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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第6章 封印と古傷

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079 コロコロ~なんか色々おかしくね?~

 場所:貸し部屋ラ・シアン

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「シェイン解放レベル1」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――


「ベランカ解放レベル1」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



 ラ・シアンに戻った翌朝、ミラナはシェインさんとベランカさんをビーストケージから解放した。


 ミラナの敷いた毛布の上に、小さい獣が一匹と、ゴロンとした黒いなにかが転がり落ちる。



「きゃう!? なんだこれっ」


「あー、傷だらけ。とりあえず回復だね」


「お願い、シンソニー」



 ケージから出てきた二人は傷だらけだ。シェインさんと思われる小さな獣の胸には、いくつもの赤い切り傷がついていた。


 これは俺がつい感傷的になって、やりすぎてしまった傷だろう。


 ヒールをしても少々跡が残りそうだ。



――でもシェインさんもひどいから。俺、謝んねーよ。



 俺もシンソニーも、テイムされたときのことはまったく覚えていない。


 シェインさんがなにも思い出さないことを祈るばかりだ。


 きっと思い出したら、彼は俺以上につらいはずだ。


 シンソニーがヒールを唱えると、痛々しかった傷はみるみる回復した。



「ぎゃーぉ!」


「シェインさん、これ、ライオンの赤ちゃんかな。コロコロで可愛い! ミルクをどうぞ!」


「シェインさーん、俺、子犬だけどオルフェルです! わかりますかー?」


「まだぼんやりしてるみたい。ヤギ頭は……ついてないね」


「いや、それより……俺やっぱり、ベランカさんのほうがだいぶん気になんだけど……」



 あのかっこいいシェインさんが、こんなコロコロの赤ちゃんライオンになってしまったのは、俺も一応驚いている。


 大きさも子犬の俺よりずっと小さくて、生まれたてみたいだ。


 オレンジがかった金色の毛も、か細くてだいぶんふわふわしている。


 だけどそれ以上に、俺は隣にいるベランカさんが、意外な生物に変貌(へんぼう)を遂げていることに驚いていた。


 艶のある黒い背中と、ぽってりとした白い腹。


 舟をこぐ(オール)のような(フリッパー)や、まっすぐに伸びたクチバシは、俺やシンソニーの解放レベル1の姿に比べると、かなり強力そうに見える。



「なんでベランカさん、ペンギンなの? しかもなんか、最初からわりと大きくない? 俺すげー見下ろされてるぜ……」


「大人のペンギンだね。一メートルはありそうだよ」


「しかも、兄妹なのにライオンとペンギンって……。なんか色々おかしくねー?」


「そうかな?」



 だいぶんずんぐりしてしまったベランカさんを見上げながら、首を傾げる俺。


 シンソニーはなぜ、これに疑問を感じないのだろうか。


 ペンギンがしれっとした顔で、子ライオンの隣に立っているという、かなり不思議な絵面なんだけど。



「べ、ベランカさーん? 俺、オルフェルですよー? いまはちょっと子犬ですけど……。これから一緒に暮らすことになるんでよろしくでーす」



 恐々話しかけてみても、なんの反応もないベランカさん。


 まったく表情の読み取れないところが、ベランカさんの特徴を引き継いでいる気もしなくはない。


 そして、そんな彼女の足元には、かたい氷の板ができあがり、周囲にはパリパリと白い(しも)が降りていた。



「わ、ベランカさん冷気放ってるぜ? なんでレベル1からこんなに魔力使えるの?」


「わぁ涼しい~! ベルガノンの夏は結構暑くなるらしいから、うれしいね!」


「涼しいのとおり越してちょっと寒くないかな? いままだ春だし……」



 ラ・シアンの一部屋しかない俺たちの部屋が、ベランカさんの冷気でキンキンに冷えていく。


 俺は寒さは平気だけど、シンソニーがブルブルと身震いしはじめた。


 まだ寝ているキジーも毛布を手繰り寄せて丸くなり、最初は喜んでいたミラナも黙って分厚い肩かけを羽織る。


 あれっきりミラナは、子犬のときでも俺を抱きしめなくなってしまった。



――ミラナ、ほんとに我慢してるな。前なら絶対、こんなとき俺を抱きしめてたのに。


――でもミラナは俺のこと好きだからな! こんなのは長続きしねー。時間の問題だぜ……!



 ちょっとソワソワするけど、また大泣きされてもたいへんだ。とりあえず様子を見る俺。



――それにしても、ベランカさん、いまなに考えてんのかな。



 ベランカさんは、鼻水を出したシンソニーを小さな目でじっと見ている。


 俺もはじめて解放されたときは、かなり混乱したものだ。


 二人が人の言葉を話せるようになったら、俺たちはまず、なにを話せばいいだろう。



「やっぱり、ベランカさんの食べものは魚かな? 買いに行かなきゃ」


「買いものってこれ、みんな連れてくの?」


「うん。市場は結構遠いからね。やっぱり連れてかなきゃ」


「キジーは?」


「まだ疲れてるみたいだから、寝かせておこう」



 なかなか起きないキジーを残して、俺たちは部屋を出た。


 ミラナはシンソニーにシェインさんを抱かせると、俺を人間にしてベランカさんを持ちあげさせた。


 ずっしりとくる、なかなかの重量感だ。



「ちょ? ベランカさん、暴れないでください! いてっ!」


「やっぱり、シェインさんと離れ離れは不満なのかも」



 (フリッパー)をバタつかせ、ジタバタするベランカさん。このかたい翼はかなりの高火力だ。



「あ、そうだ。いいのがあるわ!」



 苦戦しながら外に出ると、ミラナは引越しに使ったという、大きな車輪のついた荷車を持ってきた。


 二人を乗せてみると、ベランカさんがシェインさんを短い足で挟み、ムニッとした下腹で包み込む。



――シェインさんがペンギンのヒナみたいにされてる!



 かなりの衝撃だけど、その体勢で二人はすっかり落ち着いたようだ。



「相変わらず仲いいね」


「さっそく魚を買いにいこう!」



 ミラナは地図をクルクル回しながらも、普段はあまり行くことのない、王都の南を目指して歩き始めた。



 ラ・シアンに戻り、解放されたシェインとベランカは、それぞれライオンとペンギンになりました!


 ベランカさんはあんまり巨大化しない代わりに、最初からちょっと魔力高めみたいです。


 六章も次回で最終話! ミラナたちはお魚を買いに行きます。


 第八十話 春うらら~たとえどんなに広くても~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
子ライオンはともかく、まさかのペンギン!? しかも成鳥! 黒い何かの時点でもまったく予想できませんでした笑 でも、どちらも可愛いですね。 ころころシェインさんとずっしりベランカさんを交互に抱き上げて…
[良い点] なぜにペンギン(笑) でもツンツンして無表情、さらにシェインさん以外と話してるの見たことない気がするので、ピツかも? 反対にシェインさんは赤ちゃんらいおん!? 見たい。ぜったいかわいい(…
[一言] テイムされたシェインさんはライオンの赤ちゃんに!そしてベランカさんはペンギンに! しかもベランカさんは大人ペンギンなのかもしれない(・Θ・) これは楽しいな! ちなみに俺が花車様にテイムされ…
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