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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第7章 幼女と皇帝

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083 逃亡者~この人、知ってる人だ~

 場所:リューグエンの森

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



 私たち『マレスの子』は家族としての結束を強くしながら、もう何ヶ月もイニシスの北に広がるリューグエンの森を彷徨っていた。


 ドーソンが言うには、ここはイニシス王国の北東のようだ。


 王都の北に投げ出された私たちはずっと、東に向かって進んでいるらしい。


 方向音痴の私にも、自分が西にある故郷のイコロ村から、どんどん遠ざかっていると理解できた。


 頭では帰れないとわかっていても、距離が離れれば離れるほど、途方もなく恋しさは募る。


 リューグエンは本当に広大な森だ。黙々と歩いていると、永遠にここから出られないような錯覚に陥った。


 だけど私たちは、そんなに森の奥にいるわけではなかった。


 森は奥に行くほど魔物が増えるし、買い出しのため、ときどきは街に行く必要があるのだ。


 このあたりをうまく調整しつつ、私たちの進路を決めてくれるドーソンは、とても頼りになるリーダーだった。



      △



 その日、私は買い出しに出るため、枯葉に覆われた茶色い獣道をドーソンと二人で歩いていた。


 そんな私たちの耳に、どこからか詠唱の声が響いた。



「あまたの炎の微精霊たちよ! この右手に宿り、われらの対敵を撃ち砕け! ファイアーバレット!」


「ヒヒーン!」「ぐぅぁ!」「ぎゃぁぁぁ!」



 馬や人の悲鳴も聞こえてきて、私たちは慌てて木の陰に身を隠した。


 激しい魔法攻撃の音が森の木々に木霊している。


 息を潜めてこっそり覗いてみると、揃いの緑の服を着た兵士たちが、茶色いローブを着た人たちを一方的に攻撃していた。


 馬車を引いていた馬も、乗っていた人たちも次々に魔法弾丸に撃たれて倒れていく。



――え? 人を殺してる!?



 血の気が引くのを感じながら覗き見ていると、『顔を出すな』というように、ドーソンにぐいっとひっぱられた。


 私が声をあげると思ったのか、手のひらを口に当てられ、しっかり抱きしめられてしまっている。



――やだ、はなしてよドーソン!



 そう思うものの、いまはジタバタするわけにもいかない。


 仕方なくそのままじっとしていると、すぐに戦闘は終わり、兵士たちの声が聞こえてきた。



「よし、あいつらの補給は断たれた。降伏してくるのももうすぐだな」


「弱いくせに盾突いてくるからだ」



 そんなことを言いながら、緑の服の兵士たちが去っていく。



「ふぅ……。行ったみたいだね」


「けっ、ケガ人が!」


「だめだよ、ミラナ。僕たちにはどうしようもない」


「でもっ」



 私はドーソンに掴まれた手を振り払って、ケガ人たちのもとへ走っていった。


 八人ほどの男女が倒れているけれど、よく見ると彼らも兵隊のようだった。皆揃いの紋章が入ったローブを着ている。持っていた武器は奪われたようだ。


 一人一人確認してみたけれど、みんなすでに息絶えていた。


 燃える弾丸を撃ちだすファイアーバレットで、身体中にたくさんの穴が開き服も焦げてしまっている。



「ひどい……! どうして、こんな……っ」


「どうやら、王都が消えた影響で、内紛が起こってるみたいだね」


「内紛!?」


「うん。さっきのは、イニシスの東に広大な領地をもつアリストロ公爵の兵隊だ。で、この人たちはアリストロの北にあるカルパン領の人たち。たぶん、アリストロが征服しようと侵略戦争を仕掛けたんだろうな……」


「どうしてわかるの?」


「僕はカルパンの出身だからね……。この人、知ってる人だ」


「えぇっ!?」



 死体の隣に膝をつき唇を噛むドーソン。だけど、私たちは本当にどうすることもできなかった。


 カルパンにしてもアリストロにしても、闇属性の私たちにとっては迫害者だ。


 家族が身を隠している森で、こんな人たちが戦っていたのでは危険すぎる。



「早く戻って、みなを連れて移動しないと。残念だけど買いものに行く時間はないな」


 そう言いながら、ドーソンは傾いた馬車のなかから、食料の入った袋を肩に担いだ。



「ドーソン、それ……」


「もらっていこう。買いものに行けない代わりだ。ミラナもこれ担いで」


「えっ、でもこんなの強盗みたいだよ……? それにこの人たち、放っておくの? 知り合いなのに……?」


「ミラナ。なりふりかまってられないよ。僕たちは逃亡者だ。逃げるので精いっぱいだよ。そして僕たちが守るべきは、いまの僕たちの家族だ」



 ドーソンの瞳に強い意志が感じられて、私はしかたなく、食料を担いでその場を離れた。



――そうよね。私もライル君を……、みんなを守らなきゃ。


――きっとこの人たちは、カルパンの人たちが埋葬してくれるよね。補給物資が届かないんだもん。気付いて様子を見にくるはず……。



 だけど、これがイコロ村の人だったりしたら、私は同じように、奪って逃げることができるだろうか。


『仕方ない』そう思いながらも、涙が溢れて止まらなかった。



      △



 それからまた、森のなかを移動し続けた私たちは、十分な物資を補充できず、半月ほどの間に困窮し、貧困にあえぐようになっていた。

 

 カルパンの兵士たちから奪い取った食料も、とっくに底をついてしまっている。


 周辺の街が戦闘中で、私たちは思うように買いだしに行くことができなかったのだ。


 比較的安全そうな街に行ってみても、物価が激しく高騰している。


 しばしば魔物に遭遇していたこともあり、みな移動や戦闘による疲労もたまっていた。


 体調の悪い人やケガ人も増えている。家族のなかには、森では手に入らない薬を必要としている人たちもいるのだ。


 魔物避けの魔石なども消耗品で、定期的に手に入れる必要があった。



――なんとか買い出しをしないと……。



 そんななか、私はドーソンに呼ばれ彼のテントに足を運んだ。


 ドーソンのテントはみんなのものより広くて、簡易なテーブルが置かれている。



「ちょっとミラナ、ここに座って」



 テーブルのうえに広げた地図に視線を落としたまま、彼は手招きで隣へ座るよう促してきた。


 言われるまま移動して座ると、地図が進行方向に向いている。


 彼は私が方向音痴だということを、よくわかっているのだった。


 子供に話すような優しい口調で、ドーソンは説明しはじめた。



「わかるかな? この辺りがアリストロだよ。そしてこの辺りには、だいぶん前から闇のモヤが広がってる」



 ドーソンが指先で地図を叩きながらいう。


 そこはリューグエンの森の北東の奥で、ドーソンにより黒く塗りつぶされていた。


 きっとこれはライル君の姉のエリザが、里帰りを断念した原因になったものだろう。


 魔物を生み出す闇のモヤは、昔からイニシス王国のあちこちで発生している。


 そして、本当ならそれは、すぐに王国軍の聖騎士が浄化しているはずのものだった。


 光の大精霊シャーレンの祝福を受けた聖騎士たちの役目は、本来ならそれに尽きる。


 だけど、近頃のたいへんな混乱のせいか、このモヤはいまも浄化されず、しだいに広範囲に広がっているらしかった。



 マレスの子として森を彷徨いながら、どんどんイコロ村から遠ざかっていくミラナ。


 王都が消失したイニシス王国では内紛が起こり、聖騎士たちが浄化しないせいか、闇のモヤも広がっているようです。


 買い出しに行けないミラナたちはどうなるのか。


 次回、第八十四話 検問~セイグリッドなんちゃら~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
王国の衰退にはざまぁ感がありますけど、物資の調達が滞るのは、この状況において非常に困ってしまいますね。 普通に暮らしていたとしても厳しい冬の森では……。 特に、魔物除けができなくなれば、精霊と魔法を失…
[一言] 花車様おはようございます! そして再びマレスの子達はなんと食料危機にも陥るとは!? そして内戦も起こり苦しい状況! これは過去なのだけど辛いなぁ。 ミラナ応援してる!
[良い点] ドーソンも都合がよすぎるくらいに頼りになりますね。 彼を疑う読者の方も多いのがわかりますが、信じたいところ。 しかし内紛ですか。 この混乱を権力者の優位な形で収めるべく当然の推移ですが、…
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