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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第6章 封印と古傷

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075 モヤモヤ~元気ないね?~


 場所:スビレーの遺跡

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************




「ほんとお疲れ様! 無事に終わってよかったね、ミラナ!」


「ありがとう、キジー!」


「テイムは順調だったね。二匹ともわりとすぐ成功してたし」


「本当にありがとうございます! カミルさん!」



 カミルさんの感心した声がする。遺跡から出てきた俺たちは、封印の見えない壁の前で、最後の挨拶をしていた。


 ミラナはさっきから、もう何度目かわからないくらいに、お礼ばかり言っては、深々と頭をさげている。


 ほっとしたのか、テイムが終わってから泣きつづけていて、いまも目の周りがかなり赤い。だけどその表情はスビレー湖の夜空に瞬く星のように輝いていた。


 遠目から見ている俺にも、彼女がいま、達成感で高揚しているのだとわかる。



「皆さんのおかげです。本当に本当に、ありがとうございました!」


「いやいや、いいものを見せてもらったよ。あんな巨大な魔物をテイムしてしまうとは。皆で弱らせたとはいえ、聞いていたとおりすごいな」


「驚きましたわ。うまく調教できれば、すごい戦力になりそうですわね」


「防衛隊からもギルドにたくさん依頼を出してるから。今後の活躍に期待してるよ」


「はっ、はい! 頑張ります!」



 腕組みをして頷く騎士団長の隣で、カミルさんも感心した様子でミラナを褒めてくれた。


 マリルさんも優雅な微笑みを浮かべて、ミラナに期待を込めた視線を送る。

 

 ミラナは涙を拭いながらも、力強くそれに応えた。


 マリルさんが馬車に乗り込むと、エロイーズさんも御者台に座る。



「シンソニー大きくてびっくり。これもらっても?」


「どうぞどうぞ!」



 クレーンさんは、戦闘中に舞い散った双頭鳥の羽を拾い集めていた。シンソニーが笑顔で答えると、被っていた茶色い帽子に飾り付け、満足げに笑っている。


 彼はシンソニーが気に入ったみたいだ。人間に戻ったシンソニーと握手して、彼も馬車に乗り込んだ。


 俺は、コルニスさんにあらためて傷を見てもらいながら、ぼんやりとそんな様子を見ていた。


 たいしたケガはしていない。ただ、少し気持ちが落ちてしまった。


 ずっと俺の闘士を沸き立たせていた、『攻撃モード』が終わった反動かもしれない。



――マリルさんたちと、もっと話したかったのにな……。うぅ。なんか、気力がわかねー。



 マリルさんたちを乗せた馬車が動き出し、ミラナが手を振っている。


 ミラナはもしかすると、魔力が尽きかけなのかもしれない。


 あんなに暴走したというのに、俺はまだ人間のままだ。


 あのとき魔力に余裕があれば、彼女は俺を犬にするなり、沈静化するなりしただろう。



「事情はよくわからないけど、なんだか、かなり気落ちしてるようだね……? もうどこもケガはないけど美味しいものでも食べて、気持ちを休めたほうがいいですよ」


「はぁ……」



 木にもたれてうえを向いたままの俺に、コルニスさんが、優しく声をかけてくれる。


 こんなたいへんなことを手伝ってもらっておいて、ろくに礼を言う気力もないとは。



――情けね……。



 俺は心の中で、少し自嘲気味に呟く。



「じゃぁ、私たちもいくよ。元気のないワンコ君が少し心配だが、仕事にもどらなくてはならない。街まで送ってあげられなくてすまないな」


「いえいえ、とんでもないです!」


「アンタと風になるなんてごめんだよ」


「そうだったな。気をつけて帰るんだぞ」



 俺が凹んでいる間に、騎士団長たちも風になって飛び去ってしまった。みなの心配と気遣いが、重い心に刺さっている。


 助っ人の皆さんの姿が見えなくなると、ミラナたちも俺の周りに集まってきた。



「オルフェ、大丈夫……?」


「どうしたのさ。本当に元気ないね? 三頭犬……」



 シンソニーは俺の前にしゃがみ込み、ぼんやり座っている俺の顔を覗き込んだ。キジーも珍しく心配そうだ。



「オルフェル……。ごめんね、カームダウンがなかなか効かなかったから……」



 ミラナは自分の混乱攻撃のせいで、俺が傷ついたと思っているようだ。闇属性のミラナが、自分を責めるのはあまりよくない。



――いつまでも、こうしてるわけにはいかねーか。



「いや、ミラナのせいじゃねーよ」



 俺はなんとか気力を搾り出し、立ちあがった。


 本当なら、念願のテイムに成功したミラナと、手を取りあって喜びたかった。


 それができず、楽しいはずの雰囲気を台無しにしている自分が嫌だ。その悔しさが、さらに俺の胸を抉っている。


 だけど今回ばかりは、俺も無理にははしゃげなかった。



――いまは、ミラナたちにケガさせず、無事に帰ることだけ考えよう。


――みんなになんかあったら耐えらんねー。



「心配かけて悪い……。でも大丈夫だ。帰りも油断できねーからな。気合い入れるぜ」


「そうだね。気を抜いてちゃ危ないよ」



 俺は来たとき以上に気を張って、慎重にもときた道を引き返した。



      △



 辺りが暗くなりはじめたころ、俺たちはまた、スビレー湖にたどり着いた。



「急がないと真っ暗になっちゃうね」



 バックから出した食材を慌ただしく調理しながら、ミラナが少し、焦った声を出した。


 今日もまた、俺たちは昨日と同じ場所で野営することにしたのだ。


 ここも安全なわけではないけど、森のなかはどこも危険だ。


 それなら少しでも、景色がいいほうがいいだろう。


 ここなら水もあって、風呂にも入れる。



「まぁ、暗くなっても火ならいくらでも出せるぜ」


「だめだよ。今日はもう、魔力使わないでね。見張りも私たちでやるから、オルフェルは寝ていいよ」


「そうか……。え? 風呂は?」


「そんなの、毎日入らなくても大丈夫だよ」



 さっきから、俺が魔力を使うのを、ミラナが嫌がっている。


 いくらでもあるように感じる魔力だけど、使いすぎると気力が落ちるらしい。



――ミラナ、相変わらず不器用だけど、野営は本当にへっちゃらみたいだな。



 魔物も出る森のなか、手慣れた様子で野営するミラナに、俺はいまさらながらに首を傾げた。


 虫を嫌がったり、汚れるのを嫌ったりする様子もない。


『お風呂に毎日入らないなんて不潔だよ』なんて、彼女がすごく言いそうなんだけど。



――俺は風呂入りたかった。



 仕方なく、テントを組み立て、なかに入ってぼんやりする。


 昨夜は一度も入らなかったけど、入ってみると思った以上に狭いテントだ。


 やっぱり俺がミラナやキジーと一緒に、ここで寝るのは無理がある。



――そういや俺、昨日寝てなかったな。


――なんにも手伝わせてもらえねーし、スープができるまで寝るか……。



 皆が寝るころにどけばいいだろうと、俺は毛布のうえに転がった。


 少し目を瞑ると、ものすごい眠気が襲ってきて、俺は夢のなかに落ちていった。



      △



 ふと目が覚めると、ミラナが俺の隣に寝ていた。


 狭いテントのなかだ。寝息がかかるくらい近い。


 彼女の細い指が、しっかりと俺の手を握っている。


 長いまつ毛が彩る白い肌。

 桃色に色づいた頬と唇。

 サラサラと流れる薄茶の長い髪。



――ほんと、可愛いな。



 愛しさが胸にこみあげて、俺は少し体を起こし、その頬に唇を寄せた。



「うん……オルフェル……?」


「ミラナ、おはよ」


「おはよ」



 俺がミラナを見詰めると、ミラナはまだ眠そうな顔でふふっと微笑む。


 彼女が顔を寄せてきて、俺たちは唇をあわせた。



――ミラナ、やわらけー……。



 唇を離すと、ミラナが幸せそうに俺に抱きついてくる。



『すきだよ……』




「俺もすき……」


「げげっ、触んないで? なに? すけべな夢みてんの? 最悪」


「いてぇっ」



 すごい衝撃を感じて目をあけると、俺の腹部にキジーの蹴りが入っていた。


 寝ぼけてキジーの膝を触ってしまったようだ。



「もう、寝るんだから、そろそろ出ていってよ」


「ぐっ……すません……。キジーさん、まさか、俺の寝言、聞いてた?」


「いいからでてっ。キモちわるい! よだれ出てる!」


「ぐふっ」



 キジーが真っ赤な顔で、俺にふたたび蹴りを入れた。


 なにか恥ずかしい寝言を、聞かれてしまったようだ。



――ゆ、夢だったのか!? いや、これは完全に記憶だな……!?


――やべー、なにあれ!? 当たり前みたいに一緒に寝てたけど!?


――くそー! まだ俺、なにも手出してないのに……。



 顔が熱くなるのを感じながらテントを出ると、そこはやはり、見覚えのある景色だった。


 そして、湖の前に、ミラナがぼんやりと立っていた。



 シェインたちのテイムが無事に終わり、皆が別れの挨拶をするなか、いまだ落ち込んでいたオルフェル君ですが、とりあえず仲間を守らなければと思い立ち、気合いを入れなおします。


 スビレー湖に戻り、ひと眠りした彼の脳裏に、またミラナと恋人だったころの記憶が……。


 思った以上のイチャイチャっぷりにちょっと戸惑うオルフェル君ですが……。


 次回、第七十六話 できない約束~ツヅミナの舞う夜に~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 夢でした! いや、記憶!? まさに恋人同士な雰囲気、いつかまたあんな風になれたらいいですね。 いい夢とたっぷり睡眠で魔力切れのガチ凹みモードから回復できたでしょうか? 落ち着いたとこ…
[一言] オルフェル、わりと単純で、いろんなことに喜ぶ性格をしていますが、こういう性格の人って、裏表がないから付き合いやすいでしょうし、楽しくて、しかも上司などから可愛がられる性格ですよね。学園でもフ…
2023/09/19 13:57 退会済み
管理
[良い点] ラブラブシーンにしっかり騙されました! まさかの夢オチ(笑) おかげで益々過去の二人がきーにーなーるー! 展開でした。 [一言] ミラナ、どうしたのかな。 また読みに来ます
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