071 遺跡と冒険者~解けかけの封印~
場所:スビレーの遺跡
語り:キジー・ポケット
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ミラナと協力者の魔導師たちを連れ、アタシ、キジー・ポケットは、封印された遺跡のなかに踏み込んだ。
封印された遺跡は、たいていがグレーの石レンガでできた、蔦の絡まる古い建物だ。
多分魔法で自動的に作られた建物なんだろうね。なかはかなり広くて、奥にも地下にも、迷宮のように広がっているよ。
乱雑に配置された四角い部屋に、特徴のない寒々しい廊下や階段が複雑につながれている。
完全に侵入者を迷わせようとしているような作りだよ。
廊下の先にある部屋のなかはたいてい罠だらけだけど、よく探すとキッチンや食堂、寝室のような生活スペースもある。
それから、たくさんの本が貯蔵された図書室、怪しい魔道具が置かれた研究室なんかもあるね。
不気味なのは、地下に広がる大きな牢屋かな。
そして、この遺跡にかけられた封印は、恐ろしく強力なものだよ。
すごい大魔導師のアタシだけど、この封印がかけられたばかりだったら、きっとなかには入れなかっただろうね。
封印魔法がかけられてから三百年がたって、遺跡の封印は自然に解けはじめてる。
そうじゃなければ、ここの封印も、アタシが穴を開けるのは難しかったはずだよ。
ミラナと双頭鳥……(って呼ぶとシンソニーは怒るんだけど)がいた遺跡は、どっちもすでに外側の封印が解けてたんだ。
だから、遺跡のなかはアタシ以外の冒険者が、入って荒らしたあとだった。
最近は、冒険者になるのが流行ってるから、封印が解けた遺跡には、冒険者たちが入り込んでる。
冒険者が増えたのは、五年前にできた冒険者ギルドの影響だね。
彼らは魔物を退治して報酬をもらったり、遺跡や洞窟にある宝を漁ったりして稼いでるんだ。
まぁ、アタシは後者なんだけど。
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「最上級探知魔法・パーフェット・ディーティクマーレ!」
遺跡に入ると、アタシは最上級の探知魔法を発動した。
これは、初級探知魔法の熱源探知から、中級探知魔法の魔力探知、罠探知、呪い探知、さらには上級探知魔法の封印探知まで、いっきに発動できる便利な魔法だよ。
こんな魔法が使えるのは、世界広しといえどアタシくらいじゃないかな? というか、アタシの作った魔法だからね。呪文もアタシ好みにしてる。
最上級魔法って、だいたいだれかの固有の特技みたいなものだから、呪文が独特だよね。
といっても、やっぱりこれを発動すると消費魔力が大きいから、いつもは熱源探知と魔力探知くらいしか発動してないんだけどね。
この二つは、魔物や人の位置を知るために発動してる魔法さ。
あとは、遺跡のなかは罠や呪いがいっぱいだから、罠探知と呪い探知もしておかないと、たいへんなことになるよ。
それから封印探知は、隠し部屋を見つけるのに便利だね。
「安全確認よーし!」
皆の命を預かってるから、安全確認はしっかりしないとね! こう見えてアタシ、慎重派なんだ。
「最上級探索魔法・エンプリーズスピチアーレ!」
さらにもうひとつの自作魔法で、遺跡内の空間を完全に把握。アタシの頭には、ここの地図がばっちりできあがった。
普通は絶対見えないような隠された道や扉だって、アタシには全部見えてるよ。
シンソニーやミラナは、封印が解けた遺跡の奥の、封印された隠し部屋にいたんだ。
アタシ以外には、ただの石の壁にしか見えない、完璧な隠し扉だったよ。
だから、冒険者たちに発見されないまま、二人は荒らされた遺跡に残ってた。
だけど、隠し部屋の封印が解けるのも、時間の問題だっただろうね。
あんまりほっとくと、ミラナの仲間の魔物が、冒険者たちに見つかったり、封印を抜けて外に出てきたりする可能性があるよ。
そうなると、たいへんだ。
だって、双頭鳥も三頭犬も、かなり凶暴だったから。
たぶんいっぱい被害者が出るし、すぐにベルさんたちみたいな、強い魔導師たちが集結して退治するだろうね。
三頭犬なんかは、もうその寸前だった。アタシより先にベルさんが見つけてたからね。
遺跡から出ようとする三頭犬をなんとか封じ込めながら、どうやって退治するか、考えてる最中だったよ。
ベルさんが自分の弟子のナダンさんに声をかけなかったら、三頭犬はきっと倒されてたね。
だから、ミラナは仲間の魔物の特徴を、全部アタシやベルさんに教えたんだ。
そして、見つけても倒さないでねってお願いした。
ベルさんは優しいから、弟子の弟子であるアタシとミラナのお願いは、だいたい聞いてくれるよ。
会うたびに可愛いって言って、ぎゅうぎゅう抱きしめられるのはちょっと困るんだけどね。
△
アタシたちは、遺跡のなかを慎重に進んだ。罠があるから、うっかり踏むと、道が落とし穴になったり、壁から矢が飛び出してきたりするよ。
それも強烈な闇の魔力が込められた矢で、無限みたいにいっぱい出てくる。
この遺跡を作った人は、いったいどれだけ魔力を持ってたんだろうね。
アタシでもちょっと信じられないくらいの、桁違いの魔力だね。
だけど、アタシの探知があれば、罠にも引っかからないし、戦闘も最小限で済む。
この遺跡には、やばい魔物がいっぱいいて、魔物が守ってる部屋もあるんだよ。
倒して進めば、たぶんすごいお宝があるんじゃないかな?
だけどアタシは、魔物が守ってる部屋には絶対近づかない。
だって、怖いからね。
安全に入れる部屋のお宝が、アタシの獲物さ!
まぁ、今日は宝探しに来たわけじゃないから、ミラナの仲間がいる部屋以外はとりあえず無視だよ。
この間来たとき少し探索したけど、結構広いからね。ちゃんと探せば、まだまだお宝が眠ってるかもしれないよ!
「ついたよ、キマイラとフロストスプライトがいるのはこの奥さ」
「えっ!? 奥って、石の壁しかねーぞ? どうやっていくの? これ!」
「はいはい、期待どおりの反応ご苦労様だよ、三頭犬! この石の壁は見えてるだけで存在してないのさ。幻覚みたいなものだよ」
「すげー! 本当になんでも見とおせるんだな、キジー!」
「まぁね!」
「うわぁ、俺、今年いちばん驚いたかもしんねー。つくづくミラナを見つけてくれたのがキジーでよかったぜ」
「そうだろ!」
「ここまでとは思ってなかったぜ! 宇宙一の大魔導師だな!」
「う、うん」
「いや、心底感服したぜ!」
「そんなに褒めてもこれ以上はなんにも出ないよ……?」
「ほんとすげーなっ」
――まったく、この三頭犬は、とんだたらし犬だよ。
キラキラの笑顔で無邪気に褒めまくる三頭犬に、アタシは思わず苦笑いを浮かべた。
だって、三頭犬の後ろで、ミラナが不満げな顔をしてるからね。
――褒められたからって惚れたりしないよ? そもそも、全然アタシの好みじゃないから安心してよ。
そういうつもりでミラナに視線を送ったけど、あれはだいぶんムッとしてるよ。
両想いなのになんだろうね。めんどくさいよ、この二人は。
そんなことを考えながら、アタシは小さくため息をついた。




