてていた人々も騒然とする。



「なっ、それのどこが清き力だ!」


「そうだ! セイグリッドなんちゃらだなんて、大袈裟な呪文唱えやがって! あんなのはただの布巾の漂白に使う生活魔法だろう! やろうと思えばオラだってできるぞ」


「子供に使うなんてむごすぎる!」


「なんだ。おまえたちも闇魔導師は排除したいんじゃなかったのか? 漂白が嫌ならこの場で処刑するしかない。これなら街にも入れてやれるし、これはかなり優しい処分だぞ」



 ミカニエルの言葉に、黙り込む人々。



「しかたない。子供を治療院へ連れていこう」



 さっきは親子を追い払おうとしていた人々が、泣いている母親の肩を抱き、子供を抱えて街へ入っていった。


 そんな様子を、唇を噛み締めながら苦々しい気持ちで眺めていた私たち。


 腕の刻印もしっかり確認しているようだし、とても街には入れそうにない。



「なんなの? 聖騎士軍って……怖すぎるわ」


「どうやら、王都の外にいた騎士たちが、王国軍の生き残りの兵士をまとめた軍隊みたいだね……。たぶん、リーダーはエンベルト・マクヴィックだろう」


「なんてこと……。私たち、いったいどうやって、物資を手に入れれば……」



「ちょっと、そこのあなた」



 肩を落としながら、森に戻ろうとした私たちに、だれかが後ろから声をかけてきた。


 ビクッとしながら振り返ると、そこには見覚えのある顔の男が立っていた。



「あなたはもしや、ミラナ・レニーウェインさんではありませんか? 私のことを、覚えていらっしゃいますか?」



 非常に丁寧な口調で、私にそう話しかけてきたのは、いつかカタ学で私たちにつっかかってきた、貴族の息子たちの一人、レーニス・ライネルスだった。

 なんとか物資を補給できないかと、とある街の入り口を眺めるミラナたち。


 しかし、そこでは横柄な聖騎士軍が恐ろしい検問を行っていました。


 諦めて森へ戻ろうとする二人に話しかけたのは、なんと一章で喧嘩を売ってきたあの不良でした。


 この続きは七章の最後にお送りします。


 次回、時間はいったん現在に戻ります。


 シェインさんとベランカさんのテイムに成功したミラナたち。一部屋しかないラ・シアンの彼女たちの部屋はいったい、どんな状態になっているのでしょうか?


 第八十五話 ミラナの朝~お肉をどうぞ~をお楽しみに!


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
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[良い点] ミラナの過去編、美味しいとこで切られました…… 花車さんの鬼ーーー!(いい意味です) つ、続きがめちゃくちゃ気になる! これ、かなり危ういところですよね? 闇の大精霊も気になるし、過…
[一言] なんてこったい! よりによってミラナ達が見つかったのは過去いい印象のないレーニス。 これは続き気になりますが大人しく現在に行きマース(*^^*ゞ υ´• ﻌ •`υクゥーン笑 花車様本日もよ…
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