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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第6章 封印と古傷

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077 ライオンの夢1~グレイン、どこだい?~


 場所:夢の中

 語り:シェイン・クーラー

 *************



――――――――



――夢を見ていた。星空に浮かぶ不思議な神殿のなかで。



――――――――



「グレイン! グレイン、どこだい? 隠れてないで出ておいで」


「おにぃさま、グレインはどうして、あんなにかくれんぼが好きなのかしら」


「どうしてだろうな。ベランカ、一緒に探してくれるかい?」


「よろしくてよ、おにぃさま」



 幼いころ、私、シェイン・クーラーは、すぐにどこかに隠れてしまうグレインを、いつもいつも探していた。



――まったく、困った弟だ。元気がいいのはいいことだけど、もっとしっかり勉強させないと。新しいお父様とお母様に申しわけないよ。



 両親を亡くした私は七歳のころ、弟とともに遠縁のクーラー家に引き取られた。


 新しい土地に、新しい両親。慣れないことが多すぎて、私は少し戸惑っていた。


 新しいお父様は、いくつもの領地を所有するクーラー伯爵だ。


 白髪交じりの立派な口髭を貯えた上品な紳士であったが、どこか素朴で穏やかな人だった。


 お母様になったクーラー婦人も、病弱ではあるが花のように美しく、心優しい。


 そして、私たち兄弟を実の子のように可愛がってくれた。


 妹になったベランカは六歳。すまし顔をしたお嬢さんに見えたが、幼いながらも優雅な振る舞いが可愛いらしい。


 意外とすぐに私に懐いて、私のあとを付いてくるようになった。


 なによりも、私たち兄弟を引き離さず、一緒に引き取ってもらえたことがうれしい。


 私にとってグレインは、この世界にただ一人の、血のつながった大切な弟なのだ。




 幸運にも素晴らしい家族に恵まれた私だったが、イコロ村があまりに田舎すぎて、はじめは少し驚いた。


 しかし、この村はほかにはないくらい安全で、居心地のいい場所だった。


 立派な城壁はないものの、守護精霊持ちの魔導師が多く、村の警備も万全に見える。


 クーラー夫妻は、街を大きくすることより、精霊と共存することのほうがよほど大切だと考えていたのだ。


 村周辺の豊かな自然を守りつつ、村人の魔法訓練にも力を入れているようだった。


 魔法を覚えることは、人々が精霊たちとより心を通わせることにもつながるのだ。



      △



――こんなにいい環境で、よくしてもらえるなんて幸せなことだな。


――クーラー夫妻の期待に応えられる、立派な後継にならないと。



 私たち兄弟は、貴族の遠縁とはいえ平民の暮らしをしていたため、貴族らしい振る舞いというものができなかった。


 しかしまだ、私たちは五歳と七歳だ。これからいくらでも勉強できる。


 勉強や訓練が始まると、私は懸命に取り組んだ。


 しかし、グレインはもともと、やんちゃがすぎる弟だ。


 高価な皿を割ってみたり、勉強や訓練の時間になるとどこかへ隠れたりと、とにかくまったく落ち着きがない。



――グレインの明るさは可愛いところではあるんだけどね……。どうにも心配が尽きないな。病弱なお母様にも、あんなに手を焼かせてしまって……。



 いま思えば、両親は弟のやんちゃな部分も、気にせず可愛がってくれていたと思う。


 しかし当時の私は、どうしても申しわけなく感じてしまった。


 そういうわけで私は、自ら弟に勉強を教えるようになった。


 両親が雇った顔の怖い先生では、よけいにグレインが逃げてしまうからだ。


 隠れているグレインを探し出しては、捕まえて勉強させる。いつしかそれが、私の日課になっていた。


 ベランカも私を助けるため、いつも一緒になってグレインを探してくれる。


 そんなある日、私たちは屋敷の前でグレインと同じ赤い頭を見つけ、後ろから声をかけた。



「グレイン、勉強の時間だよ。戻って勉強しよう」


「グエイン?」



 振り返った少年は、私を見て首を傾げた。後ろ姿は弟にそっくりだったが、目鼻立ちがはっきりして、弟よりいくらか整った顔立ちだ。


 しかし鼻水が出ているし、弟と同じであまり賢そうには見えない。


 まぁ、五歳児なんて、みんなそんなものなのかもしれないが。



「ごめん、弟のグレインと間違えたみたいだ」


「ん? グエインのおにぃちゃんとおねぇちゃん? グエインさがしてりゅの?」


「うん、どこにいるか知ってるかな?」


「うん! ぼく、グエインとかくえんぼしてりゅ! ぼく、おに!」


「君は……?」


「ぼく、おりゅふぇりゅ!」


「そうか、オリュフェリュ。一緒にグレインを探してくれるかい?」


「うん!」



「レ」と「ル」が言えない彼の名前が、オルフェルだとわかったのは、それから一時間後のことだった。


 グレインは全然知らない人の家にあがりこみ、お年寄りと話し込んでいたのだ。そのうえ、お茶とクッキーをいただいて、そのまま昼寝をしてしまっていた。


 こんなの見つけるのは絶対無理だ。


 しかし、オルフェルは突然、「あっ!」と叫んだかと思うと、そのお年寄りの家にあがっていった。



「じりゅふばぁちゃん! グエインきてりゅー?」


「おー、オルフェル。グレインなら気持ちよさそうに寝ておるよ」



 二人が勝手にあがりこんだそこは、エニー・ニーフォルの祖母の家だった。オルフェルが元気に声をかけると、私たちは優しい笑顔で迎え入れられた。


 エニーがお年寄りとクッキーを食べながらキャッキャと話をしている横で、グレインはグーグーと寝息を立てていた。


 毛布をかけてもらい、ずいぶんと幸せそうに眠っている。人の気も知らず呑気なものだ。だけどその幸せそうな寝顔を見ると、私はホッと胸を撫でおろした。


 大切な弟が誘拐されてしまったのではないかと、実は少し、不安になりはじめていたのだ。



「ここにいたー! めちゃくちゃさがしたー!」



 オルフェルは寝ているグレインに駆け寄って腹の上にまたがると、問答無用でグレインを叩き起こした。



「いってー! あーっ、めっかったぁ」


「かくえんぼちゅうに、ねりゅなぁー!」


「ぎゃはは! すんげーねたー!」



 楽しそうにゲラゲラ笑っている二人。いったいいつの間に、こんなに仲よくなったのだろうか。


 引っ越してきたばかりの弟に、新しい友達ができたことが、私は素直にうれしかった。


 ついつい緩みそうになる表情を、少し厳しく作り直して、私は弟に声をかけた。



「グレイン、こんなところで、なにしてるんだい? 勉強の時間が終わってしまうよ」


「にーちゃん! オレべんきょーいやだぁぁー!」


「ぼくもべんきょーいやだぁぁー!」


「「ぎゃはは」」



 よく似た赤毛の少年二人が、まるで双子のように声をそろえるのを見て、私は思わず苦笑いを浮かべた。



「すみません、弟がご迷惑をおかけしました」


「えーよ、えーよ。楽しかったよ」


「帰るよ、グレイン! オルフェルもおいで」


「えー!? ぼくもクッキーたべてくー!」


「うんうん♪ オル君も一緒に食べょ☆ ジルフばーちゃんのクッキー美味しいょ♪」



 エニーが眩しいほどの笑顔を浮かべて手招きすると、オルフェルは嬉しそうに彼女の隣に座り、さっそくクッキーを食べ始めた。



「あんたたちもここに座って、クッキー食べていきな?」


「いえ、僕はそんな……」


「おにぃさまん。わたくしも、あのクッキーをいただきたいですわ」


「えぇっ……!?」



 急いで弟たちを連れ帰ろうとしていた私だったが、可愛いベランカに見詰められると断れない。


 私は結局、言われるまま席に座り、お茶とクッキーをいただいてしまったのだった。



 今回ははじめて、シェインの語りでした。


 クーラー家に引き取られてきたころの記憶を夢見るシェイン。


 ちょっと手のかかる弟のお世話に、結構やりがいを感じていたようです。


 ジルフばーちゃんは「第二章 第二十六話 ゼヒエス~僕の守護精霊~」にも登場しました。クッキーを作って子供とお話しするのが大好きなエニーのおばあちゃんです。


 第六章はあと三話になります。そこで第一部は完結です。


 次回、第七十八話 ライオンの夢2~すまなかった~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
オルフェルとグレインのシンクロ率が高すぎます! 二人揃って無邪気なガキんちょぶり、微笑ましい。 きっと村の愛されキャラだったんでしょうね。 ……と言うか、シェインさん&グレインとベランカさんは義理の…
[一言] シェインの過去であろう話。 ベランカ、そしてグレイン。 オルフェルもいて温かな過去。 切なくなる話ですが続きを楽しませていただきますね(´꒳`*)
[良い点] シェインにとってグレインは血のつながりがある、唯一の家族だったのですね。 両親をなくして色々あったでしょうから、執着心が激しいのも納得です。 オルフェルの幼児時代はバカっぽいのが嵌りすぎ…
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